細田祥太郎「阿吽」
参道の果て、閉じた街。
現れたのは阿吽の対。
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Ⅰ. 参道を形付けるもの
表参道、青山一帯は、明治神宮の参道のもつエネルギーに引き寄せられるように発展した。今でもこの土地には灯籠、橋、石垣など、参道を形付けるオブジェクトが存在する。
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しかし、これらのオブジェクトは青山通り交差点の第二灯籠を最後に姿を消してしまう。
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青山通りより神宮側は参道のエネルギーを纏い、あらゆる人の混ざり合うオープンな街、対して南青山側は地域住民の往来で完結したクローズドな町となってしまっている。
Ⅱ. 新たな起点
そこで私は、延長線上に位置するこの計画敷地に、参道であることを形付けるオブジェクトを創りたい。参道を敷地まで伸ばすことで、神宮側のエネルギーを南青山まで呼び込もうと考えた。それにより、計画敷地、延いては青山全体を、あらゆる人が訪れ、混ざり合う街にしたい。
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Ⅲ. 阿吽
「阿吽(あうん)」という概念がある。
「阿吽の呼吸」という言葉で時折耳にする。
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仁王像、狛犬、獅子には共通点があり、向かって右側は口を開いた「阿形(あぎょう)」、左側は口を閉じた「吽形(うんぎょう)」と呼ばれる。古来より、阿吽の対は参道を挟み、その道に意味を与えてきた。
今回はこのルールを用いて、参道を形成する。
Ⅳ. 手法
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https://gyazo.com/c910715400012c06dcee7c2adec409b3△道を挟み位置する根津美術館と計画敷地
計画敷地と対を成すのは根津美術館である。屋根を閉じ、過去の美術品を内部に守るこの建築を「吽形」と見做した時、対称として計画敷地に位置すべきは、外へ開き、アートを未来へ発信する「阿形」の建築であろう。
根津美術館の屋根を裏返し、建築とする。
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こうして完成した阿吽の対は、間を流れる道を参道に昇華させ、南青山に新たな賑わいを吹き込ませるものとなる。
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Ⅴ. 構造
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折板構造に倣ったスラブを作り、梁を必要とせず中央に柱を落とさない構造とする。V字型、Λ字型を1スパン毎に繰り返すことで、内向きの力と外向きの力を相殺し、柱に水平荷重を加えないようにした。
Ⅵ. 美術の発信地
フォーラム
https://gyazo.com/8c7578db63b4090abce2b93da509954d1階中央部に「人が溜まる」階段状のオープンスペースを設けた。ここから見える位置に美術館、画材屋、アトリエ、喫茶店があり、この建築の全体像が伺える。人々の意識を上へ誘うと共に、社会と建築を結ぶ役割をもつ。
美術館
https://gyazo.com/0f35ed7b18a44c3f8c88069f5b3e9ac0「守る」根津美術館に対し、「開く」美術館を用意した。2フロアに跨り、動線は上階へ登り始める。
喫茶店
https://gyazo.com/6634bd83757a92a3da714d92ccb7226fアートを見たとき、作るとき、そこに人とのコミュニケーションがあると、その体験はより一層豊かなものになる。美術館の出口、ちょうど語りたくなるであろう場所に喫茶店がある。
画材店
https://gyazo.com/dcb131306dcab8e4e178d171e7e0a5d8刺激を受けた人々が、その思いの熱いうちに手を動かせるよう1階に画材屋を設けた。美術館、アトリエ、画材屋が集まることで、アートを見る、考える、つくるという1つの流れを生み出す舞台となる。
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Ⅶ. アートと隣り合う暮らし
住戸部分は、アトリエとセットになった空間を提案する。
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多くの集合住宅は、壁が空間を分断する。
空気も、視線も、往来も断ち切られる。
そんな空間の仕切り方に疑問を感じ、私はレベル差で部屋を区切る住戸を設計した。
公私のグラデーションを高低差で表現し、足で、視界で、重力で、領域の変化を感じられる住戸としたい。一戸あたりの面積が少ない都市型の集合住宅においても窮屈さを感じさせず、しかし公私の境界を守った住宅を目指す。
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Ⅷ.動線計画
二重螺旋型の避難階段2本を用いて、住戸階共用廊下とアトリエ階共用廊下が直接繋がらないように計画した。しかし、完全に分離するテリトリーではなく、
" 住戸共用部 ー 住戸 ー アトリエ ー アトリエ共用部 "
という順で各空間が結合される。
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講評:根津美術館の緩やかな屋根勾配を引用した傾斜スラブによって構成される内外に開かれた空間は、共用部にも住戸専有部にもその特質が活かされて、領域を分かちながら繋がる工夫が細部にまで行き届いている。計画地を明治神宮参道の基点と位置づけ、道の向かいに建つ美術館と呼応し対をなす建築にすることへの拘りを貫いた細田君の強い意志が、シンプルなシステムのなかに様々なアイディアを盛込んで美しい作品に昇華させている。(水野吉樹)