新村浩望・土川喬太・吉啓介「丸の内一丁目農園」
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100年後、世界は人口が増加し、深刻な食糧不足に陥る事が考えられる。食料の大半を輸入に頼る日本では、世界の食料不足が進むにつれ、その影響を受けるだろう。
また、日本は農業の大きな課題として農業従事者の高齢化を抱えている。これ以外にも、温暖化による気候の変化から等から発生する災害の増加による作物採取量の低下などが考えられる。
一方で、日本の都市は、現在多くの人が行きかい密度の高い街が形成されている。しかし、COVID-19で垣間見えた業務のオンライン化や人口減少などの社会の変化が、起きる事が考えられる。
この変化は、100年後の都市では更に進み、現在では想定していない、空白の場所が発生するのではないだろうか。
ゆえに、これらの問題を解決できるような案として、都市で農業を行う垂直農園を提案する。
【Ⅰ.100年後の世界】
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〈1.世界の人口増加・必要な農地面積〉
100年後の世界では、アフリカ大陸を中心に人口が現在の約1.5倍に増加すると予想されている。
そのため、必要な食物量も増加し、それに伴い農地面積も増加する。現在の必要面積は南米大陸の大きさに等しい。
100年後は、現在の面積に加えカナダの国面積に等しい農地が必要とされる。
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〈2.日本の食料自給率・農業〉
日本の食料自給率は先進国と比較すると最低の数値であり、世界的な食料不足に陥った際、日本に供給される食料は限られていく。
また、日本の農業の大きな課題として、農業従事者の高齢化が挙げられる。これは新規就農者の離農率が高いことが理由として挙げられる。
この様な要因から、日本国内の需要を見たし、また農業を衰退させないような場所が求められる尾ではないだろうか。
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以上の内容を中心に、100年後の世界までの変化を年表にまとめた。
記載した内容以外にも、災害の発生や平均気温の上昇による環境の変化が日本の農業に影響を与えるのではないだろうか。
この年表を踏まえ私たちは、2120年には都市で農業が実験的に始まると予想した。
この予想に対して私たちは、インフラが整備出された都市で、農業を行う垂直農園を提案する。
【Ⅱ.提案の概要】
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〈1.計画敷地〉
~新丸の内ビルディング~
所在地 東京都千代田区丸の内1丁目5番1号
竣工 2007年(平成19年)4月19日
階数 地上38階地下4階
構造形式 鉄骨造(一部鉄骨鉄筋コンクリート造)
丸の内の玄関口「東京駅」と日本の象徴的な場所「皇居」を繋ぐ、行幸通りに面している。
多くの人が行きかう場所でもあり、日本経済の中枢を担う丸の内における、中心地になっている。
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〈2.コンセプト・ダイアグラム〉
~侵食 ー農業の都市化ー~
現在の丸の内は忙しなく時が流れ、「余白」のない都市である。
しかし、100年後の世界ではどうだろうか。
年表にまとめた様な社会問題が発生し、意図しない「余白」が生まれると私たちは考える。
そこに、農地を侵食させることで「余白」が人々と結びつき、農業と都市が影響し合う新しい空間が形成される。
〈3.運営スキーム〉
都市の余白に対して、単に農業を侵食させていくのではなく、都市と農業が密接に関わりあう仕組みを作る。
例えば、周辺の商業施設との連携や、丸の内という場所性を活かし、農業のビジネスを促進することを期待している。
それ以外にも、未来の農業に役立つような実験施設が入ることで、農業を活かす場面を拡張する事が出来る仕組みも形成している。
【Ⅲ.提案の詳細】
〈1.積層した農地について〉
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太陽光が当たる南面のファサードを中心に、東西面もカーテンウォールの窓を、部分的にを取り外し、建物内は内部と外部の境界が曖昧な空間を形成している。
どのフロアに関しても、農地の形は、日本の山間部の農村に見られる「棚田」を連想させる形になっている。
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新丸ビルの地上37階の内、9階から33階までの各階を2層から4層に分け、先述の通り、棚田を彷彿とさせる形状の農地にした。
これにより、スラブが徐々にセットバックし南面から降り注ぐ自然光を得られる空間を形成している。
同一層における上下方向の移動手段として小さな丘を彷彿とさせる形をした階段を設置した。内部は倉庫になっており、農具を収納する場所になっている。
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各階では雨水などを再利用した水路を層内で張り巡らせている。
先述した丘に沿って水路も通されており、この水路によって垂直農園の問題点である水不足の解消に繋がる。
〈2.採光計画について〉
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建物のファサードの先端部に可動式の鏡を、各階のスラブの裏面や柱に鏡を取り付け太陽光を反射させる。
これにより、建物の南面の一部分だけではなく、建物内部まで自然光によって照らされる。
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南面ファサードの先端部に取り付けた可動式の鏡によって、太陽光が建物内部に侵入していく様子である。
これにより、春秋分の季節に約7m、夏至においては約2mしか得る事の出来ない太陽光を建物内部までの到達が可能になっている。
〈3.その他〉
①既存を活かした工夫
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既存の建物の構造を活かすような工夫をした。
元々、エレベーターシャフトだった場所をヴォイドにすることで風の通り道をつくる他、煙突効果も期待できるなど、建物内の空調に工夫を加えている。
また、同様にエレベータシャフトを用いてサイロとした。これにより作物の保管が可能となっている。
この他にも、土の保管庫を各層に設けている。この場所では、街の中で生成されたバイオマスを利用し土壌の改善を図っている。
② オフィス空間について
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16階のオフィス空間から、元々エレベータシャフトであったヴォイドを通して、農園方向を望む。
農園と連続し大きな吹き抜けが出来たことにより、今までのような閉ざされたオフィス空間だけでなく、建物内部に開いたオフィス空間となっている。
③ 農地に隣接するレストラン
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農地に隣接するレストランでは、建物内で生産された新鮮な食材をその場で楽しめるような場所になっている。
このレストランでは、この建物内で収穫された食材をサイロを通して提供することができる。
また、農地の空間を感じながら農作物を食べられる場所になり、日本の食文化の継承にも繋がるのではないでだろうか。
④ 人が行きかう地上部分
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日本の経済的、文化的に中心である東京駅の前でもあり日本人に限らず、多くの人々が行きかう事が考えられる建物の地上部分では、
建物内で収穫された作物を中心に販売する場所とした。これにより、建物内部だけでなく外部にも影響を与えられるような場所を形成している。
上記の内容以外にも農地を積層させることの大きなメリットとして、都市が自給自足できるようになる事が挙げられる。
100年後の日本では、地方では衰退が進み、人が集中する都市への食物の供給が難しくなると考えられる。
そこで都市の中で食べ物を完結させることで、流通圏域が小さくなり、輸送コストの削減や食文化の継承、空き床の有効活用などができる。
【Ⅳ.生きられる都市空間】
2021年、丸の内は忙しなく人々が動き、絶え間のない時が流れ、「余白」のない空間が形成されている。
しかし、2120年では、私たちが挙げたような問題から、現在では意図していない「余白」が生じる事が考えられる。
その「余白」に対し、この提案では農業を侵食させた。
「余白」では、人々の出会いや作物の成長、土壌の改良が同じ空間内で発生し、人と空間の2つが影響しあい変化していく場になるのではないだろうか。
そしてこの変化が、建物内にはもちろん周囲の環境にも影響を与え、日々変化していく空間が形成できる。
これこそが、人と空間が共に影響し合う、「生きられた都市空間」だと私たちは考える。
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講評:丸の内の超高層ビルを農地へと転用する案。100年後、世界では人口増加が進み、農地不足が深刻となる一方で、日本では資本主義の限界を迎え、高層ビルに多くの空き床が生じるというストーリーを描いている。一件、強引な案のように見えるが、丸の内が時代と共に大きく機能を変化させてきた100年の歴史を振り返ると、この未来を安易に否定することはできない。また技術革新に頼って農業の効率化を進めるという近代的な思想ではなく、バナキュラーで人の手により管理されていく農地とそこで働く人々の原初的なイメージは、近代を乗り越えた先の未来として希望を感じる。光・風などの自然環境ー巨大インフラとしての超高層ビルー人々の営みがどのように結べるのか、より具体的な提案を見てみたい。(井本)
KENCHIKU SHUKAN EXHIBITION 2021