エドマンド・ウィルソン
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『ユリシーズ』の力は一つの線に従うのではなく、単一の点をめぐってあらゆる次元(時間の次元も含めて)に拡がる。『ユリシーズ』の世界は複合的で無尽蔵な生によって生気つけられている。つまり、我々はその世界を何度も防れる、ちょうどある都市について、何度もそこに立ち戻っては、いろいろな顔を認め、様々の人物を理解し、種々の関係、傾向、関心事を把握するのと同じように。ジョイスは注目すべき技巧的才知を発揮して、我々が自らの方位を見出すことができるような順序で、彼の物語の諸要素へと我々を導いてくれる。しかしながら私は、はじめてそれを読んだだけで、『ユリシーズ』の諸要求をかなえうるだけの記憶力を備えた人がいるのかどうか、疑わしく思う。そしてそれを読み直す時には、どこであれ任意の簡所から始める。あたかも、それが実際に空間中に存在し、どの方向からでも入ることのできる都市のように堅間なものであるかのように―それはちょうど、ジョイスがその書物を執筆する際に、同時に様々な部分と取り組んでいたと言われているのと同様である