葬送のフリーレン
魔族と人間
この世界では魔族と人間、それ以外にも数々の種族にが存在しているようだが、ことさらに魔族は特別であることを示す描写がある。
それは魔族は人間の言葉を話す魔獣のことであり、魔族が人間の言葉を話す理由は人間を拐かすことにのみあるというところ。
因果は描写にないが、結果的に魔族はそれ以外の種族にとっての天敵となっており、魔王がいなくなった現在もなお世界を脅かし続けている。
そして気になっているのは人間と魔族の言葉の使い方の違い。面白いのは魔族の方が明らかに言葉をうまく使っているところ。
描写されている範囲でも、人間にとってはやはり子孫を継いでいくことにこそ一族、ひいては種族としての繁栄がかかっていることがわかる。
また、そのために必要なのは単に自分の子供というだけでは足りない。自分の一族、自分自身、それらの成した偉業を後世に残さなければいけないからだ。これが頼るのは伝承ということろになる。しかし、それを成すためには言葉というのはあまりにも十分ではない。実際に亡き勇者ヒンメルは自身の存在を残していくために言葉というものを選ばずに銅像というものを選んでいる。語りや書による伝聞もまた伝承には役立つだろうが、やはりそれもやがて正確な情報を風化させてしまう。
言葉だけでは人間の複雑な生態を保つためには十分ではないと感じられる。
一方で、魔族にとっては言葉は繁栄するには十分だった。
魔族にとっては、一族という概念は存在しないか、または人間のそれに比べて極めて希薄である。
また、魔族は人間に比べて遥かに長寿となりうることや、魔族にとっての格が魔法の力によってのみ見極められることなども描写されている。
ここからわかることとして、魔族には伝承するべき話や相手がいない。また本能の赴く先は捕食にあるため文化形成もない。
しかし、魔族は魔法をバックグラウンドにした高度な文明を持っていて、あとは捕食という本能さえ満たされれば繁栄が可能だった。
言葉を理解した魔族はそれを巧みに操り、人間を拐かし捕食する。そうすれば魔力が高まり自らを繁栄させることができた。この際たる例として、「お母さん」という言葉を使うことで「いかに魔族とはいえ母を頼らざるをえない哀れな子供を殺すのは忍びない」という信仰を利用したエピソードが語られている。言葉と、それによって形成される無意識的な信仰をも利用できるコミュニケーション能力の高さが、言葉に使われるがままに信仰を形成する人間の致命的な弱点をついている
そして、この魔族とほぼ同じ性質を持つ種族として、主人公であるフリーレンのエルフがある。
極めて生殖に頓着がないことが語られ、長寿であり、またそれが故に人間の信仰を理解しない。魔族との違いはせいぜい人間を捕食するかしないかくらいのもの。
もちろんエルフと魔族が本質的に同じ種族だという描写は一切存在しないし、自分もそうは思っていないけれど、魔族、人間、エルフという相対化と理解はフリーレンにとっては今回の旅のテーマでもある。
そのキーとして、唯一フリーレン以外に登場するクラフトというエルフの存在がある。このクラフトはエルフであるにも関わらず、女神に対する信仰を厚く持っている。いつかの時代の勇者であり、やはり長い時を生きているクラフトがなぜ人間と同じ信仰を持つのか、ここも気になっている。
勇者不在
この作品の表立ったテーマは魔王を討伐した勇者ヒンメルの跡を追うところにあり、そのため今回の旅ではパーティに勇者が存在しない。あえて言えば前回の魔法使いであったフリーレンが今回は勇者のポジションとして、旅の目的とパーティの拡充を行う。ただ目的が魔王の討伐ではない以上、やはり勇者ではないだろう。
そしてこの勇者がいないという形式以上に、勇者という存在は不透明だ。魔王を討伐したヒンメルが勇者の剣を抜けなかったエピソードがあった。ヒンメルは結局勇者の剣を抜けないままに魔王を倒したが、であれば勇者とは何であるのか。
おそらく勇者は何者でもない。あえていうのであれば魔王に立ち向かう冒険者のことを指しているだけで、他の職とは違って何か特別な力を持っているわけではない。勇者の剣はおそらくいつかの時代に大事を成し遂げた勇者の持ち物以上の意味はなく、抜く必要もなければ抜いたとてそのものが勇者であるとも限らない。
であれば、この作品において勇者は重要なロールではなく、あえて言うのであればヒンメル自身が勇者たりえる像として話が展開されていくと思われる
これからの楽しみ
この作品は記録が一つのテーマにあると思う。
実際に今回の旅は前回の旅で記録できなかった(記録をしようともしなかった)勇者の足跡を記録する旅になっている。
そして記録のメディアとして遥かな時を生きるフリーレン自身がなっている。
さらにそれだけではなく、今回旅を共にする一行に関しても、フリーレンは記録するだろう。
人間では言葉、魔法を持ってしてもなしえないものを、それを成しえるものが人間を理解することによって担う。
絵がとても見やすいし話もわかりやすい、登場人物もみんな可愛いので心安らかに追っていきたい。