工藤朱理「祈り、生きる建築 −焼損した江袋教会から始まる新たな信仰のかたち−」
卒業設計/2023年度
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1.設計趣旨
現在宗教をめぐる問題は増え、戦争にもなっている。宗教が建築の 様式や技術を高め、建築が宗教を権威づけ、人々の信仰への思いを高 めてきた。そして信仰は目に見えなくとも生き続けるが、教会はスク ラップアンドビルドの対象である。では、なぜ教会がなくなろうとも 信仰は生き続けるのか。長崎県の五島列島にある江袋教会を対象に考えていく。
本提案では、集落のシンボルでもある教会が焼損したことをきっか けに宗教と建築の関係を問い直す。本来カトリック教徒が大切にして いる「集う」ということを再確認し、喚起させるために、集落全体が 教会になることを目指す。
2.計画敷地
計画敷地は長崎県上五島市北部にある江袋教会。1882 年に創建されて以来、信徒たちでの修復を重ねながら初代の木造教会を維持し、 現在使われている木造教会の中で最も古い歴史を持っていたが、2007 年 2 月 12 日、漏電が原因の火災にみまわれ、焼損してしまった。
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3.歴史
この島は長崎県の本土からキリシタンを追い出したい大村藩と、 五島の開墾を進めたい五島藩の利害の一致から移住の協定が決ま
り、弾圧から逃れるようにして江袋の先祖たちはやってきた。しか
し、思い描いていたような生活は難しく、元々海岸付近で漁業を営 んでいた「地下(じげ)」と呼ばれる仏教徒の土地に入らず、キリシ タンは「地下」とは距離をおいた未開の土地に生活を求めた。その結果、少数のキリシタンたちが島の中に点在し、条件の悪い中腹斜面 を切り開き、耕作地や家屋そして集落を造り出した。そのため、宗教 は集落単位で行われるようになり、集落ごとに教会を持つといった、 一集落、一教会になっている。
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4.計画概要
4−1.新しい信仰の捉え方
教会はそもそも「建物」や「場所」を意味するものではなく、キリ スト教を信じる人々の集まり「共同体」を意味する。そしてこの共同 体は聖書の中で「キリストのからだ」と表現されている。
「あなたがたはキリストのからだであって、ひとりひとりは各器官なのです」(I コリント 12:27)
そのため、信仰の磁場が広がった集落全体を教会と捉え直し、焼損し たことで行えなくなった機能を各器官として集落中にかたちとなっ て現していく。
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4−2.設計手法
この計画では、まず空間の構成や形の操作があるのではなく、始め に素材の選択があり、そして素材に合った構法があって空間が形作ら れていく。そのため、日常的に見つけることのできる素材群をごく自然に取り出しながらも、洗練させた状態で実現させた結果、崇高な建 築として多くの人のインスピレーションを喚起することを目指す。ま た素材は既存の建物を使うため、既存と増築の切れ目に新しいレイヤ ーを挿入していき、その際に“設計しないこと”も意識する。
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4−3.設計概要
-告解室- ゆるしの秘跡
告解室は唯一、大人数で集うことなく、司祭やキリストとの対話である。そこで、一段上がっただけで崇高な世界になる椿畑に設計する。 光と陰で分かれた屋根は、信徒が光に向かってゆるしを頂く。
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-集う三叉路- 十字架の道行
ここでは既存のレイヤーとして、先祖が作り上げた石垣があり、そ こから浮かび上がってきたように石壁が作られる。石壁とは対称的な 木造の壁が、救済の道を想起させ歩いてきた集落の人を焼損した教会 や石垣、海に視線を誘う。十字架の道行が使われていない時は農業や 漁業の休憩スペースとして使われる。
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-焼損した教会- 集うことの再確認
ここではガラスのボックスを挿入した。このボックスは人がひとり
通れるほどのものであり、集落全体で集うことができない。この燃え た教会が儚くも力強く美しい。このまま教会の形式性は失われるのか、 取り戻すのか住民に委ねられている。
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-日曜のミサ- 聖体の秘跡
この古民家では鉄のボックスを挿入する。軸を祭壇の向きである東 側にふることで、木造軸組の軸と、鉄のボックスの軸が交わり合い崇 高な空間をボックスの中で生み出す。一方で、横は生活の軸となり、 ミサ後に信徒たちで食事をしながら、多様的な使い方をする。バラバ ラだった古民家と隠居が縁側で繋がり、横の動線が豊かになる。
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-墓ミサ- 先祖への祈り
一年に一度行われる墓ミサは先祖への祈りであり、墓地は江袋集落 の先祖の故郷である外海の方向を向いている。また、堤防からは先祖 の骨が埋まっていた場所にある+字架を眺められる。既存のブロック 塀は漁港の軸と捉え、この 3 つの軸を活かしながら設計する。https://gyazo.com/50e9434b2db91f72490b3ce257468777
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5.最後に
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指導教員:山中新太郎
講評:ここに入力(改行は不可)(山中新太郎)
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