第一回きつね童貞文学大賞|感想置場(その3)終
第一回きつね童貞文学大賞|主催者:狐
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作品リスト
031|あのマンガ
032|いとしのマリー
033|朽ちたクジラの死骸のように
034|ビバ☆フタリ
035|誰とも繋がれない
036|恋愛未満
037|産月記
038|灰と蟒蛇(うわばみ)
039|童貞の俺が恋をした。/夕日ゆうや
040|タイムトラベル・ノベル/福永 諒
041|誰が為のジョイスティック/@JACK_RED_NIGHT
042|取鳥様の巫女と燭台/柴田 恭太朗
043|get out !!!/亮
044|I Love (or You Love)/大村あたる
045|純けつ/@akuzume
046|ドロドロボコボコ/技分工藤
047|くすぶり/myz
048|ΣΧΕΔΙΟ ΕΠΙΝΟΙΑ/@Pz5
049|童貞税/阿下潮
050|老人と柿/坂水
051|臆病者/宮塚恵一
052|give it back/アオイ・M・M
053|新入社員/神澤直子
054|初鰹/百歳
055|ちんちんが大きすぎたおおかみのお話/獅子吼れお🦁Q eND A書籍版7/25
056|思い立った彼に恥はないのか/黒本聖南
057|知らんことにしといて/おくとりょう
058|まだ達/るつぺる
059|童貞が聞きたくなかったセリフを聞いた話/まらはる
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あのマンガ
これも独白がおもしろいお話だった。小さい頃に読んだえちち漫画が、めちゃくちゃすきだし影響もうけたのだけれど作者名もタイトルもわからない、というもの。えろに興味のある少年と、そこから成長した彼のお話ではなるのだけれど、纏っている空気感が淡々としているのがよいと感じる。童貞のお話というよりは、記憶にこびりついているのに答えに永遠たどり着けそうにないなにかのお話、とは思うものの、作内での云々の示しはどことなく、純な文学の香りすらあった気がする。回想のていで事象を描く筆致が、どちらかというと乾いているのがいいのかも。西海岸ぽいのかもしれない。すっと読める短篇という感じで、すきだった。
いとしのマリー
付き合っていた女の子が男の子だった、というところからはじまるが、語られてゆく事柄はどこか逃避のようなものがあるのが特徴的なお話。主人公は彼なのだが、彼が目撃した彼女(彼)の話、というていをとっているのがこれだと思う。これも童貞のお話というよりは、どことなく犯罪小説の香りを漂わせているお話、という印象があった。少年の日の思い出というようなもので、ちょっと変わった空間や人がそこにある中で、それに対して思いを馳せる、それによってそこにあった幻想をたしかなものにする、そういうお話だと思う。最終的に遺体がみつからないところでおわるのが、最後まで彼(彼女)のことがわからない、そこまで深く潜り込もうとしたわけではなかった、これは恋ではなくあこがれだった、という味がしてすきだった。
朽ちたクジラの死骸のように
文章を「、」で紡いでゆく文章で、泉鏡花氏を思い出した。薬草取かなにかを読んだときの実感が近い気がしている。これはなんというか、小説というよりは浪曲とかそういうものがイメージされる気がしていて、だから、なんらかの演奏に合わせて目の前で言葉として語られてゆく、朗々と紡がれてゆく言葉をイメージするのがよい小説であると感じる。だからリズムが大事で、この、リズムに乗せて吐露をしてゆくところに童貞性としての旨味があるように感じた。
小説としては、実は勤続10年目のお祝いを受け取ったシーンで終わった方がポエットな趣になった気がする。気がするのだけれど、そこをあえて通り抜けて、きちんと、ただただその後を提示しているのが童貞力を高めている気がする。すっきり終わることはなく、幻想として抱いていた事象はあるささいなきっかけをもって崩壊してゆく、それによって、自分の支えというか指針としていた事象が失われ、自分がなくなった気になり、まったくもって立てなくなる。そんなようなことを書いていると思った。
読めば読むほど思うが、童貞性を拗らせている人々はみんな、めちゃくちゃ記憶力があって、よくわからないがすごいと思う。ぼくであれば忘れてしまうようなことをきちんと覚えているし、エピソードとして機微をもって語れるのが強いと感じる。記憶力がよいからこそ、それを大事にして、思い出というかたしかにあった幻想としてパッケージをして封をする。それが大事な気がする。だからこそ尊さを抱いたまま生きるし、そこへ現実が訪れたときにそれは崩壊するのだと思う(記憶は記憶のままで、そこで終わりでないといけないため。そこにあるのはただ過去であり、未来が存在してはいけない)
ビバ☆フタリ
個人的には、読みながらこの主人公は友人の彼に恋慕をしているのかなとぼんやり思っていたが、そういうお話ではなかったらしい。最後の言葉からしてそう感じたのだが、強がりでそう云っているという複雑な心境がある、という風に読むことも出来るかもしれない、が、なんともわからない。個人的にはそういう恋愛観のお話として読んでいるのがおもしろかったので、ラストの台詞がこうではあるが、そういうお話として解釈したくはある。むずかしい。男の子に彼女ができたことをぼやぼやと悩む男の子のお話というか、自分のこの、揺れる心象をうまく表せないもどかしさを字数をしっかりかけて書いているお話という気がした。
誰とも繋がれない
男がなにか、普段と違うことをするようで、結局しない、という話だった。たぶん彼は動作としてこだわりが出るほうで、想定した通りのものにならないと困惑が勝るのではないかと感じる。なのでソープへいこうとしたときも、身体として体験したい欲求を、思った通りに果たせないと知るや、諦めてしまったわけで、たぶんそういう風にして諦めたことがごまんとある方な気がする。これはしかし難しいもので、人間は摩耗してゆくというか、どうあがいても状況によっては腐ってゆくもので、抜け出そうにも労働という疲労に苛んでどうにもならない、なんてことが多々ある。そうした状況、動向、思考を端的に書いている小説と思った。繋がれない人間を書くとして、ではなぜ彼がこのような人間性を有しているか、意志としては思い浮かぶこともあるのにそうしないのか、をやってると思った。個人的には童貞性というよりは、疲弊した人間、歳をとり体力がなくなった人間、身体が思うように動かなくなってきた、若者ではなくなりつつある人を描いた話と思った。思考がなんらかを酷く嫌悪する方向には向いていなさそうなのがまだ、救いなのかもしれない。
恋愛未満
ショック療法で恋愛未経験状態をどうにかしようとしたお二人のお話だった気がする。ここにあったのは気まずさというか、普通はそうはならないはずのものが起こった地平というか、なんにしてもショートカットをしたかった、のだと思う。けれどもそこで問題になるのは、それを行使するのが人間であるということで、だから、その結果として、ショートカットの先へゆきたいが感情がついてこなくて怖くなる、動けなくなる、ということと感じた。頭でものを変に考えすぎる方が、どうにかしようとしたときになるやつなのかもしれない。そういうお話だが、小説の味はわりと軽やかというか、ドギマギするお二人がただただ描かれている感じが良かった気がする。現在読んでいて思うのは、ねちっこさがあるときとないときの差はなんだろう、ということで、ひとつ鑑みるにこれは、ポエティックに自分の話ばかり吐露しているときに発生するものなのかもしれない。独白としての文を書いている以上そうなるが、その、自分語りをするときに、自分に対してどのくらいフィルターをかけるか、出力の格好をよくしようとするか、みたいなことなのかも。という意味ではこの小説は、飾り方すらわからない、という感がちゃんと出ていたのがたぶん、よかった気がする。男女のドギマギさっぱりとしたドギマギがあり、それがすきだった。
産月記
うんちのお話だった。うんちをきっかけにして友達になった男と再会して、昔とやっぱり変わらないなと確認をするお話だった気がする。そこに、ちょっとしたSF的な要素が這入り込むのが特徴的で、それらがしっかり語られるかというとそういうことはなく、あくまでもすこし不思議な世界観のためのフレーバーめいた印象だった。デリバリーヘルスとしてやってくる血を採る献血用自動人形という設定は普通にすきで、個人的には正直、この一点でわーっと攻め立てたうえで、そこに童貞性のなんらかのお話があるなんらかを読んでみたかった。けれどもなんというかこれは、そういう世界はあるけれどそこで喋る二人はセトウツミという漫画に出てくるような男子二人ですよ、みたいな味をしているのが良いのかもしれない。そういう世界はあるが、その世界は当たり前のものとしてそこにあるから説明する必要のないもので、あくまでもこれは、うんこによって友達になった二人が再会し、一瞬どきっとするが、けれどもやはりうんこによって、やっぱり変わってないなと、その質感を再確認する充足だけがあるお話なのかもしれない。だからこれは、ものを語っているわけではなくて、淡々と確認をし実感をするお話、という風に受け取った。童貞のお話というよりは、久しぶりにあった友達との関わりのことを書いたエッセイめいた味がした。
灰と蟒蛇(うわばみ)
劇的な状況を勃発させることで、恋愛の尊さを書いているお話と感じた。あまりにも非現実的な状況のなかを行動せねばならなくなった登場人物、ということで、お話としては結果的にSFでありつつも中世に生じた魔女狩りのような様相があるような気がする。実際現実でもそうした、なんらかと接点を有しているないし、身体的特徴ないしある特定の人種であるからという理由でその人間を裁いてもいい、なにを行使してもいい、という状況になることがあり、それはいまも存在する。それと地続き、というわけではないかもだが、なんにしてもここにあるのは一種の不条理だと思う。かつ、2000年代初期の懐かしさというか、お話の展開のさせ方からしてもセカイ系めいた風味を感じた。途中で、ほんとうに異形の姿形をしているのか、「異形でないとおかしい」と形容しているかわからなくなる箇所があったのだけれど、状況が状況なので、どちらで取ってもいい気もする。最終的にポエティックなところへ達してゆくのが、童貞性という気がした。読んでいるこちらがそこまで達せているか、というよりは、独白体だからこその、当人の様相が表されていた気がする。この部分にこの文章があるからこそ、童貞性めいたものが担保される独白になっている気がした。
童貞の俺が恋をした。/夕日ゆうや
童貞の詩(ないし政見放送)と思った。問答のようでそうでなく、その場で思いついた言葉を書き連ねている詩とも感じる。管をまく童貞の演説というか、鳥肌実風に漫談をやってる姿を想像しながら読んだ。結果的に読みの姿勢としては正しかったと思う。このすかしというか、童貞についての一考を披露しているようでそこまで深い話をしているわけではない、というのが味だと思う。小説として最後に開き直るのは、せめて別記事にしてほしいとは思ったけれど、これが作内にあるからこそ童貞性が担保されているし、演目としてみた場合に良くなるのかもしれないと感じた。読み上げる人、ホンを演ずる人次第でおもしろさがだいぶ変わる文章、だった気がする。小説として触れるよりは、不意に動画サイトなどでめぐり合うとよいのかもしれない。
タイムトラベル・ノベル/福永 諒
いきなりなにかがはじまる。何の話かは分からないが、始まったらしい形をしている。字の分とセリフが入り組んでおり、だれがしゃべっているかすこしわからないところもあったが、これが酩酊感として作用しているとも思う。脇道に話がそれがちだが、その、話題の錯綜が結果的に童貞性を表していた、気もする。気取りというか、痛々しさというか。形としては少女地獄とかが近しいのやもと思った(映画ならレザボアドッグスの冒頭など)。けれどもこれは思っただけで、用法というか作用はまた別かもしれない。作内の語句的に、もしかすると昔の青春時代を描いている話なのかな、とも思った。
誰が為のジョイスティック/@JACK_RED_NIGHT
個人的にすきだった短編。心は凪らしい。面舵をしたんだから取り舵をやって元に戻す、という話の持って行き方自体がかなり好きだったしおもしろかった。SSというか、少し不思議な話としてよくできていたと思う。文が端的なのもすき。すっと読める軽さ、エロさ、日常感があるのが良いお話だった。童貞的な味付けも可愛げがあるので読みやすく、いままで読んできた童貞的主人公やシチュがある小説の中では清涼剤的な印象があった。それもあってより、よいなと思ったのかもしれない。
取鳥様の巫女と燭台/柴田 恭太朗
レビューでいろいろとしゃべってくれる人の分をよんでいる、みたいな心理になった。語り始めるところで「コックピット」というのがすき。変な気取り、空回りがあらわれている。エロものの漫画か、ゲームにありそうな動向だった。人外系のジャンルのやつな気がする。とんでもな話だが、ノリでなんとでもなる話というか、そういう部分が良さな気がする。
get out !!!/亮
文に速度があり、それが強かった。ぐいぐい読ませにかかってくる潔さがあると思う。内容の好き嫌いとかでなく、とにかく読ませにかかってくるこの漢字は、映画を劇場でみているときの「みるしかなさ」に近い気がする。こちらから止めることができないもの。とにかく個人的には感想がこれに終始している。つよさを感じる小説だった。
I Love (or You Love)/大村あたる
ふいにセックスをのぞいてしまった人の話だった。起承転結の承1承2はじめか半ばくらいで終わった印象がある。快楽天など、その手の月刊誌の連載物というかシリーズものの味がした気がする(毎話いろいろなシチュのおせっせが、先生の描くさまざまな画角やコマ割り、絵柄で示されるやつ)。と考えると、ここで終わってしまうのか、みたいな気持ちもすこしあったが、ここで終わってその先が小説として示さないのが、童貞小説としてのらしさを生み出している気もした(あってもおまけ漫画で示される程度で、そこが主題ではないというか)
純けつ/@akuzume
よくわからないが、気合の入った童貞らしい。献血のレクチャー小説なのかなと思ったら、ジャンルがノンフィクション・エッセイだったので、作者さんの実体験が書かれているお話なのかもしれない。冒頭の決意から始まる話が丁寧な献血のしぐさなのですこし面食らったけれど、エッセイと理解したいまは納得がある。なんにしても、童貞の血液はいい血液なので、体調的な問題がなければみんな献血にいこうぜ、というのに終始した小説だった。販促もの小説、というかCMというか、青汁のCMの献血版小説、みたいなものなのかもしれない。献血をする童貞、という切り出し方はなるほど、と思ったので、それ含めてでほえーっと読むのがよい文章かもしれない。
ドロドロボコボコ/技分工藤
ナンパの挙句に男同士のファイトがはじまる。童貞のお話というよりは、パルプを読んでいる感覚になった。殴り合うことでコミュニケーションをする話で、彼らなりのデートとその決行をやっているお話と感じた。主が男の人をすきなのか、女の人をすきなのか、その両方かわからないが、ラストは映画的な達観というか、さわやかさがあったと思う。ファイトクラブじゃないが、殴り合うことで自分をみつめてゆくお話と感じる。童貞的な味は、この、しぐさの不器用さのなかにあらわれていた気がする。口下手だからこそ殴り合った果てでしゃべれるようになる、というような。
くすぶり/myz
「あの子」のことを心内に思って、結局そのことを一度も表に出さない人の心理を読めた気がする。云わない、欲を出さないというのは、断られた時のショック、恐怖が勝るからこそというより、「この関係で仲良くなったからには、(自分がそうカテゴライズしたからには)それに違反してはならない」というしばりがあるのかもしれない。ただ、これらルールは、あくまでも自分の中にもうけたルールでしかないあたりが変に真面目というか、どこか無機物的な要素を有しておられる気がする。ラスト、風俗で答え合わせをしようとしているあたりに頭でっかち感というか、「いうてそんな衝撃はない」という未来に行き着く虚無味を思った。そのあたりがしっかり描かれているのが、よいお話だった。
ΣΧΕΔΙΟ ΕΠΙΝΟΙΑ/@Pz5
愛想をつかされた男が、肋骨から女を培養する。それは自分の一部であり、子であり、己を母とも父とも呼び、おそらくは男自身でもある。難しい言葉や言い回しが出てくるが、基本としては「任務として行為を行うこと、重視すること、それこそが大事と思う彼が極めてシステム的、機械的であり、それと話すことを強いられる彼女が限界を迎えて、ゆりかごから脱出した」話になる。サラリマン的な、熱心に責務を全うせんとする男性の思考感と、そうではなくてみるべきもの、触れるべきもの、触れ方、やり取りがあるだろうという女性。どちらも譲歩しない。だからこうなる。という風景があるように感じる。正しく書くと、たぶん男は男でアプローチをしようとしているが、それらすべてが「なぜさけられるのか」に対して考えるところに、「自分というものがそもそも不快に思われるところがある。という思考感が抜けている。なぜならシステム→果たすものだから」という風に感じる。童貞性というか、おしつけを肥大化させて、アダムとイブの聖書の云々を下地に、SFで解釈するとこうなるよ、というものだったと思う。心がけこそあるが、ありすぎるがために人の話を聞かない、論理構築の方法が合わない。無上の愛をそのままシステムとして他者から得られるわけがないだろうと、そういうことを書いているお話と思った。手塚治虫氏の漫画的な絵があると、理解としてはよいのかもしれない。ただ、あればわかりやすいが、それをあえて石板に書くことをしているなにかで、けれども現代人はそれが標準の読み解きの地平にないから歪みがあるというか、それが良さでもあり難しさで、考えどころという気がする(漠然としているが)
童貞税/阿下潮
少子化対策とするには、とてもじゃないが真逆の事態を発生させそうなものが法律になってしまった世界。なので「すこし不思議系SS」という印象がある。かなり極端な設定なので、世界観がわからなくなるところもあったが、意図的に極端な状態を常とすることで、主人物の卑屈さというか、物のとらえが引いているようで短慮、胆略的、プライドの高い人を下に見がちな冷笑をしそうな男性、めいたものを引き出していた気がする。ありえない状況だからこそこう組める、のかなと感じた。肉体的なイメージ。かおりと恋を結びつける詩交換など、そうした男性の性質というかキャラ性をうまくエミュレートしているなと思った。社会に対しての皮肉をやりたいというよりは、変わった世界を書きたいから異化をやっている、と思った。荒唐無稽ではあるが、短編だからこそ読めるというか、そういう絵だった気がする。
老人と柿/坂水
独白体で書かれた奇譚。今昔物語かなにかで、こういう話を読んだ気がするが、それはもっと記述的なもので、だからこれは、そうした、なんらかの書籍で「記述」になっているものの実態はこういう姿形でしたよ、というような「インタビューウィズ」的な味がある小説だったと思う。童貞性がどうなっているかをあまり読み取れなかったのだけれど、こういう風にして昔の話をずうっと抱えているし、それを誰かへ向けて語ってゆく、というあたりにそいう味があったのかもしれない。
臆病者/宮塚恵一
宗教を理由にして性交渉をことわり、挙句に蹴られるだけ蹴られてとほほ、になって終わる話。ほんとうにただこれだけがある、それ以上もそれ以下もない、エッセイ的な語りをやっているお話だと感じた。エッセイならエッセイで、こんなひどい目にあっているがいまでは笑える話ですよ、みたいなていになる気もするが、これはほんとうにただただ、出来事を淡々と記述しているお話で、個人的には、長編小説の導入・冒頭のみを読ませてもらった味がした。キャラクターは濃く、印象深いはじまりかたなので余計にそう感じた。もしかすると描写の関係で、えちち側面がオミットされているのかも、とも思った。意外とこういう形の終わりは、なかなか書けないものなのかもしれない(たぶんふつうは、話らしい終わりにしたくなるので)
give it back/アオイ・M・M
ひたすらに舞い上がって、自分の中でから回った挙句のパンチが悪友を襲うのが理不尽な暴力というか、やるせなさの発露がへたくそだからこそ手がでるオチになっていた気がする。全編を通してこの主は、自分の判断みたいなものが不安定なのが良いと思った。不安定で、いまからやるのにずうっとそれに集中できていない、お互いにコミュニケーションしている感があまりないのがよく出ていた気がする。やったところでなにかが解決するお話ではなく、身体的な接触が得られるなら、正直なところだれでもいい、なんならそうなったらなったでちょっと相手のことが好きになるくらいの男の子を書いていたと思う。そのあたり童貞的というか、少年的なのがよかった気がする。
新入社員/神澤直子
一回やって駄目だった告白のあとに、「でもやっぱりすきなんだよな」と思考がぐるぐるしているさま。自分を下げる、自分にはそうした容姿がないから駄目だ、となるもの。思考がとにかく「○○だから自分はダメ」に終始していて、なにかを考えているようで全くの無思考状態になっているのが描かれている。人が人として腐ってゆくさまが描かれていると思った。攻め手というか、彼なりのやり口があるはずなのに、そうせずに理想ばかりを眺めているのがこの人らしい気がした。ベストな動作やコミュニケーションをやれる人間はいうてすくないかもしれないが、なんにしてもその事象を悲観し続ける、浸り続ける部分に女々しさというか童貞性があった気がする。この後どうなるのか、でなく、別に何も確かめているわけでもないのに、なにかをみるだけでここまで勝手に湿ってゆけるのがもういっそ才能というか、思考の陥りを感じた。
初鰹/百歳
みたものをただ書き、過去を思い出したら、思い出した時に書く。純な文学の味がしたと思う。素朴な、始まって終わる何か。自分の書簡を、所管というかとにかく、切り取ったもの。自分の思い出や、その場にみたものを書いてゆくもの。小説に書くことはこのくらいでいいのかもしれない。話の筋がいるようでいらないこともやっていると思う。得体の知れなさありつつ。
ちんちんが大きすぎたおおかみのお話/獅子吼れお🦁Q eND A書籍版7/25
童話のようで、それを少しずらしている味があった。いろいろな味が混ざっていていて、それが劇中ででころころ変わってゆく示しの持って行きかたが、スピードがあるというよりは、絵本的な省略感があると思った。童話の文法というか昔話の文法でことが進んでゆくので、おかしいところがあってもそこへの言及が最小限、へたするとほとんどない、というのがそういうとんでもな昔話の文法らしくてよかった気がする。どうしようもないお話というか、出てくる登場人物がみんな基本、自分勝手なのがよかった。
思い立った彼に恥はないのか/黒本聖南
気持ちよさのない性交渉のお話。お相手だけが快をえられる、オナニー的なセックスをする、させられるというところに人物としての童貞性があったように感じる。処理をしてやる、というもの。楽しくないセックスを書いているというのがたぶんよい。ひとりよがりなセックスはどこまでいってもたのしくないもので、けれどもやる側は必死で、気持ちよさがあって(オナニーだから)それをひたすらぶつけているところに、どうしようもない童貞性を感じた。漫画のようにつっこんだら気持ちよくなるわけではない、というのが、良さになっていたと思う。
知らんことにしといて/おくとりょう
周りの人、理解者はそう云うかもしれないが、そうもいかないんだよ、というもどかしさの心理を書いているお話だった。行動したところで、というか、行動にともなっていまが失われるのを恐れているからこうなる、のだと思う。
まだ達/るつぺる
カードゲームをする男子二人の青春という味。大学生の生活というか友情というか、漫才師みたいなやり取りから二者の腐れ縁感が出ていてよいと思った。改行がすくないのに読みやすさもあり、純文学的な味を感じた。おどけているようで熱いものがあるバランス感というか、それがよい短編だった。
童貞が聞きたくなかったセリフを聞いた話/まらはる
これだけ心内で言葉が出てくるからこそ、文章を書けるのだろうなと思った。相手の会話一つで、これだけ妄想を広げられるのが、つよいなと思った。結局相手を見ておらず、自分の中の問答しかしていない。そういうのが童貞性なのだろうかと感じた。人となにかを喋るときに、うまくしゃべるとか、何をするとか、期待をしっかりする人なのだろうと思った。だからがっかりするし、期待するのだろうと思った。
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2024/07/06
終盤、あまりにも疲れていて感想らしいものを脳内から出せなかった。申し訳ない。
機会ができたらまた読みます。