匂いのなかには、よくはわからぬが、過去の記憶を強く喚起する何かがある。大好きだった場所、なつかしい場面、過ぎ去ってしまったあと心のなかにはあれほどの深い痕跡をのこしながら記憶のなかにはなにも残っていないあの時間、こうしたものについて、匂いほど思い出をよみがえらせてくれるものはない。スミレの匂いは過ぎ去った幾年の春の喜びを魂に取り戻してくれる