たとえ彼が努力と手だての限りをつくして岩礁や渦巻きをくぐり抜けることに成功したとしても、まさにそのことによって、彼はひと船足ごとに、最大の、全面的難破―避けることもできず救いようもない難破に近づきつつあるのだということを。いな、彼はもともとこのような難破をめざして―すなわち死をめざして舵を取っていたのだといっていい。死こそ苦難にみちた航海の最後の目標地なのであり、死こそ人間がこれまで避けてきたあらゆる岩礁よりもはるかにひどいものなのである