【狩猟研究誌vol.1】出猟報告をデジタル化することに意味はあるか?
概要
執筆者予定者はyunoda.icon。執筆の動機は、毎猟期提出している出猟報告のアンケートが非常に面倒くさく、かつあれを誰かが集計していると考えるとものすごく効率が悪いと感じたためです。仮に出猟報告をDX改善するならという想像のもと要件定義をしてみるのはおもしろいかな、と。
2025/10/20 追記:出猟報告をデジタル化すればいいと漠然と思っていましたが、正直あまり効果がないという結論に至りました。今回の記事では、「モニタリングの裏側」を自分なりに解釈して説明するという趣旨で執筆し、どのようにしてデジタル化があまり効果がないと思ったのかを説明しようと思います。
(以下すべてメモなので、間違っていることもあるよ!)
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疑問点
そもそも出猟報告って有用に使われてるの?
→ モニタリング調査資料において頻出なのは、以下。これらを階層ベイズモデルでデータを均質化して、生息密度を予想する。
捕獲努力量(SPUE)
捕獲目撃(CPUE)
糞塊密度調査
ライトセンサス
出猟報告だけで生息密度が算出されているわけではない。データには誤差があるので、それが顕著に影響しないように複数のデータを掛け合わせて誤差影響を少なくしている。
密度指標が存在しないメッシュは逆距離加重平均法により空間補間を実施している。
データは精度が高いほどいいわけではない。そもそも現行のアンケート形式以上の費用をかけてまで効果があるのか?
重要なのは、行政の意思決定にプラスに働くか。
目次
1. 現状の出猟報告とその分析プロセスについて
出猟報告とは
集計方法
努力量の標準化(わな台日数、出猟人日数)
空間的データ収集(メッシュ番号)
実際の報告様式分析(複数県の様式比較)
報告の実態調査(提出率、記入精度、負担感など)
2. モニタリングの基礎理論
a. 野生動物管理におけるモニタリングの目的・意義
b. データの収集方法
出猟報告
糞塊密度調査
ライトセンサス
c. 効果的なモニタリングの原則
継続性、精度、標準化、実用性
3. 果たして出猟報告をデジタル化することに意味はあるか?
結論:あまり効果がない
そもそも出猟報告は参考データの一部
ピンポイントでエリア内生息数を計測するためのデータではない
ハンターの猟場傾向を織り込むので、生息傾向を推測するのには効果がある
出猟報告の問題点
生データが公開されていない
とはいえ集計に結構人件費かかっているはず。全国でデータ書式を均一化して、処理を一括化すれば、もっと安くデータ整理ができるはず。
たとえばマークシートのように画像認識で集計するとか
上記の先導は環境省しか担えない。今後の制度設計に期待
結論
なんでもIT化すればいいと思っていたが、施策の実施効果や経済コストを考えると、かならずしもIT化すればいいというわけではない
出猟報告の問題点として残っていると感じたのは、アンケートの記入形式が自治体ごとにバラバラで、その生データを公開していないこと
また将来としての懸念は、ハンターの数が激減しているので、有効サンプル数を下回る時代が来てしまうのではないか
被害調査に関する人材育成はお役所だけに任せきりになるのではなく、業界全体として人材を育てていく必要があるのではないか
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内容執筆メモ
1. モニタリングの基礎理論
a. 野生動物管理におけるモニタリングの目的・意義
そもそもいつからはじまったのか?
((以下AI作文))
制度導入の背景と契機
1. 鳥獣被害の深刻化(平成23-24年頃)
制度導入の直接的な契機は、2010年代初頭における野生鳥獣被害の深刻化でした。特に:
ニホンジカによる農林業被害額は年々増加し、平成23年度の農作物被害額は約83億円
2012年度(平成24年度)には野生鳥獣による農作物被害額が230億円に達し、これが制度見直しのピークとなったと考えられます
2. 法的枠組みの変化
2014年に鳥獣保護法が改正され、「鳥獣保護管理法」となり、目的に「鳥獣の管理」が加えられた
https://www.eic.or.jp/library/pickup/233/
2015年(平成27年)5月29日から「鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律」が施行
https://www.wwf.or.jp/activities/opinion/1452.html
3. 科学的管理の必要性
出猟カレンダーは、鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律第75条「報告徴収」の一環として記入していただくものとされており、法的根拠に基づいた制度となっています。
制度の特徴
各都道府県で実施されている出猟カレンダーは:
「どこに何日出猟して、何頭のニホンジカを目撃・捕獲したか」という情報を収集
ニホンジカがどこに、どれくらい生息しているのか(生息状況)を把握し、農林業被害が深刻なニホンジカをより適切に管理していくための計画や各種施策に反映するための基礎資料として活用
結論
制度の開始時期は平成24年(2012年)頃と推定されます。これは平成23年度に野生鳥獣による被害額が深刻化し、平成24年度には230億円という過去最高レベルに達したことを受け、環境省が科学的な鳥獣管理の必要性を認識し、基本指針等を通じて都道府県レベルでのモニタリング強化を指示したものと考えられます。
((AI作文終わり))
b. 効果的なモニタリングの原則(継続性、精度、標準化、実用性など)
努力量の標準化(わな台日数、出猟人日数)
1. 捕獲数報告
対象種別捕獲数: 狩猟対象となる鳥類・哺乳類の種ごとの捕獲数
捕獲場所: 市町村単位での捕獲地点の記録
捕獲日: 捕獲実施日の記録
2. 出猟努力量の測定
出猟日数: 実際に狩猟を行った日数
出猟人数: 参加した狩猟者数
狩猟時間: 実際の狩猟活動時間(一部地域)
3. 目撃情報の収集
目撃個体数: 捕獲に至らなかった個体の目撃記録
群れサイズ: 確認された群れの規模
生息環境: 目撃時の環境条件
空間的データ収集(メッシュ番号)
c. データ品質が管理施策に与える影響
2. 現状の出猟報告の問題点整理とエビデンス収集
a. 実際の報告様式分析(複数県の様式比較)
47都道府県のリスト化
b. 報告の実態調査(提出率、記入精度、負担感など)
全て手書きなため、記入漏れは不提出は多いに想定される
c. モニタリング理論と照らし合わせた問題点の特定
計画捕獲と趣味狩猟でデータ回収量に差がある。
計画捕獲は効率を重視するので、データの偏りが出やすいのでは?
努力量に対して目撃量を算出すると生息密度の傾向がわかるが、それしかわからないので、公共事業の立案にほんとに有用になっているのか微妙
単純にデジタル化すればいいわけではなく、使ってもらえないと意味がない
これまでのデータ蓄積があるため、急に集計項目を変えることにリスクがある。
「なにを目的にデータの収集をスタートさせたか」という背景が欠落しているため、「無駄に続けているだけ」という見方ができるかも。どこかで合意があったはずだが、そういう資料は見当たらない。
3. 理想的なモニタリングシステムの要件定義
モニタリング理論に基づいた要件整理
現状の問題点を解決する要件
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参考文献
『特定鳥獣保護・管理計画作成のためのガイドライン(ニホンジカ編)改訂素案(案)』、https://www.env.go.jp/nature/choju/conf/conf_wp/conf02-04/mat01.pdf
『いま、どこで捕獲を強化していくのか~被害を減らすためのアプローチ~』、2025 年 3 月 環境省 自然環境局 野生生物課 鳥獣保護管理室、https://www.env.go.jp/nature/choju/capture/pdf/cap6-01.pdf
『生息状況モニタリングの基本と重要性』、株式会社野生動物保護管理事務所 計画策定支援室室長/取締役 岸本 康誉、https://www.env.go.jp/nature/choju/effort/effort5/effort5-3h/tokutei/document1.pdf
『モニタリングの簡易手法について』、https://www.rinya.maff.go.jp/kyusyu/fukyu/shika/pdf/wg6siryou3-3.pdf