人間は故郷をもたない。しかも人間もまた他のすべての生物とともに、同じ故郷にしばられている。人間は時もところも偶然にこの世界の中に投げ込まれ、そしてまた個然にそこから引き離されて行く。自覚をもつゆえに、人間は自分の存在の無力と制限とを感得する。人間は自分の終わりを、死を、ありありと描き出す。人間は決して自らの存在の二分性から逃れられない