9740_時代とともに捨ててしまうものの中にも、大切なものや美しいものはたくさんある
「縁がなかった」仕事があれば、私を一歩前に進めてくれるご依頼も頂きます。このお住まいは、鉄筋コンクリート造の地下室・地下車庫がある、3mの高低差を活かした、3層の住宅です。こんな施工難度の高い住まいを、地下室の実績など、ほぼない私を信頼し、依頼してくれたのです。それも、私の事務所を一度も訪れることなくです。
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鉄筋コンクリート造は、鉄筋工事と型枠工事、そしてコンクリート打設工事が、交互に進行していきます。現場を背景にして、パチリ( 2018.03.07) hr.icon
住まいてさんの期待に全力で答えるべく、この着工から竣工までの半年間、
新規の依頼を全てお断りし、ほぼ毎日、この現場に通うことになりました。
ここだけの話ですが、型枠工事と鉄筋工事が進んでいく中でも、
私はこの模型を眺め、このお住まいの竣工した姿を思い浮かべ、
何が不要で、また、何を付け加えなければならないのか、まだ悩んでいて、
この「悩み」は、住まいてさんが引っ越すまで、続きました。
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『オオタキさんには、何でも言いやすそうだから』とのことでした。
この住まいてさんは、私の多くの至らない点には、目をつぶり、
私という『松ぼっくり』を、ゴミと見るのではなく、
大切なものとして見てくれたのです。ありがたいことです。
私も、この年齢になると、多くの書籍を読むことよりも、
実際に建てさせて頂くことこそが、最大の学びです。
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時代とともに捨ててしまうものの中にも、
大切なものや美しいものはたくさんある。
エリック・サテイは雑音を、
利休は藁すさを、
そして芥川龍之介は単語を。
普通なら捨ててしまうものを美したのは、
今は亡き天才たちの美学の共通するところである
出江寛『数寄屋の美学―待庵から金属の茶室へ』鹿島出版会 1996
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他の建築家なら気づかないことや、切り捨ててしまうことを、
今の時代が不要だとし、切り捨てようとしているものを、
街並みのささやきや、家族の気配のようなものを、
私はそれを発見し、それを形にし、「空間」としたいのです。
「私でなければ、できない仕事をしたい」のです。
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