マラルメ
1876『The Impressionists and Édouard Manet』
いかなる芸術家も,そのパレットの上に,外光に対応する透明で中性的な色を持ってはいないので,望み通りの効果を得るには,筆のタッチの軽重,あるいは色調の調整による以外に方法がない。そこでマネとその一派の画家たちは,単純な色彩を,鮮やかに,あるいは軽く画面に置く。その結果は,最初のタッチですでに達成されたように見え,つねに存在する光はあらゆるものと混じり合い,それらに生命力を与える。画面の細部に関して言えば,画面を照らす明るい輝きやそれを覆うほのかな影が,観者が描かれたものを眺めるちょうどその瞬間だけ立ち現れて見えたと感じることができるように,いかなる部分も明確にはっきり描かれてはならない。描かれたものは,絶えず変化し反射する光の調和によって成り立っているゆえに,つねに同じように見えるはずがなく,運動と光と生命とによって微妙に揺れ動いているからである。 (...)印象主義の力によって私が保持するのは,単なる再現よりもつねに優位にある既存の物質的世界の一部ではなく,ひとつひとつのタッチによって自然を再創造したという喜びなのである。私は,どっしりした,手に触れうる堅さの世界は,いっそうそれに適した表現者である彫刻に委ねる。私自身は,絵画の明澄で永続性を持った鏡面の上に,つねに生きていながら一瞬ごとに死んでいくところのもの,〈イデア(観念)〉の意志のみによって存在し,しかも私の世界の中で自然の唯一の真性で確実な価値を形成するところのもの──すなわち〈アスペクト(様相)〉を反映させるだけで満足なのである。 
ここでもマラルメが力説するのは,タッチの重要性である。堅固で実体的な物
質世界ではなく,光と大気の中で揺らめき,つねに移ろっていく世界を捉える
ことができるのはタッチである。