神経科学
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一般相対性理論や万有引力などのバリエーションとして、脳や心における大統一理論があってもよいのではないか、という問いに下記のように答える。 つまり、磁石を初めて体系的に研究し、定性的に解釈したヴィクトリア時代の物理学者ファラデー。そしてそれを土台にし、数十年後に近代物理学の基礎となる、電磁方程式を生んだマクスウェル。という対比である。
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自己
基礎づけ
鴨長明は方丈記で「ゆく川の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず」と述べているが〜「私」という心的自己の物質的基盤(物質的自己)はどんどん入れ替わってゆくのに、自己意識や社会的な自己は変わらないように感じるのは不思議なことだ。一体私とは誰なのであろうか?上田閑照は「私」には原始的な不安定性とも言うべきものが動いているという。そして、「私」はその不安定性をのりこえて「私」自覚することにあるという。この不安定性という安定は〜ルビンの盃図形の双安定性を思い起こさせる。自己への固執と喪失の間を振り子のように揺れることで、かろうじて動的平衡を維持しているのが「私」にほかならないとも思える。そして、振り子を揺らす影の力が他者であり社会なのであろう。 『私とは何か』から引用して上記のように述べたあと、下記二項対立図式らで精微化する。 自己から他者/他者から自己
自己は他者なしに考えられないし、他者も自己なしに考えられない。自他の区別があるということは、自他の間には境界があることを示唆している。自己と他者のかかわりを捉えるのに、まず自己があって、そこから他者が生まれるという立場と、他者があってこそ自己が生まれるという2つの立場がある。いずれの場合も自他の社会的相互作用が前提となる。
シミュレーション説/理論説
心の理論についても、他者の心は自己の心の動きのシミュレーション(自己の他者化)として読み解くことができると言う考え(シミュレーション説)がある一方、自己は独自の理論で読み解けるという考え(理論説)がある。 身体的自己/心的自己
自己は便宜上、身体的自己と心的自己に分けられるだろう。〜ギリシャ神話にも水面に映った自分の顔に見惚れたナルキッソスの物語があり、自己愛(ナルシズム)の語源となっている。美少年ナルキッソスは水面に生じた波が自分の顔を醜い姿に変えたことで自殺したともいわれる。身体的自己と心的自己の相克の結果かもしれない。自分の鏡像顔を見ると、自己愛の得点の高い被験者では認知的コンフリクトの座といわれる前部帯状皮質(ACC)が活性化するという報告もある。認知的コンフリクトはまた、虚構の認識や嘘をつくことともかかわり、やはりACCが関係する。嘘をつくことは他者の心を前提としており、自己と他者の関係性や境界の形成を考える重要な社会脳の領域と考えられる。〜身体的な自己感、つまり身体の自己帰属感は、米国の哲学者ギャラガーによれば、身体の保持感(sense of ownership)と主体感(sense of agency)が担うという。たとえばコーヒーカップに手を伸ばすという意図的行為は保持感と主体感の双方を同期的に生み出す。自分の手が他者の手として認識されるエイリアンハンドなどの自己認識の障害、妻をそっくりの他人と見てしまうカプグラ錯覚や、その反対に見知らぬ他人をよく知っている人物と見てしまうフレゴリー錯覚などの症例は他者認識の障害といえるし、保持感や主体感の両方あるいは一方が、他者にかかわるという病態まで移行したものだ。自己と他者をどのように脳が区別しているのかを考えるうえで興味深い。もし、自己の起源が他者にあるとすれば、自己と他者の境界がどのような社会脳の機能とかかわるかを考える必要がある。統合失調症などの社会的不適応症が自己の他有化の体験として現れるという考えも、身体的自己の自己保持感や主体感の希薄化とかかわりが深いと想像される。自己の他者による所有化は、自他の間の主客の境界をなくし、自分の行為が他者の意思によって遂行されるかのように体験されるという。さらに、別の類似症例では、側頭葉テンカンの症候のひとつとして意識が身体から離れて感じられるという体外離脱経験(OBE)がある。 主体感覚がいかに大事か。
自己の帰属概念
自己に気づくこと(セルフアウェアネス:自己の心的状態についてのメタ認識)や他者の心を想像すること(メンタライジングあるいは心の理論)は、自己を知り他者を理解する基礎となる。この種の問題の実験的検討には、課題に少し工夫が必要になるが、よく使われる課題を心的な帰属(自己帰属と他者帰属)を必要とするものと必要としないものに分けて検討することだ。自分の心と他者の心のモデル化について、ドイツのフォーゲリーたちは2001年に、fMRIによる面白い実験を報告している。実験パラダイムはベースライン条件にして次のような4種類の短文を割りつけることで設定されている。短文は自己帰属(S:self)、他者帰属(T:ToM)、帰属を伴う(+)と伴わない(-)の組み合わせからなっている。つまり、帰属を伴わない事実のストーリー($ T^-,S^-)、他者帰属のみを喚起するストーリー ($ T^+,S^-)、自己と他者帰属の双方を喚起するストーリー($ T^+,S^+)、および自己帰属のみを喚起 するストーリー($ T^+,S^-)の4種だ。 自他の心的帰属を含まない($ T^-,S^-)では、次のようなストーリーが呈示され、その後質問 がある。fMRI装置に入った被験者はそれぞれのストーリーを黙読して質問に答えるのだ。 「泥棒が宝石店に入ろうとしている。泥棒は店のドアをこじ開け、電子検知器のビームに当たらないように用心し、腹ばいで侵入した。検知器のビームに触れると警報が鳴ってしまう。ドアを開くと宝石が輝いているのが見えた。手を伸ばそうとすると何か柔らかいものを 踏むと同時に、かん高い声がし、柔らかい毛皮のかたまりのようなものがドアに向かって走 り抜けて行くとすぐに警報が鳴った」。 この後、「警報はなぜ鳴ったのか?」という質問があり、答えているときの脳の活動が測定された。ここで述べられているのは事実の物理的描写であり、自他の心の帰属は含まれないというのがフォーゲリーたちの主張だ。 一方、($ T^+,S^-)では「店で泥棒した男が逃げてゆく。巡回中の警官が自宅に向かって逃げてゆく男が、手袋を落としたのを目撃する。警官は彼が泥棒であるとは知らないで、手袋を落としたことを注意する。警官が泥棒に向かって"ちょっと待て"と叫ぶと、泥棒はこちらを振り向き、警官を見るとあきらめて降参し、両手を上げて店に押し入ったことを白状した」の後、「なぜ泥棒はそうしたのか?」と問われる。このストーリーには泥棒という他者 の心を読むという他者帰属の視点が含まれている。 次に、($ T^+,S^+)では、「店で泥棒した男が逃げてゆく。彼はあなたの店に泥棒に あなたはそれを防げず、泥棒は逃げてゆく。こちらにやってくる警官が逃ば 日撃する。警官は、泥棒がバスに乗り遅れまいとあわててバス停に向かっても 思っている。警官は彼が今、あなたの店に押し入った泥棒だとは知らないのだ。あなたは、 パスに乗るまでに警官にことの事情を知らせねばならない」の後、「あなたはどう思います か?」と問われる。このストーリーには($ T^+,S^-)で見られる他者帰属に加えて、自己帰属(自分の店に、という視点)が導入されている。 最後に、($ T^-,S^+)では、「あなたは週末にロンドンに旅行した。市内の美術館や公園に行き たいと思っている。朝、ホテルを出たとき青空が広がり太陽が照っているので雨の心配はな さそうだ。しかし、午後に公園を歩いているとき、大雨が降りだした。あなたはあいにく傘をもっていない」の後、「あなたはどう思いますか?」と問われる。このストーリーでは$ T^-には人称が用いられず、単に天候状況が導入されている点で($ T^+,S^-)と異なる。いずれも他者や自己帰属が条件ごとに厳密に設定されているとはいえないが、それでもストーリーの理 解や読む際の視点取りが、TとSの組み合わせでうまく表現されている。以上のストーリー 以外に、コントロール条件(ベースライン条件)として、相互にかかわりのない短文からな る脈絡のない(ストーリーのない)文が呈示された。 上記の実験結果は下記である。
1MRIの実験結果から判明したことは、物理的ストーリーである($ T^-,S^-)とベースライ ン条件間には脳活動の差は認められなかったが、($ T^-,S^+)や($ T^+,S^-)とベースライン条件間 には、それぞれ右半球の側頭-頭頂接合領域(TPJ)、前部帯状皮質(ACC)や、やはり右半球のACCなどに活動が見られた。自他双方への帰属を求める条件($ T^+,S^+)との比較では、右のACCなどが活性化することがわかった。これらのデータから右半球のACCが自己・他者帰属の両者で共通して活性化を見せる領域であること、さらに条件の組み合わせから自己帰属$ S^+では右のTPJ、他者帰属$ T^+では右のACCや左TP(側頭極)の活性化が示された。TPJは身体パーツの視覚的認識を担う外線条皮質身体領域(EBA)と共に自己の身体保持感を担っている。これらのデータから、直ちに自己と他者帰属が異なる領域で脳内表現されているとは断言できないが、興味を引くデータだ。なお、ACCはMPFC(内側前頭前野)に近い領域にある。自他の帰属を使った最近の107の関連論文データのメタ分析では、自他の帰属課題を内側面で比べると、それぞれの活 動領域に違いはあるものの共通して活動するMPrCなどが観察された。これらのデータ から、腹内側前頭前野(VMPrC)、左腹外側前頭前野(VLPFC)や左の鳥皮質(TC) は自己に、背内側前頭前野(DMPrC)、TPJ、楔部(cuneus) などは他者にかかわるよ う。しかし、上記のように、自他双方の課題で共通して活動する領域も報告されているこ とから、自他の帰属問題は将来の課題だ。社会不適応症一般についていえることは、ASD、統合失調症、PTSDやうつはMPFCの不調に由来することが多いという事実であろう。
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社会脳の学際的展開
ニューロエコノミクス
ニューロエステティック
セザンヌの風景画を見たり、ショパンの夜想曲を聴くとき、われわれはその色彩や音楽が心に共感をもたらすことを知っている。〜この分野の開拓者である英国のセミール・ゼキ教授は、視覚の神経美学を色や形の認知を担う初期視覚皮質から絵画鑑賞とかかわる前頭野皮質を含む高次皮質までを研究し、神経美学の基礎を築いた(1999)。 ニューロエシックス
道徳や社会規範といった社会意識がどのように生まれ、人々が社会的な逸脱行為をどのように慎重に避けているのかを調べる神経倫理学と呼ぶ領域がある。〜fMRIを用いて、社会道徳からの逸脱行動を生みだす脳のメカニズムを研究する場合、〜フォーゲリーの実験のように、架空のストーリーを呈示してその結末を想像させる課題が用いられる。
虚構の想像
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社会脳ネットワーク
デフォルトモードネットワーク
ミラーニューロンネットワーク