薄葉光汰「木だまり-貯木と消費がつくる林業景観-」
卒業設計/2024年度
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国土の7割を山林が占める日本。かつて花形産業として栄えた林業は、外国産材の輸入によって次第に勢力を弱め、木材価格の低迷や後継者不足等を理由に衰退産業となった。その結果、伐採期を迎えた日本の美しい山林は放置され、山林の荒廃が深刻な問題となっている。衰退とともに失われていくかつての暮らしや山林風景に対し、建築でできることは何かを考えたい。
Ⅰ 敷地-林業発祥のまち
《奈良県・吉野》
敷地は奈良県・吉野地域。林業発祥の地として知られ、その歴史は500年に及ぶ。密で均一な年輪幅を特徴とする吉野材は、見た目の美しさに加えて強度も優れており、建築用材として高く評価された。「多間伐」や「密植」といった独自技術を生み出し、日本林業の発展に貢献した。
《吉野地域の変遷》
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吉野川を利用した原木の筏輸送や水中貯木等が行われ、まちのいたるところで林業の営みを見ることができた。
戦後、国内の木材需要増加に伴い近隣の山々まで伐採され、林業のピークを迎えるも、外国産材の介入により林業がかげりを見せ始める。近年では、交通手段の発達や衰退に伴い、かつての林業の営みは工場内部に内包されたことで住民から遠い存在となり、林業の「ブラックボックス化」が進む。
(引用:国土地理院)
Ⅱ 現状-衰退と顕在する営み
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かつて「林業のまち」として栄えた吉野地域。
木材流通の中継拠点として、木がさまざまな人の手に渡って使われていく様子があった。林業の営みは生活を支え、人々のコミュニティとなり、地域のアイデンティティである。しかし、林業の衰退とともに営みの風景は失われ、関係者同士の閉鎖的コミュニティは地域住民には見えない。だが、そこには確かに営みがある。
(引用:ふるさと吉野 懐古写真集)
Ⅲ 提案
木材流通の要所である「吉野貯木場」の一部に新たな林業拠点を計画する。
木材流通プロセスの中に地域住民の活動の場を埋め込み、ブラックボックスと化した生産の営みを公共化し、これまで相まみえることのなかった人たちとの新たなコミュニティの構築を目指す。また、この拠点を中心に森林と都市がつながりながら集落内で持続循環する林業の形成を目指す。
Ⅳ 設計手法-Urban Flow建築
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将来、地域住民の一般利用やまちの公共施設の改修の際に必要となる木材を、森林状況を考慮しながら計画的に伐採→製材→乾燥して継続的に貯木する。その際、工場内部に内包せず、地域住民が林業に関わることのできる空間としてまちに開く。生産者である林業関係者と、消費者である地域住民や学生の両者による相互補助によって空間が形成され、木材のストック量に合わせて機能が変化するシステムとする。それはまるで林業のように、年世代にも渡って受け継がれてゆく。
Ⅴ 設計-貯木と消費がつくる空間
Step1:肥大する建築
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⼀次製材を終え、乾燥⼯程に⼊る材が貯⽊されていく。
相まみえることのなかった両者の相互補助で成り⽴つ空間は、地域の集いの場となり、学びの場となる。⼈々は、桟積みされた⽊材をベンチとして利⽤し、テラスでは談笑しながらくつろぐ姿が⾒え、貯⽊によって⽣み出された空間を乗りこなしてゆく。中央の広場では集落内から運ばれてきた廃材を再利⽤して、地域の林業家や家具職⼈による製作活動および、展⽰が⾏われるなど、新旧の⽊材が⼊り混じるコミュニティ空間として展開される。
敷いて、貼って、⽴てかけて。様々な貯⽊⽅法によって作られた空間は、多様な居場所が⽣まれ、「⼈と⼈」「⼈と⽊」のキョリが縮まる。
Step2:透いていく建築
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翌年。
地域住⺠に利活⽤されながら貯⽊され続けた材は、まちの公共施設の改修のため、都市へ流通されていく。かつて、⽊材が敷かれまちの⼯房として利⽤されていた場は無くなり、天井⾼の⾼い吹き抜け空間へと変化する。材が敷かれていた際に利⽤されていた2 階の扉や本棚などの建具は使われなくなり、1 階から覗くとそれらは浮遊している様に⾒える。この建築は、これまで⾒ることのできなかった流通の様⼦を⾒せるだけでなく、流通によって⾒え隠れするこの場所ならではの空間が展開されてゆく。
流通という林業プロセスによって透いた建築となる。
Step3:次を待つ建築
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さらに翌年。
流通によって透いた建築となった拠点では、再び林業関係者と地域住⺠の両者によって⽊材が貯⽊され、空間化されていく。更新が必要となった構造材は取り壊され、再加⼯をされてから建築のファサードとして新たな役割を持って拠点の中で⽣きてゆく。
材が流通し、透いていくたびに思う。
「また、まちが吉野で染まっていった。」
次なる流通を⼼待ちにしながら、貯⽊は続いていく。
これらの建築は同じ時間軸上に、同時に発⽣する。
それはまるで、年々、⼭林内での伐採場所が変化するように、貯⽊によって肥⼤する場や流通によって透いていく場が共存し、年を重ねるごとに変化する。多くの⼈々が関わりながら、わずかなスパンで変化し続ける建築はこれから先何世代にも渡って受け継がれ、更新されてゆく。
終 吉野で染まる
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衰退してもなお、先祖から受け継いだ山林を守る人々がいる。
ブラックボックスと化した貯木場は、人々が集い交わる場として生まれ変わりまちの風景となる。
木材流通プロセスの途中にある未完の建築。
この建築は、今を生きる人々のための空間であり未来の誰かのための一次的な貯木場として次の世代に受け継がれる。
これまでになかった林業家と地域住民の新たな関係性を生み出し、林業の未来を明るく照らす「木だまり」として、地域の拠点となることを願う。
指導教員:山中新太郎 三宅貴之
講評:ここに入力(改行は不可)(先生の名前)
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