1話
2018/10/08
母の立ち絵と声めちゃくちゃいいな……。
小さな王国の長、ってのは直観的にはよくわからない。高貴な少女が俗世へと降りて来る、というのはエロゲーでもたぶん頻出で(パッと出てくるのは『星空☆ぷらねっと』とか)、まあ市井の文化とのギャップ萌えとかローマの休日ごっこできるやんけとか色々あるわけだけど、既に現地に根を下ろして久しい高貴な家系の末裔、となると動きが予想できない。
「瑠波ちゃんが嫌いなんじゃなくて、
女王様の瑠波ちゃんが嫌いなんだと……思う」
私人としての人格と、公人としての立場と。仮にそういうズレ、或いは両面性を巡る話なのであれば、会長などが攻略対象ヒロインではないことも頷ける。「ただの学生」として在れる者には関われない物語。外身と中身との対比について。
世界にはこんなにいいことがあるんだと、
夏の楽しさを列挙し続けた僕が
これでは駄目だと気付いた時は夕方になっていた。
なんか知らんけどすごい好きな言い回しだ。主節が長い日本語だいたい好きだがあまりエロゲーでは見ない印象があるな……(たぶんなるべく文章の前半に主述の対応を揃えて置くことで読み飛ばしビリティを高く確保したいみたいな意識が書き手に芽生えやすいんだろうなーとは思う)。
瑠波母は資産を食いつぶして夢を見ていた、と。悲しすぎる/重すぎるのでは……。
2話
蜘蛛をめぐる会話、よい。余人の振る舞いに理解を示しつつ個人的な感慨を開陳する、主人公のフラットな有りようはかなり好ましい。
名誉国民氏と会っても、不躾な質問を控える倫理観がある。こういうのはとても安心する……。
「友情は見返りを求めないだよ」
屋上で……お前……!
薫くんかなり強キャラ感あっていいな。Dear My Friendなどに出演しても戦えそうなくらい強そう。
会長が毎回名前を呼ばないのとか、たんに無礼だという話だとしんどいので何かあってほしい。あんまり身内感なくて思い入れる余地が生まれづらい状況で傍若無人キャラやられるの結構つらいんだよな……。
3話
そして瑠波は女王様になった。
その夜、僕からこの話を聞いたかあさんは、
その場で、ここへ引っ越してくる決断をした。
こうして僕らは王国になった。
本人不在の回想で株を爆上げしていく母。素晴らしい……。
これもそうだけど、ちょいちょい超エモ・モノローグが発生するの非常に脳によいので頑張って持続させてほしい。
王国とは幼い頃の約束の証であり、母から受け継いだ/いまも続く少女の夢の具現でもある、と。少しずつ輪郭と手触りが明確になっていくこの感じ、悪くないぜ……。
太郎丸誘拐の折、「(隼人、騒ぐ必要はないんじゃないか?)」とこれが僥倖であるかのような物言いをしておきながら、主人公が反論すると微笑みながら「(だろうね。今のは忘れて)」と返す薫くんめちゃくちゃいい奴か真のサイコパスの二択だな……いや前者だろうけど……。
不興を買うリスクを冒してでも友人に楽な逃げ道を提案する、そういう友情もある。
こうして僕らは友達になった。
エモッ…(エモ死した人間特有の断末魔)
始まりと終わりの対応な……。オタクなので構造が好き……。
4話(希)
カブトバトル! それは熱き男たちの戦い! という感じの。
呼び名の変更はエモいのでいいよね……。
たとえばお嬢様と小鳥や猫との組み合わせは、お嬢様という存在に付帯する不自由さの類と対比する形で動物の振る舞いが機能したりするわけだけど(籠の鳥なんかは直接的に重ね合わされたりするが(猫はチェシャ猫の比喩だったりするよな))、そこへいくと虫ってのはどうなんだろうなー。まだあんまり見えてない。
5話(希)
料理勝負を「いい機会でもある」と称する女王様。或いは既に夢の終わり方について考えている、ということなのかな。
虫を食べるのもあり、ということはアシダカさんだけやっぱり特別ということか。うーんまだ見えない……。
6話(希)
希の自然に対する観念が語られる。人間の手を加えず、無為自然に任せるべきだというスタンス。では彼女の部屋で特権的に飼われている/友達とまで称されるアシダカさんは? ……という疑問は当然生まれてくるわけで、だんだんと手触りが確かになってくる感覚がある。
「……誰かにそう言われたことがあるの?」
「……両親から」
巧い。間の取り方(声優の演技指導)も、「両親」という言葉選びの絶妙な遠さも。これまで描かれた理事長と響子との関係性が温かいものであればあるほど、ここで明かされる隔意の冷たさは無限に高く想像される。いい構成やんけ。
「カブトさんの言うとおりかもしれません……
同じ糸でも、蜘蛛は自活のために糸を使いますから」
自死のための糸→首吊り みたいな短絡的発想をやめたい……。けどまあ無い線というわけでもない?
7話(希)
理事長ちょっと八乙女祖父っぽいニュアンスあるよな……。
かなり不穏な雰囲気は出してくる、けどあんまり一面的な悪とか設置するタイプの物語には現状見えないしそこらへんはうまいこと奥行きを出してほしいところ。
8話(希)
「いやあ、素直な目を持ってくれて、
母はうれしいなあ、と思ってさ」
けっこう核心っぽい気がする。主人公の振る舞いについて。
このキャラ配置で後継者問題とか使わないのはちょっと驚き。よい傾向です。エロゲーでお嬢様の進退問題扱ってよかったと思えたことが一度もないので……。
その時、僕の中で駆け巡った感情を
なんと表現すればいいのか、しばらくの間、
僕は思い返しては戸惑うことになる。
こういう表現すき……。弱い回想というか。主人公の目=プレイヤーの目であり、リアルタイムに世界が推移している―――という約束事が一瞬にして揺らぐ感覚。時間間隔の撹乱。こういうのもっとちゃんと考えたいよね。
9話(希)
「何故と聞きたいのはこっちの方だよ。
何の真似? どうしてこんなことをするの?」
「個人的な興味から、確認したいことがあったからだ。
お前は我を止めた……ではもし、希が同じことをしたら
どうする?」
『個人的な興味から』! 約束の宮殿は彼女と彼のものであるにも関わらず、飽くまでも瑠波は個人の問題として責任を引き受けようとする……。ううう……。
「とは言え、
じゃあどういう気持ちなんだと訊かれたら、
『わからない』としか答えられない」
「君のことが好きと言えれば、
多分、すぐにカタがつくんだろうけど、
それで済ませていいような気もしないんだ」
こういう誠実さ。好きだぜ。
「ごめん……モヤモヤしてるんだ。
僕の中が。だから、これ以上は伝えることが
出来ないみたいだ」
一見するとロボットのような独白。自分の内心と距離をとり、客観的な発話を行える、というのは端的に非凡な資質と思う。
「ええ。やはり、何かが足りない気がします。
言葉なのか、時間なのか、共有する経験なのか……
あるいは、単に難しく考えすぎてるだけなのか」
エロゲーだからね、と寛容にスルーすることに慣れている/その覚悟もある事柄について丁寧に掘り下げてくれるのは単純に気持ちいい。ゆったりと時間を遣ってくれても構わんよ……。よく見せてくれ……。
お互いの感情について確認を進める隼人と希。めちゃくちゃ善い。恋愛を非自明なものとして扱うということ。
「わたしたちは、世にいう
相思相愛の仲なのでしょうか?」
「わからない。考えないと……
考えてもいいかな?」
「大切なことだと思います。
お互いのことですし」
もォ――――――!!!!(机をバンバン叩く成人限界キモオタクの図)
あまりにも良すぎて失速しないかどうか心配になってきた。このまま飛べるのかこれ? ってくらい高高度だぞ今……。
蚕か。虫で糸、って話で蚕を連想できないのもどうなのってくらい順当な発想だよな……。いや全く思いつかなかったのだが……。
10話(希)
いま気付いたけど駅にしろくま町や獅子ヶ崎への観光ツアー案内あるのね。ちょっと嬉しい演出。
上郷町はわかんなかった。夏少女なのね。
流石に鳳華女学院は観光で行ける場所じゃねーよな……。
ゆのはな町はまあ夏に行くところじゃないからね……。
隼人くんめっちゃ好青年って感じの容姿してるやんけ!!
「だけど、僕はどうだろう?
僕の世界はこの猫庭の、王宮にある。
僕はこのままでいいのかな?」
作品全体を通して問われるもの、ではあるのかな。ひょっとすると瑠波√ですら。
11話(希)
「仮に……仮にだよ。
僕がこの家からいなくなったら、
かあさんと瑠波はどうなるんだろう?」
「特にどうにもならないでしょ」
拍子抜けするほど、かあさんはあっさり答える。
(中略)
「母から息子に忠告してあげよう。
同じ質問を瑠波ちゃんには、しないこと」
(中略)
「……ただ、単純にあたしと瑠波ちゃんを、
隼人がここにいる理由にはしないでね」
ここまで言っておきながら理由は一切教えず考えるよう諭す。理想のメンターといった趣がある。
メタな話をすると、どうでもよい衝突で物語を遅滞させまい、というライターの意思表示にも見える。そういうの大事。
「気付いていないのはあなたの方ですよ、諫見隼人様。
お嬢様は虫にも人にも同じように接します」
馬鹿馬鹿しいパートを単独で担ってきた響子氏から唐突に差し込まれる棘。不穏さが一気に導入される。
「お嬢様は生まれついての観察者なのです。
冷徹な目を持った、冷たい冷たい観察者。
そこに、私は反応したのです」
たんに容姿や振る舞いに惚れ込んだ相手に己の性癖を仮託していたわけではなく、と。ここにきていきなり奥行きを持ち始める響子氏。
男主人公によるヘテロ性愛が前提の創作物において対象をヒロインとする女性同性愛者サブキャラの格ってめちゃくちゃ下がりがちだよねという話はあって(私しかしていないかもだが(そんなことないよね?))、当て馬になったり完全なるコメディリリーフになったりするわけだけど、後者の文脈を採用することによって本物の狂人をその狂態も含めて画面に描き続けながらもプレイヤーに深刻に受け取らせず潜伏させることに成功していた、ってのは結構びっくりするくらいテクい気がする。
12話(希)
順当にファックしたりなんだり。
13話(希)
「瑠波みたいに、
自分が背負わなくちゃいけないものを
持っていたわけじゃないから」
瑠波を背負うのでは? みたいな突っ込みは無粋なのであろうな。
「なぁに、祝福してほしかった?」
「うん…………甘えてるかな」
「そんなことは言わないわ。
でも、いまは『おめでとう』とも言えない」
ねねねぇ√のいっちゃんを思い出すよね……。
希の庭。
希の世界。
神聖にして侵すべからず。
こういう遣い方をしてくるか……。二人目以降を見てみないと何とも言えないけど……。
希√終了。
9話がハイライトだったかな。自明性を全く前提しない恋の発話。痺れたぜ……。
アシダカさん周りは思っていたよりも弱かった、というよりはそもそも希の物語ではなかった、という印象かなあ。飽くまでも諫見隼人という少年が少女の振る舞いを契機として己の世界を広げる話であって。
お嬢様なのに実家問題を使わないのはえらいっ! と思ってたけど、まさか実薪の家それ自体の存在が物語の焦点になり、希はちょっと外れた位置にいるとは……。
やっぱりどうしたって騎士としての隼人の物語の終わりが主眼になっちゃうよなあ。これはもうしゃーない。もっと強くできるシナリオだった気はするけど、善かったのではないかしらん。
3話(操)
王国がある? ない?
もちろんない。当たり前だ。
それは僕と瑠波の約束の中にしかない、
かりそめのもののはず。
かりそめの約束である、という原初の記憶が現に成立している王国のありようから彼の目を逸らさせている、とゆーのはあるのかも知らん。
4話(操)
ごはんを炊く女王かわいい……。
老自転車のサドルかハンドルを外して保存しておこうみたいな話、よい。
こういう話に主人公があまりついていけない、というのはちょっと示唆的かも(彼にとっての『王国』は瑠波と共に始まったものだが、瑠波にとってのそれは遠い祖先から続くひとつながりのものである、みたいなズレの発露として)
「わたし……ふたりのお陰で、
因数分解に立ち向かう勇気が湧いてきたよ!」
「もうダメ……
わたしに因数分解は手に負えないよ……」
即堕ち1クリックずるい……。
5話(操)
6話(操)
瑠波のことを保護対象として見ている隼人と、対等な友人として見ている操。よい対比。
「操ちゃんがいるとね、
あんた達、年相応にみえてホッとするのよ。
まぁ、それはあたしのエゴなんだけどね」
母の発話が軒並みよい。
ここの応酬めちゃくちゃいいなあ。本題に切り込む母に対して、母が疲れているからと気遣う体で話を逸らす息子、しかしあまりにもクリティカルな話題だったので素直に応じてしまう……という。まあこんなに張り詰めた子供を2人も育ててたらそりゃ心配だよね母……。
操の明け透けだけど押し付けがましくない気配り力。てぇてぇ……。
漢字の開き方が俄にかにしの分校めいてきた。そういうことかい?
7話(操)
「な、なにぃ」
さては滝沢司だなオメー?
「偶には、
自分の為に何かをしようと云う気にならぬのか」
奉仕の存在としての。
「……『したいからして居る』か。
そなたは仕えるのに向いておらぬな」
「気が向かなくなれば、
我も我が王国も、
弊履の如く捨てるであろう」
ちょっと難しい。何がって瑠波の心情が。
文章の雰囲気とか見るに、やっぱり丸谷担当√ってことでええのかしら……。
8話(操)
隼人の瑠波への対応がちょっと厳しい(彼女の自律心を挫く方向に振れ過ぎてる)のはたぶん意図的な処理なのかなーとか。ここまでの積み重ねを踏まえての。
あー既視感の理由がわかりましたわ。かにしのの奏だわこれ……。
「なんていうかな……
手が届くところで、
世界が収まってる感じ……」
主人公にとっての、神聖にして侵すべからざる場所について。
勝手に盛り上がって勘違いに気付いた瞬間の操が慌てるでもなくすぐ笑顔を取り繕うこの瞬間! その演出、その細部に魂が宿るンだよ……いい仕事してますね……。
「……操にならそなたを任せられるであろう」
なんだこの女王……てぇてぇよ……。
目が見開かれ、口が大きく開きかけて、
悲鳴を覚悟したのだけど、
操は自分で口を押さえて悲鳴を押し殺してくれた。
とっさに僕を思いやってくれたその動作に、
こんな時でもこちらを気づかってくれてることに気づいて、
沸騰しかけていた頭がわずかに覚める。
ンッ(絶頂)
こういうのすき……。
「わたしたちせっかく仲良しで、
ずーっとご近所さんなのに、
こんなことでそれが変わっちゃうのいやだ」
(中略)
布団の中で涙が出そうになった。
僕がエロいこととか
さかしらなこととか考えているあいだ、
操は僕たちのことを考えていたんだ。
語る必要のない善性……。
めちゃくちゃストレートに好意を自覚する隼人。さっき希√だったので落差が。
9話(操)
いつもと同じように操を送るだけなのに楽しいのだと嘯く隼人。
「王国」は法や行政からの承認といった形での根拠を持たない、多くの人間の認識にのみ下支えされたものであって、だから彼にとっての認識の変質はすべて彼の中での王国の位置づけの変質につながりうるという意味で重要なのかなー、みたいなことをぼんやり思ったりした。
瑠波のぽんこつさ、隼人の保護者目線が個別に入ってから有意に減らされていることは意図通りの演出だったりするのかしら。瑠波の自律心をスポイルし続けていた、ということ。
そしてまた、彼女はそれを憎からず思い受け容れていたであろう、ということ。
操の歩く速度にあわせて……
なんて考えた時には、
もう体の方が反応して操に合わせていた。
ああ、そうか。
僕はこの速度を昔からよく知っていて、
いつも合わせていたことに初めて気づく。
それくらい操のいろいろは、
僕の中にしみこんでいる。
身体性に組み込まれた他者。
唐突に自分語りするけど、未だにズボンの裾を下方向に引っ張られるとそこに数年前飼っていたハムスターがぶら下がっているような錯覚をリアルに覚えることがあって、神経の反応経路に彼の残滓が息づいていることに奇妙な安堵のような感覚を覚えてしまう。そんなことを思い出した。
僕の中にわきおこった熱いちからは、
ふたりきりになったら、
操を簡単に組み敷いて思いのままに出来るだろう。
こんなに大切で、
どんどんいとしくなっていくのに、
その相手にこんなことを考えてしまう。
僕は操から離れようとした、
善!!!!!!!!!!
性欲と愛情との境界線を撹乱し後者のついでに前者までをも肯定するような無邪気さと距離を取りたがる隼人氏。倫理的だ……。
この子を世界で一番大切にしようと思った。
瑠波……。
10話(操)
操との恋よりも瑠波との対立の方に惹かれてしまう、のはもう仕方なかろう……。
「だから、家族でいるためには、
それなりの努力がいるの……。
もし家族を続けたいならね」
母、喋るたびに世界が善くなっていく。
「この夏に復活した我ら三人の楽園は
終わったのだ」
瑠波はいつも終わりを見据えながら夢を視ていた……。
11話(操)
石窯作り! 途端にいい流れになってきたじゃあないか……。
考えてみれば、丸谷がこの設定から三者の人間関係に閉じた話を書くというのはあまり想像しづらいことではあったな。猫庭全体を使いたがるに決まっている。かにしのみさきち√が大好きな俺たちとしてもな……。
「ハヤト。
我は、長年、そなたの事を好いておった。
判るとは思うが、男女の間の好いたであるぞ」
あびゃ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~(すべてが崩壊する際の鳴き声)
初手にこれを言ってしまうあたりが瑠波なんだよなあ……好き……。
(女として)好かれているとは思っていない、いや好かれるべきではないと思っていた、と嘯く瑠波。負い目、なのかなあ。ここらへんは地味に希√ではぼかされていてよく見えなかった。
「だ、だが、我の此の国は黄昏の国であるぞ。
先には滅びしかない国で在るのだぞ!
其の様な茶番に付き合って何とするのだ!」
「我の」なんだよな。ちょっと前の旅人って比喩もそうだけど、瑠波はたったひとりの王国を看取るつもりでいる。
茶番を意識的に維持しよう、という人間の心の動き全般が好きなんだよなァ……。Marronゲー、というか竹井10日の資質の最も好ましいところはそこだと思う。
「縛り付けられてなんかいないさ。
昔、僕が選んだんだ。ここにいることを」
エモのエモです。
操√終了。
恋愛の導入部で安直なテンプレに頼らず独自の道筋を採用したこと、最後の仕掛けに猫庭という大きな世界を用いたこと、の二点が素晴らしかったように思う。一方であんまりイチャラブパートに感じるものがなく、かにしのの時からそうだけど仲睦まじくなってしまってからの丸谷シナリオとはあんまり相性がよくないのかも知れない(出来が悪い、とは全く思わないのだがとにかく中だるみを主観的に感じてしまう……)。それだけ頭と尻尾がよかった、ということではあるのだが。
4話(澪里)
皿洗いパートは完全に主人公が悪いよなあ。頼んでもやらせてもらえなかった家事をやっと手伝わせてもらえたと思ったら意気を挫くような減点法のアドバイス、というのは……。
こういうの無神経に書くライターではない、と信じたいのでまあ意図的に主人公のよくなさを強調してるのだなーと見做しつつ。
5話(澪里)
モデルのお姉さんたちのやさぐれ感、かなりギリギリ感漂う。
6話(澪里)
「……きっと誰でも私よりはましだわ」
血の通った台詞。
「うう……この先の展開を考えると、
諫見の心証を害するようなことを話したく無いのだが、
私は元来不調法なのでどこかで害してしまうかもしれない」
(中略)
「くぅっ……苦痛だ。
こう、何と言うか……私は嫌な奴だな、客観的に見て、
これでは友達が出来ないのも道理だ……」
さてはこいつ……いい奴じゃな?
「女から?」
メール受信した息子を見てこの台詞が初手で出せる母。つよすぎる。
「良い潮であるか……」
すぐに隼人を諦めようとする女王……。
7話(澪里)
メールの緊密なやりとりで進行するの面白いな。かなり幅のある表現ができそう。
8話(澪里)
飽くまで恋人ごっこだと嘯く隼人、そう思っているのは先方だけではと混ぜっ返す瑠波、そうだとしてもやることは変わらないと返す隼人。そして瑠波は否定しなかった隼人を詰問することもなく寂しげに笑っている……。
「そうか……
貴方みたいな人がそう言ってしまうのなら、
まだ私は綺麗なんでしょう」
思わず綺麗だと漏らしてしまった隼人の言を受けて。こういう屈折は好き。
9話(澪里)
「せせせっせっくすしろ」
未だかつてこんなに情けないファック要求があっただろうか……。しかもヒロインから……。
「わ私いいわって言った時さっきキスだけじゃないとか思って
でもここで行かれちゃうと次が大変になりそうだからそのね
きっかけがこのままあのそのだから私とそのあのその」
kawaii...
10話(澪里)
母の過去語り。端的によい。
国友父の得体の知れない感じは結構いいな。不穏さの維持。
11話(澪里)
母の存在が本当にいいなあ。メンターとして振る舞うことで子供たちを強化しつつ、敵対する大人の格を適度に下げる動きもしてくれる。シナリオの歪みを除去できる立ち回り。
シナリオ的に国友父がやべー奴に見えてきたタイミングで、「本人も案外、うまく行き過ぎてびっくりしてるかもよ」といった旨の発言を差し込んできたり。有能すぎる。
そういえばかにしのゆーなさん√における丸谷の美質とはまさにそのようなことではなかったか。世界の/人間の多面性をこれでもかと強調し、その複雑さを尊重する筆致。
国友父がすげーうまいこと状況を操作して総取りしたように見えるけど、実際のところ澪里が爆発して思いの丈を語り始めたのならそれはそれでいいのではないかと思ってたんちゃうんかなーとかね。思っちゃうよね。
澪里√終了。よかった。
細かい筆致はあんまり丸谷っぽくなかった気がする(特に文体とか)、けどキャラの動かし方なんかは丸谷っぽいんだよな。単独でない、というのが一番しっくりくる説明ではある。
希と逆で、こちらは話の焦点を国友父にずらしてくれた方が個人的には気持ちよかったかもしれない。どうも僕はそのシナリオで最も強度の高いキャラクターが話の中心にいて主人公と対峙していてほしい、と思いがちなようだ。
そういう意味では無限に母に喋らせてほしいみたいな気持ちはある。
5話(瑠波)
だけど、瑠波が全部出来るようになれば、
もしかして僕はいらなくなるのか?
そもそも君は彼女の心を慰撫するための騎士であってお手伝いさんちゃうやん、とか言うのも野暮よね。
始めるための切っ掛けと維持するための理由付けのずれ、というのは常に注目したいポイント。作品問わず。
「……戯れ言を」
冷たい声。声優のチカラを感じる。イイネ!
「ふぅん……
それは確かにそうかもしれないけどさ、
一緒にはいられるかもしれないよ」
「一緒にいたいと本当に思うならね」
薫もメンターとしてちょくちょく善い動きを見せるんだよなあ……。
7話(瑠波)
「そーなんだよねー。
たいてーのことは、
正義の味方が来てもダメなんだよねぇ」
明確な悪がいるわけでもなく。本作全体を貫く倫理。
「あんたの態度が瑠波ちゃんには
重荷なのよ」
「え」
「さて、歯を磨いて寝るとしますか」
「今、不意打ちでシリアスなこと
口走ったろう!」
いい会話だなあ……。
8話(瑠波)
「瑠波ちゃん。
この不調法な男でいいの?」
「この男でなくては嫌だ」
「あ。そう。
話はこれでおしまい」
いい会話だなあ!
「そなたが悪いのだ。
執事から殿下にジョブチェンジしたのだから、
威厳なり威風なり放射せよ」
いい……。いいとしか書いてねえな……。
「そなたこそが、
我にとって神聖にして侵すべからざる
存在であるからだ」
ここで遣うか……。
王国っていうのは
本当に牢獄で流刑地で夢の残骸なんだろうか?
そんなものを真理亜さんは残したんだろうか?
焦点。
9話(瑠波)
「そう簡単に辞められるかしら?」
王国は法に支えられて存在している訳ではないからにゃあ。
他ならぬ無形の約束によって隼人を拘束していたハズの瑠波が、王国を支える民衆の心に無頓着なのはちょっと面白い。
「呆然としている私に、瑠波ちゃんは言ったんです。
一緒に戦うんだって……。
助けてやるとかじゃなくて、戦うんだって言ってくれた」
本人不在の場で格が爆上げされてゆく……。
王国とは何か、を問うていく話が来るのか。いい流れだ。
先代女王が浪費家ではなかったことが明かされる。上でも書いたけど、キャラクターをステロタイプで処理しないことにかけて、丸谷は信頼できるライターだ。
ここで会長の実家を持ってくるか。なるほどなるほど……?
「だって、うちが助かる代わりに、
その正義の味方さんが何かを失うわけでしょ?」
「それってマイナスを
あっちからこっちへ移しただけでしょ?」
個人的な問題意識に大きく関わる発話だ……。悪性や負債のゼロサムゲームについて。
めちゃくちゃどうでもよかった会長が最後のシナリオの焦点と化している……。なんか知らんがすげえ……。
僕らは無力で小さく、
墓は巨大で、世界はもっと巨大だった。
いいレトリック。
「もう、いいのですよ。
王国は皆の心の中にあるのですから。
そして、誰もが忘れない」
善い。
二行目までなら、下手をすれば一字一句違わず被りかねない在り来たりな文面だ。でも最後の一行で途端にエモくなってしまった……。
ドクトル、そんなにたくさん喋ってないのに存在感がすごい……。
瑠羽√終了。素晴らしかった。
先代女王の浪費、宮殿の縮小といった話を他√も含めて繰り返し語ることで「失われつつある黄昏の王国」というイメージをプレイヤーに刷り込み、消えゆく王国であるとしてもなお、みたいな方向の解決を予感させておいて、実際には王国とは王国を信じる人々の関わりの中に息づくのだと結ぶ。
個々の人間の心の中にあるのではなく、その関わりの中にあるのだと結論付けたところが素晴らしい。時の試練に摩耗し失われる静的な記憶というわけではなく、むしろ経時的に発展しさえし得るものとして王国が再定義されている……。