9564_家族の思い出の記憶装置としての空間
造り付け本棚を取り付け、ピンク色のクロスに貼り替える。ただ、それだけのプチリフォームが、家族全員を楽しい気持ちにさせてくれる。住まいづくりの仕事をしていて、私が嬉しい瞬間は、こんな空間が作り出せた時です。さて、久しぶりに我が家をプチリフォームしたのですが、実はこの部屋を、何て呼べばいいのか悩んでいまして...。
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2階の廊下の端の、当初はトイレだった「1帖」の空間です。3人家族の我が家には、トイレは一つだけで十分でした。
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夕日が差し込む、高窓は左側にありますが、「左」と「右」では、空間の印象はずいぶんと違うものです。狭い空間ではなおさらです。いつの事だったのか、おそらく私が中学生の頃だと思うのですが、「左側の印象を、空間全体の印象として感じる」ことに気づきました。
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中学校の長い廊下、行きと帰りでなぜ印象が違うのかとの疑問からでした。私の考えた答えは、窓が左側に見える時は、廊下全体が明るく感じ、教室が左側に見える時は、廊下全体が暗く感じるということでした。
私に限らず人は常に、どんな時でも、左側に気を配っているそうです。左胸の心臓を守るのだという、太古からのDNAによるものだそうです。
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この名づけられぬ空間の主人、娘も中学生となりました。ここには、小学時代の大切な本だけでなく、日々向かい合った教材も並べるそうです。その教材が、中学生となった自分を励ましてくれるのでは、というのです。
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本棚の背表紙を眺め、1冊を手に取る。なるほど、そんな読書なら、広い空間よりも、体ひとつ分の、この1帖の空間の方がふさわしそうです。
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そんな娘の、ささやかな期待に答えるべく、私のしたことといえば、A4サイズ専用の間隔にした、本棚の図面を書いた事でした。本棚の色は、紙がそうである様に、ホワイトを選びました。
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ピンクの壁は、赤いロッキングチェアーに合わせました。また、今年の夏の旅行で訪れた、野尻湖のホテルの客室が、
パープルで優しかった事も、暖色の壁を選んだ理由です。すでに娘にも、小さくなり過ぎてしまった、ロッキングチェアー。真横から眺めると、大きな振り子時計の様ですね。
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娘は大好きなのですが、私は,ちょっと複雑な気持ちがあるのです。思い出すと、娘がこのロッキングチェアーで揺れている時は、私に何か問題があって、娘に悲しい気持ちをさせている時だったからです。このプチリフォームは、その「罪滅ぼし」の意味も含まれているのでした。
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