だからおれは心中ひそかに嗤うのだ、近づく寒さを避けるため、あわてふためいてアンティーブやらカンヌやらに逃げ出す臆病な連中を。きびしい自然も、こうした別世界には何ら関係がないのだ。言っておかねばならないが、パンタンの町がこんな人工的な季節を迎えることができるのは、ひとえに工業のおかげなのである。実際、この町の花々は、真鍮の針金に支えられた造花なのである。春の香りは付近の工場、ピノオとかサン・ジャムとかいった香水工場から吐き出され、窓の隙間から家々に忍びこむのである