だがそれなのに、おれはといえば、大きな暖炉の前で温まっているのだ。テーブルの上に咲いた花籠からは、安息香、ゼラニウム、黄絲子の匂いが立ちのぼり、部屋いっぱいに満ち満ちている。十一月のさなかというのに、パンタンのパリ街ではまだ春が続いている