ルシール・アザリロヴィック
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外界=世俗と隔絶された森のなかに佇む寄宿学校。男性を排除した楽園に漂うユートピア的な自由さと閉塞的な色調。寓意と暗喩の織りなすアザリロヴィックの童話的美学は、その美しさに孕む残虐性を、その無垢さに纏う工作の数々をまことしやかに描くのだった。多くを語らないストーリーテリングに、決して一定のラインを超えないエロティックとグロテスクさを隠し持った繊細な映像。それを可能にする彼女の技は、唯一ミネハハを、ヴェーデキントのものとして映像芸術へと落としこんだ。
人間も変態します。乳歯が抜けるのが最初の変化。皆さんの体はもうすぐ第二の変化を迎え、毎月数日間にわたって出血します。
少女という白い季節は月経という赤い季節を経て終わりを告げる。変態を終え空を舞うモンシロチョウへ指を差しだし「繁殖の相手を見つける時が来た」と、呟くエディット。それを暗に示すかのようにビアンカはモンシロチョウに扮し、顔のない男性客へと踊りを舞う。
ラストのシーン。噴水という男性性の寓意に手を添えるビアンカ。彼女とみつめあう青年。いつしかに男性を魅了する術を得た彼女の視線は、かつての白亜に包まれた少女性を忘却の彼方とし、変態を遂げた成体の様相を醸しだすのだった。
そして予感される悲劇的な行末。それは蝶から標本箱へとつたう針を通しながら呟くエディットの言葉と共に反響する。
外は楽園ではないのに(...)失望して苦しむ。