河上晃生「防火別棟みなし規定を起点とした混構造建築の提案 -木造住宅密集地域における空間特性の継承-」
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制度から建築を考える。
建築は、「制度」の枠組みに縛られて成立している(ex.)用途規制、構造規定、防火規制等)。制度に適合させることが先行し建築設計において、制度を制約として扱うことは、制度を建築の空間構成やアクティビティのあり方から切り離した存在にしている。
本提案は、「防火規制」に着目し、制度を建築の外部条件として受動的に受け取るのではなく、制度そのものを空間生成の「設計原理」とすることを試みる。
Regulametion(レギュラメイション)
= Regulation(制度) × Formation(生成)
Ⅰ. はじめに
Ⅰ-ⅰ. 背景
木造住宅密集地域(以降、木密地域)では、防災性能の向上と居住環境の改善が長年の課題とされ、厳しい防火規制が課されてきた。
ex.)建築の一体化、RC造への誘導、木造や小規模更新の排除
これまで防火規制を遵守することによって、木密地域における路地を中心とした空間の豊かさが失われてきた。
都市政策では、歴史的環境の保存や防火及び耐震化が主眼とされる一方で、木密地域特有の空間特性(路地的空間を中心とした界隈性)を、防火規制等の制度内で継承する建築的手法は未だ確立されてこなかった。
Ⅰ-ⅱ. 目的
近年創設された「防火別棟みなし規定」は、従来の制度とは異なり、別棟化による「防火思想の転換」及び「空間構成の前提条件」として機能し得る余地を与えている。
本提案では、防火別棟みなし規定を単なる法規制緩和の制度としてではなく、建築空間を生成する原理として読み替え、RC壁柱を主構造とした混構造建築によって、木密地域に内在する空間特性を建築内部に継承することを目的とする。
Ⅱ.手法
Ⅱ-ⅰ. 防火別棟みなし規定
混構造建築物や複合用途建築物の場合、防火規制については一部の構造や用途に引きずられ、建築物全体に厳しい規制が適用されていた。
法改正により、新たに「火熱遮断壁等」という言葉が登場した。これは「延焼を遮断できる高い耐火性能を持つ壁や部材で構成されるコア」を指す。この火熱遮断壁等や防火壁で区画することで、建物の2 以上の部分を防耐火上は別棟と見なせるものである。別棟扱いを適用することで、平面混構造が容易となり、木造部分に引きづられる形で規制がかかっていた部分の仕様なども緩和される。
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fig.2 防火別棟みなし規定の概要
ex.)渡り廊下
耐火構造の建築物と、別の裸木造の建築物を接続する渡り廊下において、本来必要であった「隔壁」が不要となる。
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fig.3 防火別棟みなし規定の概要(渡り廊下の場合)
Ⅱ-ⅱ. 防火別棟みなし規定の建築的読替
防火別棟みなし規定を設計原理とするべく、制度の建築的読替を行う。
従来の防火規制において、延焼を遮断する耐火建築とすることが先行し、防火区画は従属的に計画されていた。これに対して、防火別棟みなし規定は、火熱遮断壁や防火壁などで区画すれば、建築物の2以上の部分を防火規制の適用上別棟と見なすことを可能にするもので、防火思想の転換を含んでいる。
防火別棟みなし規定を設計手法として読み替えると、防火区画が先行し、その中に建築が構成されるという、反転が起こる。この読み替えによって、防火区画が要求される建築の骨格を「箱」ではなく、「壁」の関係として立ち上げる。
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fig.4 防火別棟みなし規定の建築的読替
Ⅱ-ⅲ. 防火別棟みなし規定の手法化
別棟化のためのRC壁柱(防火壁)を、防火・構造・環境的緩衝を担う空間構成の起点とし、以下のように防火区画から空間を生成する操作を手法化する。
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fig.5 防火別棟みなし規定の手法化
Ⅱ-ⅳ. 防火別棟みなし規定を用いた混構造建築
防火別棟みなし規定に基づいたRC造と木密地域の空間特性を構築する木造からなる混構造建築の空間構成を考察する。
防火別棟みなし規定を用いることで、RC造部分が面的に広がる構造要素(スケルトン)を形成することで、防火・耐震性能を担い、木造部分がインフィル的に外部に混合される。
ここに、混構造建築に見られる空間構成を適応することで、木造部分が内部にまで混合され、2つの構造形式が重層的に結びつく空間構成を獲得する。
防火別棟みなし規定は、この反転的な関係を可能にする起点として機能し、木密地域における空間特性を継承する混構造建築の新しい空間構成を導くものとなる。
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fig.6 防火別棟みなし規定を用いた混構造建築の空間構成
Ⅲ.分析
Ⅲ-ⅰ. 分析対象
混構造建築において、平面混構造並びに立面混構造という空間構成が確認されることから、建築雑誌「新建築」「新建築住宅特集」に掲載された混構造の建築事例を対象として、空間構成の分析を行う。
Ⅲ-ⅱ. 混構造建築における空間構成の分析
混構造建築における異なる構造の扱い方に着目し【積層・付加/変換・挿入/同居】の3つの空間構成を抽出する。
table.1 混構造建築における空間構成
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Ⅲ-ⅲ. 混構造建築における平面構成の分析
混構造建築における異種構造の配置関係を構造モデル・平面構成図を用いて分析し、領域形成と境界操作の特徴を読み解く。
table.2 混構造建築における平面構成
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Ⅳ. 設計提案
Ⅳ-ⅰ. 対象敷地・計画概要
所在地 東京都目黒区目黒本町
主要用途 共同住宅 図書館 銭湯 工房
規模 敷地面積 4525.94m²
建築面積 3168.15m²
建蔽率 70%
容積率 200%
敷地条件 地域地区 第一種住居地域
準防火地域
木造住宅密集地域
重点整備地区 不燃化特区
道路幅員 東西南4m 北6m
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fig.7 対象敷地図
Ⅳ-ⅱ. 設計プロセス
①異種用途の混在を想定し、敷地に対して3つの用途を1000m2の範囲で設定する。
②各用途における機能が自立できる規模を正方形の組み合わせとして、範囲を分割する。
③防火別棟みなし規定を起点とした手法を適応することで、箱から壁の関係として建築を立ち上げる。
以上の操作により、壁柱の先行配置による防火区画が成立する。
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fig.8 設計プロセス
Ⅳ-ⅲ. 全体計画
(a) RC壁柱を建築の骨格として、(d) RCスラブが壁により規定される境界を拡張するようにかかることで空間を
構築する。
張り出した(d) RCスラブの軸力は、(c) 鉄骨のポスト柱により負担され、高さ方向に動きが与える。
(a) (d)のRC造の躯体を依代に(b) 木架構が、分析から得られた型を用いて組み合わさり混合することで、木密地域特有の空間特性(密度感、路地性)を持つ「混構造モデル」がつくり出される。
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fig.9 全体計画
Ⅳ-ⅳ. 部分の操作
Ⅳ-ⅳ-ⅰ.屋根勾配の差異
木造部分は防水性を考慮して、片流れ屋根などの勾配屋根とし、空間に動きを付与する。一方、RC造部分は木造部
分とは対比的にフラットスラブとし、2つの構造部分のコントラストを強調する。立面的な緩急が付与されることで、路地的な奥行きを獲得し、人々を引き込み建築内に流れが編み込まれる。
Ⅳ-ⅳ-ⅱ.由来の異なる壁柱
「防火由来」で立ち上がる壁柱と「構造由来」で立ち上がる壁柱が建築の骨格を形成する。構造由来の壁柱は、空間
に重心を与える。空間に佇む壁柱は、階段や木フレームの依代となり、不変的な空間に動的な要素をまとわせる。木フレームを頼りとした、木製サッシが空間を緩やかに規定しつつ、防火サッシと重なりダブルスキンとなることで、無骨な印象が内部空間においては隠蔽される。
Ⅳ-ⅳ-ⅲ.異種用途の混在
防火由来の壁柱は、延焼を遮り別棟化を可能にするとともに、異種用途の意識上の混在をもたらす存在として機能す
る。図書館における内部空間では、本棚の荷重を負担する壁として機能しつつ、外部に対しては木架構を支持する壁
として機能する。内と外で異なる用途が隣り合うことにより、住宅に付く本棚から、本棚に付く住宅の関係が構築され、住宅と本棚における主従関係が反転する。
Ⅳ-ⅳ-ⅳ. S柱によるスケールの調停
RC造の壁柱から木造までの異なるスケール感を、周辺環境と近づけるべく、Sのポスト柱を落とす。φ200の柱は、周囲の木々と木造の□105の中間的な寸法として外部環境とのシームレスな接続を促す。
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fig.10 部分操作のイメージ
Ⅳ-ⅴ. 平面計画
1Fは、各用途(工房・銭湯・図書館)の重なり合いを基に路地を通し、街区の形に従い壁柱を延長することで、地
域の流れを建築内部にまで導入する。離散的に配置された壁柱とvoidによって防火区画を成立させることで、別棟化された木造が平面的に混合される。
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fig.11 1F平面図
Ⅳ-ⅵ. 断面計画
先行配置され永続的な物質性を持つRC壁柱を依代として、分析から得られた型を用いた木造部分を異なる論理で
複合させることで、木密地域の空間特性を継承した混構造モデルが立ち現れる。路地を挟み、3棟で構成されるように見受けられるが、2Fレベルで渡り廊下により接続されることで建築としては一体でありつつ、部分的に別棟化された建築のあり方を提示している。
Ⅴ. おわりに
本研究は、防火別棟みなし規定を単なる法的緩和としてではなく、建築空間を生成する設計原理として読み替えることで、RC壁柱を起点とした混構造建築の可能性を提示した。RC壁柱は、防火・構造性能を担う固定的な要素であると同時に、将来的な用途変化や増改築を受け止める「未完の骨格」として位置付けられている。
壁柱の偏心配置によって生まれる余白は、あらかじめ用途を規定された空間ではなく、人や活動の介入によって更新され続ける場であり、建築が時間とともに変化することを前提とした能動的な余地である。本提案は、完成形を固定するのではなく、変化を内包した構造をあらかじめ組み込むことで、木密地域が本来持つ路地性や界隈性を継承しながら、防災性能と空間的豊かさを両立する建築のあり方を示した。
制度に適応する建築ではなく、制度を空間化する建築として、RC壁柱からなる余白が地域の更新を支える基盤となることを期待したい。
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Ⅵ. 参考文献
1)AllAbout住宅・不動産 「木造住宅密集地の火災対策と火災危険度マップ」
2)日経XTECH 「防火別棟みなし規定を創設、「火熱遮断壁等」での区画が登場」
3)新建築データ
4)TECTURE MUG:〈THE MIRROR〉オープニング第2弾「春の音色を聴く 〜有元利夫 in 松川ボックス〜」
5)国土地理院
// Perspective
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// Drawing Collection
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// Presentation Board
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講評:ここに入力(改行は不可)(山中新太郎)