金澤恒明「冗長の庭」
https://gyazo.com/1684e4c5a19cdf481c0a9b3688b06fff
大震災や空襲、高度経済成長期の開発を経て、南青山の緩やかな時間感覚や、密な人間関係は失われていった。
もう一度街としてのアイデンティティや人間活動の豊かさを取り戻すにはどうすれば良いか。
今までの変化の中で培われた商業主義的な街の機能から一歩引いた、売り買いに過度に従属しない「ものづくり」を中心に据えつつ、古くから街と共にある青山霊園の要素を建築に取り込む。
それを取り囲む住民とゲストの関係を、サービスと支払いの単純な役割に収束しない互助的関係にまで押し上げることを目指した。
https://gyazo.com/2e67db01fb91ed1930eca3c0fbf88dfbhttps://gyazo.com/2e67db01fb91ed1930eca3c0fbf88dfb
つくるという行為にはとてもムダが多い。
表現したいこと、作りたいものを考え、何で表現するかで悩み、仲間と意見を交換して、一緒に作ったり、おしゃべりをしたり。何度も進歩しては酸壊して再接築する、そしてその間にも相当な時間が流れる…。
非効率的なのは問違いない。ただ、結果ではなく、その行為に目を向ければ、多くの人と交流し、その知見と自分の考えをすり合わせ、手を動かすことで思考も技術も成長していく。これは豊かな生活と言えるのではないか。
早く、沢山、安くを目指す工業的な製造とは少し異なる、人との交流や内名の中で生まれる、
遅い、少しの、そこそこお金がかかってしまう創作に暮らしの豊かさはあると思った。
https://gyazo.com/a8d99d6c018025e69b435e65b3a0dd05
Ⅰ. 草屋根と広場
建物の前を通ると、正面の大きな草屋根と広場が見える。
住民はもちろんゲストも、歩いていて疲れたり、誰かと話したくなったらこの緑側でくつろいでほしい。
正面の庭、緑側、建物内へと徐々に内側に入って活動に参加できるよう計画した。
もちろん休むだけでも良い。
https://gyazo.com/a06981d4d049c0629cdc109ac9e88ad3
Ⅱ. 1F中廊下
緑側を奥へ運むと店舗や立ち寄れるアトリエが並ぶ中廊下へ出る。
ユニット間に隙間を設け、いろんなところからアクセスできるようにした。
天井には円形の吹き抜けがいくつかあり、樹木がそれを介して縦のつながりをつくる。
https://gyazo.com/d5c18a329a4be704ebfd1b78b968d828
Ⅲ. 工房<クレアル>
ものづくり機能の心臓部。
工具はもちろん入力したデータをもとに合板から部材を切り出すショップボットを備える。
創作の幅を広げ、ゲスト・住民が混合してものづくりができる場とした。
https://gyazo.com/bf3bfe388092b899cfde5c3e5dd4cc9c
Ⅳ. 住宅共用部<中廊下>
円形の吹き抜けや螺旋階段を点在させ、縦のつながりを作ることで、住宅全体の一体感を強めた。
スラブのさまざまな場所に芝生が生えている。建物内にいながらも、至る所で緑に触れる仕掛けを用意した。
共用部でもうさぎの制作・飾りつけをしている。手前のクリエイター住戸の前のベンチで交流が生まれている。
このようなセミパブリックな空間を作り出せるのが、さまざまな人と共に暮らすメリットだと感じる。
https://gyazo.com/79f588143157fcfed38a9116ff12378a
https://gyazo.com/ba585ae3aa3ffeca4869bd990a3a3521
Ⅴ. ずらしによって生まれる共用空間住戸ユニット
この複合施設の住居部分は主に単身者向けで、クリエイター向けの住居と一般の方向けの住居に分かれる。
基本的にメゾネット式で鉤括弧のような二つのメゾネット住宅でワンユニットを形成している。
これが左図のようにズレることで1ユニットの中に上下で2つのスキマが生まれる。
この空間が通気性の悪い中廊下型集合住宅に風を呼び込み、陽の光も採り込むことができる。
そして何よりここが小さなコミュニティスペースとなり住民間で新しい交流を産むきっかけををつくる。
右下が一般向け、左上がクリエイター用である。
クリエイタータイプはリビングがコンパクトな分、入り口に作業土間があるので、夜も作業できる。
https://i.gyazo.com/c623409f5727d32ab97604d506fba76d.png
Ⅵ. 冗長の庭
ここではできるだけ自然に近い状態で過ごすために靴を脱いで裸足になる。
何かみんなでするわけでもなく、ただ木に囲まれてぼーっとしたり、本棚の本を読み耽ったり、うとうと寝てしまったり...
https://gyazo.com/1d8c9a5bd31a31b789db43183b3d4581
ここには長い本棚がある。
小説、随筆、漫画、実用書、日記、画集などさまざまな本が置いてある。
本は利用者が置いていったもので、みんながどんな本を好んで読んでいるのか、本棚を見ればわかる。
今は画集が一番多い。
https://gyazo.com/ab1696ae9896fd9427fc972b699c35fd
講評:くらしの豊かさ、ものづくりの豊かさを取り戻したいという想いの込められた、美しいイラストとポエティックな説明文に導かれて、金澤君の物語の中に引き込まれるアニメーション映画を観ているようなプレゼンテーションが心地よい作品。その物語の脇役に回っている建築を主役にできるよう、優れたコンセプトをよりよいかたちに建築化するためのデザインスキルを更に磨いてほしい。(水野)