建築設計Ⅳ/2024年度
これまで取り組んできた課題では、与えられた「敷地」の中で設計を行ってきました。一般的には、敷地の中に建てられるものが建築物であり、建築基準法もその中で適用されます。しかし、私たちが住む世界の風景は、当然ながら個別の敷地内の建築物のみで構成されているわけではありません。また、コロナ禍の影響もあり、日本でもようやく歩道や車道上を人々の活動の場とする試みなども増えてきつつあります。敷地の中だけで閉じて完結する建築ではなく、法規や慣習的な区分を超えて、これまでとは異なった視点からの設計を試みてください。道路や河川、公園といった敷地以外の場所での計画、土木構築物と建築の融合、あるいは敷地外の場所から得られた学びを建築物に適用して設計するといったことも考えられるでしょう。対象とするエリアは、大学周辺(千代田区内)とします。まずは千
代田区を歩き観察し、対象を定めて分析を行うことから始めたいと思います。
本年元旦に発生した能登半島地震により、甚大な被害が発生しています。日本で生活する限り、自然災害から逃れることはできません。建築設計者の立場において、自然災害と向き合いながら、どのような社会と建築を作るべきなのでしょうか。災害に強い街づくりにおいては、日頃からコミュニティの結びつきが強いことが重要です。災害時にはいかにスムーズに助け合うことができるかが、一次/ 二次被害を減らす上で重要なポイントの一つだからです。日常から、非日常(災害時)に役に立つ運動や遊び、防災学習などが混ざり合う仕掛けをつくることが大切です。日常/ 非日常の両方使いができる建築を考えたいと思います。本課題では、南海トラフ巨大地震が来るとも予測される静岡県三島市を敷地として、防災拠点を考えます。歴史文化のある「水の郷」と呼ばれる美しい街です。長期休み等を利用して、ぜひ一度三島の街を見に行ってください。きっとこれからの街づくりを考えるヒントがあるはずです。
このスタジオでは、各人が新たな「物見る眼」をもって都市を観察し、ノーテーションやマッピングによって可
視化された特異点や、改善しうる歪みを見つけ出すことが求められる。普段は自動化しているが故に気付かない、
都市のエッジを炙りだしていく。最終的にはその場所に「建築」を仮定し、そこに計画する空間やプログラムが
有効に機能するか否かを見極める作業を行うことになる。都市の力学を整理し、新たな建築を与えたとき、滞
った流れは整流されうるのだろうか? 自らが見立てた都市の仮説に、自らが考えた建築を適用させたとき、世
界はより良い方向に向かうのだろうか? そうしたことを各自が確かめていく作業となるだろう。
A とB をつなぐ、A からB へ変化させる、併存させる、混ぜる、対比させるといった、状態A と状態B の関係
に関するテーマには、建築設計を行う上で多く遭遇します。その割には「高さを揃える」「スケールを変える」といった具合に、手法論としてはそれほど進化させられていないように感じます。一方で同様の現象は社会や自然界などにも多数存在し、そこにはこの方法論を発展させるヒントが隠されているのではないでしょうか。このスタジオではよくあるA とB の問題に対して、社会や自然界の現象といった建築の外側で起きていることを対象にリサーチを行い、分析したものを建築設計の方法論へと昇華させ、建築に適用することを目指します。まずリサーチと方法論の確立、次に方法論を用いた建築化、最後に敷地とプログラムを決定してプロジェクトを完成させます。つなぎかたはいろいろあるでしょうが一旦方法論化できれば、これまで見たことのないようなEXTREME なTRANSITION が可能となるはずです。
あらゆる形を普遍的に取り扱うトポロジーという思考法がある。位置の学問とも呼ばれ、形を連続的に変形しても保たれる性質に焦点を当てるもので、例えばマグカップとドーナツは「トポロジカルに同じもの」とみなされる。一方身体を超えるスケールをもち大量の部材の集合体で、さまざまな場所に関わり、時間を横断して存在する建築では、形式や構成や構法などの思考法とそれを支える図法や名称によって普遍的に取り扱う方法が模索されてきた。この課題では、まず実在する建物を対象にそこに潜む普遍的性質を探索・収集し、表記や名付けを試みる。次に、それらを運用し「トポロジカルな変形体としての建築」の創作に取り組んでほしい。対象は各々の自宅とする。日常に埋没し無意識下にある存在にも建築の普遍はきっと備わっている。他律的な環境や建物を掘り下げて(HOUSE MINING)創作の道具とし、受け入れながら自律性を立ち上げるこのトレーニングは設計の主体が問われる現在を考えることでもある。なお敷地は自宅と同様、用途は後半各自で選ぶこととする。
モノ消費からコト消費への移行、コロナ禍によるリモートワークの普及など都心部の都市開発プロジェクトは複雑な状況に直面している。しかし、施設やインフラの更新時期にあり、建築物の建て替えや都市開発の機運は各地で立ち上がりを見せている。そのような中で、せっかく都市開発プロジェクトが動いても、テナントの未入居・撤退による空室化など、人々に使われない施設ができるのは事業のみならずまちにとって不幸である。本課題では、人々に使われる都心部の複合開発プロジェクトとはどのようなものか構想したい。
これまでの建築設計課題と異なるのは、開発用地には土地の権利者がおり、周辺地域の文脈や歴史、立地特性の読込みなど都市的リサーチが必須となるため、課題書で与えられた設計条件をもとに事業企画から組み立てていくことが必要となる点である。したがって、そうした都市的リサーチと事業企画提案など都市開発プロジェクトの全体像をまとめた提案書(A3判)も重要な成果物のひとつになる。なお、この課題は単なるハコモノとしての建築物の設計ではなく、企画立案および「新たな都市生活の提案」であることを心してほしい。