深津壮「エリアマネジメントにおける段階的検証プロセスの方法論 ーシンガポール及びオーストラリア・シドニーにおけるPilot BIDの比較分析ー」
本研究の概要
本研究は、シンガポール及びオーストラリア・シドニーで展開される「Pilot BID」(BID:Business Improvement District)を研究対象とし、エリアマネジメント(特定地区の魅力・価値向上や課題解決に資する取組)における検証プロセスを分析したものである。
研究の背景及び目的
近年、我が国では民間主体による自律的な地域運営手法としてエリアマネジメントが展開され、20年以上が経過したが、活動の継続性や発展性を左右する条件である、財源調達や合意形成、運営体制、評価手法等の様々な論点に対する課題がある。
一方、シンガポールやオーストラリア・シドニーでは、「Pilot BID」としてBID制度(受益者負担に基づくエリアマネジメントの財源確保制度)の活用や取組を試行・検証する枠組みが運用されている。これら2都市の知見は、我が国が抱えるエリアマネジメントの課題解決において、取組や制度導入の前段階における検証の枠組みを考える上で示唆を提供し得ると考える。
以上より、本研究の目的は、上記2都市におけるPilot BIDを対象に、エリアマネジメントを検証する枠組みの制度設計及び運用実態を明らかにし、検証プロセスの方法論を提示することである。
研究の方法
本研究では、上記のとおり、シンガポール及びオーストラリア・シドニーにおけるPilot BIDを対象とし、そのエリアマネジメントにおける検証プロセスの特徴を調査する。具体的には、Pilot BIDにおける関係者として、本制度を推進する政府機関や対象地区の運営主体として取組展開するエリアマネジメント団体に対するヒアリング調査を実施した。また、両都市におけるPilot BIDの対象地区にて現地調査を行い、取組の空間的成果を調査した。
https://gyazo.com/aa6ddb8b30f42068530eda6a4fba80e1
研究の成果
本研究では、2都市におけるPilot BIDを調査し、比較を行ったことにより、以下が明らかとなった。
❶制度的特徴として、Pilot BID実施前の検証範囲の設定により、枠組み設計が大きく異なる。シンガポールではBID制度の枠組みから取組実装まで幅広い範囲を検証範囲とする一方、シドニーでは取組実装に集中し、制度的な検証は行われていない。
❷支援体制に焦点を当てると、シンガポールがより包括的な支援体制(①補助金、②伴走支援、③他機関との調整支援)が構築される一方、シドニーでは補助金支援に限定される。前者のような、取組の実装可能性を高める支援体制が望ましいが、行政に比重が集中することから、制度設計に合わせて必要な行政関与の範囲を調整する必要がある。
https://gyazo.com/7a5357256374e7f02f58ada420e9f3c6
❸Pilot BIDに基づき実施されたエリマネ活動は、仮設・軽量な公共空間活用や小規模な物理的介入、ならびに情報発信や会議体運営等の非物理的活動を組み合わせる取組計画が両都市に共通して確認できる。また、空間的な成果を分析したところ、恒常的・物理的な取組として大きく3種類(①活動拠点の整備・運用、②空間貸出による民間活用、③回遊行動の促進)に整理でき、地区の滞留・回遊を下支えしている。それら成果は、受益構造として明確化し、どの取組が誰にどのような利益を与えるかを、利害関係者に対し提示することが合意形成において必要である。
https://gyazo.com/0b8ef6f08c3b584d8c50f8ecefaf89a0
我が国への示唆
エリマネにおける段階的な検証プロセスの方法論として、①検証範囲を明確化し、②行政の関与範囲を定め、③取組を計画-実施-評価の周期で回し、検証終了時に④成果を受益構造として整理して対象範囲と負担配分の根拠を点検・更新する、というプロセスを辿る必要性を提示する。特に、我が国では、制度の導入が先行しやすく、検証の枠組みによる妥当性の検証が不足しがちである。そこで、制度や取組の実装前は、その前段階に検証プロセスを組み込んだ段階的な構造として設計することが必要である。
https://gyazo.com/b417ee71f4cd2d988203a221fafea43d
講評:ここに入力(改行は不可)(泉山塁威)