Virtual Hallcuingogen
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IAMAS 第20期生修了研究発表会・プロジェクト研究発表会 出展作品
The PC is the LSD of the 1990s─かつてパーソナルコンピューターはvirtual(≒実質的)なLSDとして期待されていた。PCと幻覚剤は自分自身のリアリティを創造するのに役立つという共通点を持ち、PCのサブセットであるVRはその特徴を色濃く受け継いだメディアだ。本作品は幻覚剤を変性意識状態を引き起こすものと定義し、幻覚剤の効果を模倣したVR体験である。
https://youtu.be/5iMXXCzU3-g?si=_p22LTaeOALoYjno
https://youtu.be/4lGr9Ez4fV0
修士作品
Virtual Hallucinogen
修士作品《Virtual Hallucinogen》は幻覚剤をVR技術によって模倣した、バーチャルな幻覚剤である。幻覚剤や瞑想、催眠などによって生起される特異な意識状態である変性意識状態(Altered states of consciousness,ASC)に着目し、幻覚剤によるASC体験と等価な体験をVR技術を用いて設計することを目的とした。幻覚剤によるASCの中核的な症状を「自我の溶解」、特徴的な症状を「視覚の変容」と捉え、後述する三つの要素を検討し、体験を設計した。
「シミュレーション」の要素では、幻覚剤による視覚の変容に着目し、先行研究《Hallucination Machine》のビデオシースルーHMDを用いたリアルタイム化を試みた。《Hallucination Machine》は、同研究において幻覚剤による幻視の体験と質的に類似していることが明らかにされている。DeepDreamという視覚化アルゴリズムで処理された360度映像とHMDを組み合わせたシミュレーション・システムである。
「刺激」の要素では、脳波をASCの状態に近づけるために、バイノーラルビートという形式でα波のエントレインメントを起こす聴覚刺激を取り入れている。α波は深い瞑想状態にみられ、時間知覚にも重要な役割を果たす脳波であり、歴史的に変性意識マシンの設計において注目されてきた。
「セットとセッティング」は被験者の内観や物理的環境などを示す用語であり、バッド・トリップになるかグッド・トリップになるかを左右する要素である。本研究では先行研究を参照し、グッド・トリップになるような体験シーケンスを設定した。
本作品は体験者をASCに導くことを目標にしており、その試みが成功した場合、精神的なrecreare(再創造、回復などの意)が起こると予想される。また、体験そのものあるいはVRと幻覚剤の関連性という視座の提供によって、自らのリアリティに対する認識を拡張させる契機となりうる。
修士論文
How to design virtual reality experiences like hallucinogens.
幻覚剤とバーチャル・リアリティ(VR)は、近年、再び注目を浴びるようになった存在である。現在は約半世紀ぶりに幻覚剤研究が再開された「サイケデリック・ルネッサンス」の潮流と、「Oculus Rift」を皮切りとした90年代ぶり二度目のVRブームのさなかにある。両者は世界的な精神疾患の大流行という喫緊の問題を抱えるメンタルヘルスの治療の成果をあげるために用いられ、一時的に視点を変え、凝り固まった精神的経験のパターンを破壊するという共通する能力が、両者の治療法の基礎にある可能性が示唆されている。
両者はカウンター・カルチャーによって結び付けられる。60年代にサイケデリクスの伝道者として活躍したティモシー・リアリーは、晩年には”PC is the LSD of the 1990s”というスローガンを掲げ、それらが自分自身のリアリティを創造するのに役立つと主張した。PCのサブセットであるVR技術は、その特徴を色濃く受け継ぐメディアだと考えられる。一方、VRの父であるジャロン・ラニアーはVRの幻覚剤との相違点に、体験の共有、制御、発展の可能性を挙げている。VR技術を用いた幻覚剤の模倣という行為は、幻覚剤との比較からVRというメディアに備わる潜在性を見出そうとする試みである。
本研究はこのような状況を背景として、VRを用いた「バーチャルな幻覚剤」の設計を目的とし、リアリティの創造を実践する。
両者は毒にも薬にもなりうる「ファルマコン(pharmakon)」であり、それを取り込むことの重要性は「役に立つ/役に立たない」という二元論の外側の視座をもたらすことにある。本研究、そして幻覚剤とVRに共通する真に魅力的な能力は「このリアリティが唯一のリアリティではないというリアリティ」を与えることだと筆者は考える。VRはその技術のあり方によって、この文章を読んでいるあなたの主観的現実がVRに過ぎないことを示し、幻覚剤は意識を変容させることでそれを成し遂げる。現実の複数性に対する実感は、私たちが対峙する行き詰まったリアリティの打破への鍵となる。
修士作品《Virtual Hallucinogen》はVR体験のみならず、処方箋として本論文も含めて一つの作品になる。リアリーの「私たちのリアリティの限界は、私たちの想像力の限界によって決定される」という仮説には筆者も同意している。本研究は幻覚剤とVRを等価に扱うという行為をもって、体験者/読者の想像力を拡張する。
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#2021