_創業 1/3世期の備忘録(1)その建築家の真似をしなさい
『あそこの路地の奥に、いい家が建てられているから、見てきてごらん』毎日の散歩を日課にしている母からそう言われると、私はすぐに出かけました。工事中その家は、庇の長い切妻屋根が美しい、竣工間近の和風住宅でした。どんな建築家が設計したのか、私は会いたくなりました。工事看板にあった、建築家の事務所に電話をしてみました。
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事務所を尋ねると、建築家は私の工業高校の先輩だったこともあり、訪問を快く迎えてくれました。どうしたら、あのような美しい建物が造れるようになれるのか、私は真っ先に尋ねました。すると建築家からの答えは意外なものでした。
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『心を惹かれた建築家を見つけること、その建築家の真似をしなさい』
真似... 。「真似をするな。オリジナリティーを大切にせよ」と、少し前までの建築学生の頃には、そう指導されていたからです。建築家は話を続けました。
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真似をするといっても、表面的なデザインを真似するのではありません。真似すべきは、巨匠の思想や哲学です。
「なぜこうした? なぜこの寸法に? なぜこの素材に?」建築に対するすべての問いには、全てに理由があるのです。ゆえに巨匠と呼ばれるのです。
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私は、思想や哲学を見つけられないと言うと、建築家はアドバイスをしてくれました。
・各地に建つ名作を、ひとつでも多く訪ねること
・その建物の中に入り、そこに満ちている『空気』を吸うこと
・触ること、測ること。歩きまわり空間の変化を感じること
そして建築家の思想や哲学は、建物からだけでなく『設計図』からも学べると、話は続きました。
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建築図書館に行けば、建築家のたくさんの設計図が見られます。直接、設計図を見てきなさい。ただ、見るだけでは駄目ですよ。
設計図の、『消された痕跡』を探すのですよ。
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巨匠とはいえども、建物を創りだす設計過程では、様々な紆余曲折があったはずです。巨匠が何に迷い、それをどう乗り越えたか、その設計過程を、設計図の消された痕跡から、読み取るのです。
そして実際にその建物を訪ねなさい。設計図とできあがった建物とを重ね合わせ、施工の段階でどこか変わったのかを、見つけなさい。
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大切であれば大切であるほど、その巨匠の思想や哲学は、心の奥底にあって表出しないものです。なので、ひとつひとつ確認することで、思想や哲学を学ぶことです』