榎本海月「大磯海街再考」
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〈プロローグ〉
いつもの帰り道、家に向かって歩いていると急に視界が開けて、目の前に水平線が広がる。
その時、「ああ、帰ってきたな。」って思う。それが、私の故郷「大磯」。
かつて、この町がまだ東海道8つ目の宿場町として栄えていた頃、街道と海の間に漁師の暮らす裏町があった。
この町は、大磯の海と町の賑わいを繋ぐ架け橋としての役割を担っていた。私はこのように海と町の間に存在するもう一つの町を「海街」と呼ぶことにした。
しかし、湾岸自動車の開通と共に海と町は引き離され、大磯は「海街」としての暮らしを失うこととなる。
近いようで遠い海、届きそうで届かない海、
本提案は裏町に佇む海街の記憶と痕跡を頼りに新たな「海街」を提案し、大磯が再び海街として再生するまでの物語である。
〈image〉
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1.合理的社会の綻びと消えゆく町の記憶
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明治維新以降、急速な近代化を進めた我が国では、様々な事象において合理性・機能性が重視されていった。東京、大阪、名古屋をはじめとした都心部には産業や情報、人材などが集中し、やがて、それらを繋ぐネットワークとして鉄道や高速道路などの「インフラストラクチャ」が日本中に張り巡らされた。私たちは今とても便利な社会で生きている。
一方、そのように町を上書き保存し、都市開発を繰り返してきた裏側で、なす術なく消えていった町の風景と生活がある。計画地である私の故郷「大磯」もその一つである。
都市発展の影響を受け、今多くの田舎町で「まちのアイデンティティ」が失われつつあるが、世間はそんな小さな町の問題に目を向けてはくれない。彼らからすればその程度発展の代償だ。
町の記憶は時間経過と共に風化し、いずれその痕跡を消し、人々の記憶からも消えてゆく。
この町が完全になくなってしまう前に、裏町に佇む海街の記憶と痕跡に目を向け、大磯が再び海街として再生するまでの計画を提案する。
2.宿場町としての大磯ー海を感じるこの町での暮らし
江戸時代、大磯は8 番目の宿場町として栄え、街道沿いには、通行者が宿泊する旅籠屋が立ち並んでいた。その表通りの賑わいを裏で支えたのが「裏町」と呼ばれる漁師町であった。かつて、漁師町は海と町の間に位置し、「海と町を繋ぐ架け橋」としての役割を担っていた。私はこのような海と町の間に存在するもう一つの町を「海街」と呼ぶことにした。
3.海と分断された大磯ー海を失ったこの町での暮らしー
1967年、太平洋沿いに西湘バイパスが開通し、かつての海と町は引き裂かれてしまった。現在、堤防の北側には昔ながらの路地や街並みが継承されているが、南側は人気のない静寂な風景が広がる。かつて、海まで続いた街の風景は今高速道路を境に途切れ、大磯は海との関わりを失いかけている。
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4.大磯海街再考
本計画は、そんな大磯の生活に再び「海のある暮らし」を取り戻すため、海と町の間に新たな「海街」を築き、大磯が再び海街として再生するまでの提案です。
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5.詳細計画
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6.平面計画
高速道路によって遮られた既存の路地から海までのシーンを再生させながら、海と町の間にもう一つの町"海街"を設計する。
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7.断面計画
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8.海街風景の日常
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9.模型写真
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講評:かなりの力作である。大磯の原風景と漁師町としての再生がテーマとなっており、現在の市場や産業物産館と化したパターン化された現況施設のプログラムに対するカウンタープロジェクトでもある。特に湾岸を通る高速道路によって、海へのviewが阻害されていることに対してインフラアーキテクチュアとして建築と土木の一体化を提案した意欲作となっており、高い表現力が評価された。(今村)