ダニエル・デネット
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決定論理解のツール
「決定論というのは不可避性を意味する」「「非」決定論-決定論の否定-が行為者エージェントたるわれわれに自由とか、動く余地とか、余裕とか、決定論的な宇宙では絶対に持てないものを与えてくれる」「決定論的な世界には本当の選択肢はなくて、選択肢みたいに見えるものがあるだけ」これらを全部間違っていると一掃する。 デモクリトス宇宙
クワインは単純な想像上の宇宙だけに注目しようとしデモクリトス的宇宙を用いたが、デネットもそれを引用する。 デモクリトス宇宙では、「空間」を「原子」が動き回る。それだけ。デモクリトス宇宙の原子は、量子的なややこしさだらけの現代の原子じゃなくて、真のアトム(分割不可能、切り刻み不可能)的な原子だ。小さくて均質の物体の点で、何ら部品を持たず、デモクリトスが提案した原子とかなり似ている。 そして宇宙も単純にするとして「デジタル化」する。そこで「ヴォクセルの格子細工でできた宇宙」を提案する。
それぞれのヴォクセルは、完全に満杯か(原子が一つにおさまっているか)、まったく空っぽのどっちかだ。それぞれのヴォクセルは、格子細工の中で別々の位置またはアドレスを持っていて、それは空間座標三つ{x,y,z}で与えられる。〜デモクリトス字宙では、ヴォクセルは空っぽ(値0)でなければ、有限種類の原子のどれかが入っている。原子の種類を、色がちがうと考えてみるとわかりやすいかな。たとえば金、銀、黒(炭素)、貴色(硫費)とか。〜あらゆるデモクリトス字宙の瞬間は、空間内のヴォクセルすべてが各種の原子で満たされた並べ替えの集合として定義できる。〜ラプラスの悪魔に仕事をさせるため、「完全」なスナップショットを渡そうと思ったら、〜デモクリトス字宙の状態記述は、ある瞬間でのすべてのヴォクセル値を一覧表にしてあげればいい。 そして下記のように例を書き表す
$ 状態記述St
$ =ヴォクセル{2,6,7}=銀,
$ ヴォクセル{2,6,8}=金,
$ ヴォクセル{2,6,9}=0...
そして、ここにさらに「第四の次元、時間」を追加し、Stにおける{2,6,8}の金の原子が東に1ヴォクセル移動する。そうすると下記のようになる。
$ 状態記述St+1
$ =ヴォクセル{2,6,7}=銀,
$ ヴォクセル{2,6,8}=金,
$ ヴォクセル{2,6,9}=0...
それぞれの「瞬間」を、コンピュータアニメのフレームみたいなものだと思ってみよう。その瞬間の色または値がヴォクセルごとに指定されているわけだ。この時間と空間のデジタル化によって、ちがいや類似点を数えることができるし、二つの宇宙、または宇宙の領域やら瞬間やらが完全に同じだ、ということもきちんと言える。数珠つながりの「瞬間」それぞれについての状態記述が並ぶと、そのデモクリトス字宙が続く限り―そのビッグバンから熱死(だかなんだか、この想像世界でその手の始まりと終わりに相当するもの)までずっと―の全歴史が得られる。つまりデモクリトス宇宙は、ある長さの3Dデジタルビデオみたいないのだ。
上記のように時間軸が追加されたデモクリトス宇宙は3次元の動画になるのだ。そしてここで『ダーウィンの危険な思考』で筆者が用いた「有限だけど天文学的(ASTronomical)な量よりも「莫大」(Vast)に大きい数の名前として「莫大」を提案した」を引用して、ヴォクセルを色で埋めるn通りが想像を絶する量であることを述べる。 ヴォクセルを色で(あるいは単に1/0で)埋める方法は何通りあるだろうか? 宇宙の大きさを有限どころかごく小さなものにしておいても、可能な状態の数はすごい勢いで増えてくる。ヴォクセルたった八つの宇宙(縦横高さ二つずつの立方体)と原子一種類(空かいっぱいか、0か1か)で、3「瞬間」しか続かない宇宙でも、すでに一六〇〇万以上のバリエーションがある($ 2^8=256種類の状態記述があって、それを三つの瞬間にわりあてる方法は$ 256^3通りあるわけだ)。角砂糖たった一つに含まれた一秒分の宇宙でも(しかも毎秒三〇フレームののい速度で、角砂糖の一辺が原子たった一〇〇万個分しかなかったとしても)想像を絶する状態の数となる。
実際『ダーウィンの危険な思想』で用いた「莫大」は「ボルヘスの空想上の「バベルの図書館にある」ホントは無限じゃない数の本の数、つまりあらゆる可能な本の集合をあらわすのに使った」ことからデネットは、「可能なデモクリトス宇宙すべての集合、時間と空間の中で論理的に可能な原子の組み合わせすべてを、デモクリトスの図書館」とした。 「1未満の確率」で起こる規則がまったくないデモクリトス宇宙を「決定論的」、「1未満の確率で起こる規則を必ず含む」デモクリトス宇宙を「非決定論的」なもの、「永続性のある移行の規則性がまったくない」デモクリトス宇宙を「ニヒル宇宙」と分類する。そこでデモクリトスの図書館の部分集合を用いて決定論的/非決定論的の例を述べる 原子が空っぽのヴォクセルに囲まれたら、三六分の一の確率であっさり消滅する―それ以外ではそのまま残る―という規則を持つ宇宙群を考えてみよう。こうした宇宙では、原子が孤立するたびに自然はサイコロを転がすことになる。サイコロが1のぞろ目なら、その原子は「死ぬ」。そうでなければ次の瞬間まで生き延びて、もしお隣に別の原子がきていなければ、自然はまたサイコロを転がす。これは非決定論的な物理法則となる。次がどうなるかあらゆる場合に指定されているわけではなく、推移の一部は単なる偶然に任されている。ラプラスの悪魔も、サイコロの目がどう出るかを見るまではその先を予測し続けられない。ほかの宇宙の集合では、何一つ偶然にはゆだねられず、次の瞬間にどの原子がどのヴォクセルを埋めるか厳密に指定されている。こういうのは決定論的な字宙だ。もちろん、デモクリトス宇宙において推移規則が決定論的である場合も、非決定論的である場合も、それぞれものすごく多数の規則があり得る。
太陽がこれまで毎日のぼったからといって、明日はそうでなく太陽が昇らないと想定しても矛盾は生じないという説だ。〜ヒュームの主張はこう言い換えてもいい-自分が暮らしている宇宙の過去についてどれだけ事実を集めてみても、自分が集合Aの宇宙に属していることを論理的に証明することはできない。
この立場に立脚した上で下記のように検討することだという。
何か規則を想定し、その規則に従う集合の要素すべてで真であるべき(またはそう思われる)条件を検討してもいい。でもあるデモクリトス字宙を観察用に与えられたら、唯一可能なのは、すべてのヴォクセルの歴史すべてを調べ、そんな規則が成り立つかーあるいはそもそも規則性が見られるか―を検討することだ。時間を不自然でないくらいに区切って、初期で成立する規則が後になっても成り立つかチェックしてもいい。未来が過去と同じだとは決して証明できないというヒュームの不吉な発見は理解したうえで、とりあえずどんな規則性がこれまで見られたかを理解し、決死の魅惑的なばくちを打って―どうせ失うものは何もないんだし―未来にも本当に過去と同じ法則が成り立つと想定することにしよう。この宇宙が、長期的な規則性の時期という王道をたどった後で、いきなりわけがわからなくなるといういう変な字宙じゃないことを祈ることにしよう。
ライフゲーム
まず「二次元のピクセルの格子」であるライフゲームの簡単なルールを述べてくれている。
オン・オフ(いっぱいか空っぽか、黒か白か)のどっちかだ。それぞれのピクセルには隣り合ったピクセルが八つある。 南北、東西、そして対角線上の北東、南東、北西、南西。この世界の状態は、時間が一単位進むたびに、 以下の規則にしたがって変化する。 ライフ世界の物理―格子のそれぞれのセルについて、周囲の八つのお隣が現時点でいくつ「オン」になっているかを数える。もし二つなら、セルは次の時点でもそのままの状態(オンでもオフでも) を保つ。三つなら、そのセルは現在の状態にかかわらず、次の時点にはオンになる。それ以外のすべての場合、そのセルは次の時点ではオフになる。 これだけ。このたった一つの簡単な移行規則がライフ世界の全物理を表現している。この変な物理法則は生物学的に考えると、おぼえやすいかもしれない。オンになる細胞は誕生、オフになる細胞は死をあらわすと考えてみよう。次々にくる時点は世代だ。過密(まわりに四つ以上の細胞がいる)と孤立(まわりに一つ以下しかいない)は死をもたらす。
そこで下記(上図)のような三ピクセル分棒状の初期状態を示し、これは一生縦横を切り替わり続けると述べる。これを「フラッシャー」と呼ぶ。そして下記(下図)のような全く形の変わらないものを「固定物体」(本書では静物)という。
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ライフ世界はすべて決定論的な二次元デモクリトス宇宙だ。
だがここで「接近こそがライフをおもしろくする」と述べる。そこで周期的な配置として「アメーバのように平面上を泳ぎ渡る」「グライダー」を導入し、同時に静物として待ち構え接近したグライダーを取り込む「捕食者」を導入する。
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個別原子-ピクセル-はチカチカと存在したり消滅したりして、変化を累積したり、後の歴史に影響するいかなる歴史も持てる可能性はまったくない。でももっと大きな構築物は損傷を受けたり、構造が改訂されたり、材料を追加されたり失ったりして、それが将来のちがいをもたらす。さらに大きな構築物は、何かが起きることで偶然に改善されて、その後の消滅に耐えやすくなる可能性もある。ライフ世界には、育ったり縮んだり、よじれたり壊れたり、移動できたりする構造があるということ、そして全体にそれらが時間がたっても存続するということは、設計の機会をどっと開いてくれる。
こうして「ライフ平面の中でどんどん手の込んだ配置を考案しておもしろいことをさせ」る人らを「ライフハッカー」とし、彼らは「単純化した二次元宇宙で神を演じている」という。同時に「この世界で神を演じる人が直面する問題は、最初のパターンがどんなにすてきでも、常に絶滅の危機にさらされ、がらくたに変わり、捕食者に喰われ、跡形もなく消え失せたりする危険があるということ」を警告し、下記のように続ける。
創造物に長生きしてほしければ、保護しなきゃいけない。物理法則が変わらなければ(つまりライフゲームの基本ルールを変えなければ)、いじれるのは初期状態記述だけだ。でもその初期状態の記述の選択肢はむちゃくちゃに多い!縦横たった一〇〇万ピクセルずつのライフ世界集合でさえ、すでに探索可能な宇宙の可能性は2の一兆通りある-コンウェイの図書館とでも言おうか、「莫大」ではあるけれど、もっともっと「莫大」なデモクリトスの図書館に比べれば消え入りそうな一部だ。 どうすれば「xができるものを設計」できるのか?或いは「そのすてきな「x屋」を作ったあとでどうやって損傷から守ろうか?」と問いかける。
物理学者ジョルジ・ワーゲンスバーグは最近、この普通の生命体との類似性は偶然じゃないと論じている。コンウェイのライフゲームには言及していない論文で、かれは情報や不確実性、複雑性の定義を開発し、そこから「環境の不確実性に対する独立性」の指標を導き、それを使って複雑な環境で永続性またはかれ流に言えば「同一性を保つ」ためには、各種の「独立」を保つ手法に(確率的に)依存するしかないことを示した―そしてそうした手法の中には、「単純化」といった「受動的」な手法(たとえば種子や胞子)、冬眠、隔離(盾やシェルターに隠れる)、ひたすら巨大化、そして何よりも予測を必要とする「能動的」な手法が含まれている。「生物相がある環境の中で進歩するというのは、その生物相の新状態が環境の不確実性に対してもっと高い独立性を持つということである」壁が使えることもあるだろう。その壁が十分強くてなにもそれを壊せないような場合には(何も?まあそれまでそこに投げつけた最大の投射物Gより小さいモノでは壊せない、という意味だ)。壁はそこにじっとして打たれっぱなしで、何も「しない」。一方、可動保護器は、宿営地のまわりを行進する歩兵隊みたいに固定コースを動くか、あるいはランダムに動きまわって壁をきれいにする水泳プールの自動掃除機みたいにランダムな軌跡を描くこともできる。あるいは、動き回る環境についての情報に基づいた誘導型の軌跡をたどることもできる。自己修復できる壁というのもおもしろい可能性だけれど、じっとしている壁よりも設計がずっとむずかしい。こういうもっと高度な設計、自分の可能性を改善する手だてを講じられる設計は、かなり高価になったりする。自分たちの状況についての情報に反応しなきゃいけないからだ。直近の隣接セル(それぞれのピクセルを囲む八つのピクセル)は情報を提供するなんてもんじゃない―それは完全に未来を決定してしまう。すでに起こりはじめた衝突については「もう何をするのも手遅れ」だ。自分の創造物に、接近しつつある被害を避けてほしければ、それが適切な対応を「自動的に」(いつもやっている通りに)やってくれるか、あるいは何らかの方法でそれを予測して、先導役か何かに導かれてもっといい方向に向かう仕掛けが必要になる。これが回避の誕生だ。これが防止、保護、誘導、拡張、その他もっと華やかで高価な行動の誕生だ。