Dess-Martin 酸化
概要
超原子価ヨウ素(Ⅴ)試薬であるDess-Martin Periodinane(DMP)を用いて、第一級アルコール、第二級アルコールをアルデヒド又はケトンに変換する優れた酸化反応。反応は室温付近でも速やかに反応することが多い温和な反応である。極めて高い官能基許容性を有するので、複雑な天然物の全合成研究に頻繁に登場する。DMPは1.0~1.5等量で良いことが多い(2.0等量以上必要な場合も)。反応時間も、基質によるが30min~1h以内で終わることが多い。 https://gyazo.com/8b8b704df381addd6c38e92f03790c08
反応機構
まず、DMPのヨウ素(Ⅴ)上で酢酸と原料のアルコールが配位子交換し、複合体を形成する。次に、α位の脱プロトン化によって酸化が進行し、アルデヒドまたはケトンが生成する。下の反応機構でもわかる通り、2.0等量の酢酸が生じ、系内が酸性になるが、これに対して不安定な化合物であっても、緩衝材としてNaHCO3(5.0~10等量)を共存させることで、適応させることができる。 https://gyazo.com/5e62960f138074f7ba2d9c858067cac5
反応剤について
調製方法 (原著1)(原著2)(著者経験済みるしゃとりえ.icon) まず、2-iodobenzoic acidをOxone(ペルオキシ一硫酸カリウム)で酸化させ、2-iodoxybenzoic acid(IBX)を合成する。厳密な温度管理をしないと危険なので、必ず温度を計測しながら行う。原著1では、KBrO3を用いて酸化しているが、この方法はどうも危険らしいので、やめた方がよいらしい。この反応ではOxoneを1.3等量使っていると書いてあるが、実際には2.0~3.0等量加えた方がよい。しばらく、加熱していると、大量の泡のようなものが出てくるが(下写真左)、3hほど攪拌すると溶けてなくなる(下写真右)。これをグラスフィルターもしくはブフナー漏斗で吸引ろ過し、アルミホイルなどで遮光してからデシケーターで乾燥させる。IBXは爆発性があり危険なので、この反応を行う際は必ずドラフト内で行う(防爆板もあればなおよし)。 https://gyazo.com/313b5342ef1d0b4b35f709a268cdc302https://gyazo.com/1f32cb3ab5eee1d4279b859081dca2b8
次に、一晩乾燥させたIBXを用いて、TsOHを酸触媒、無水酢酸を溶媒として、IBXをアセチル化してDMPを合成する。この反応も温度計必須。2hの反応を終えると黄色がかった溶液になる(下写真左)。加熱をやめてゆっくりと室温付近まで冷却し、氷水などで、さらに冷却する。すると白色結晶(実際は黄色っぽい)のようなものが析出するので(下写真右)、これをグラスフィルターもしくはブフナー漏斗で吸引ろ過し、無水ジエチルエーテルでリンスした後、遮光できる保存容器に保存する。実際に調製したDMPを使用する際には、自分の基質でやる前に、一度何かお手頃な基質で試した方がよい。 https://gyazo.com/52d70a02442b4ee93a635189cb8f265chttps://gyazo.com/45d7d7bdd2b2c7a8b87b45d26d3f9ee1
コメント
反応の後処理は簡単。ジエチルエーテルでクエンチ後、反応混合物をNaOH水溶液もしくはNaHCO3/Na2S2O3水溶液を加えて分液する。シリカゲルクロマトグラフィーで直接分けることもできる(DMPのカスが残って詰まるのでおすすめしません)。
1.1 eqの水が共存すると反応が加速するという報告もある(原著)。 水を嫌う系ではtBuOHが添加されることも。全合成たん.icon
NaHCO3の代わりにpyridineを添加している例もある。