小田島立宜「台東区旧坂本小学校の再生による周辺地域活性化計画 -下谷・根岸地域におけるコミュニティの再構築を目的とした文化交流拠点の提案-」
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0.はじめに
復興小学校は地域社会の中心として構想され、今日に至るまでコミュニティの核として残存している。本計画は歴史的価値を主として評価がなされることの多い復興小学校に対して、地域遺産的価値、及び計画学的価値という側面を考慮しながらプロセスを構築し、復興小における拠点としてのポテンシャルを活かしつつ、再生を行うものである。
1. 計画の背景と目的
復興小学校とは、1923年に起こった関東大震災の復興事業として建てられた170校の小学校である。
復興小学校は以下の3つの価値を持っていると考える。
・歴史的価値-これらの小学校はモダニズム建築の先駆けであった日本の分離派の影響を強く受けており、当時の思潮を象徴する意匠計画
・地域遺産的価値-細部の計画や寸法等、児童の居場所となるような設計がなされており、卒業生である周辺住民の記憶に残り続ける空間性
・計画学的価値-地域利用を主とした、教育施設としての小学校を超えた計画学的特徴
近年では、復興小学校の再生事例なども多く見られるが、その再生は歴史的価値に偏重し他の価値が損なわれる事例も散見される。
これに対し、歴史的価値に加え、地域遺産的価値、計画学的価値の3つをオーセンティシティと定義し、それらを偏りなく考慮しながら設計を行うべきであると考える。
2.計画敷地及び既存建築物-台東区旧坂本小学校
台東区旧坂本小学校は、関東大震災を契機に木造小学校の校舎から鉄筋コンクリート構造の校舎へと建て替えられた復興小学校の1つである。大正 15 年に建て替えがなされ、平成 8 年に廃校、現在は校庭が地域のサッカークラブ、地域の催事会場に利用されている。
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3.調査-周辺地域である下谷コミュニティの固有性と旧坂本小学校
都市の来歴から、周辺における地域コミュニティの固有性を導く。
周辺一帯は江戸時代、奥州裏街道筋の裏側に創建された寺院群に端を発し、檀家制度を背景とした住民と寺院が密接に関わり合うコミュニティがあった。
これに対し、旧坂本小の計画を見てみると、コの字型の平面形状が、通常隣接する小公園に向けてではなく、寺院の密集する南側街区に対して開かれており、小公園の代替として南側街区が遊び場となり、寺院を核とした下谷のコミュニティと密接に関わり合う拠点として存在していたことが分かる。
しかしながら、現在寺院の経営悪化や幹線道路沿いに進む開発などによってこうした下町特有の賑わいは失われつつある。
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4.プログラム-寺院・地域住民・観光客の交わる文化交流拠点
こうした現状に対し、復興小学校という歴史的建築物を活かしながら、かつてのコミュニティを再構築する文化交流拠点を計画する。
図書室や屋外運動場等の地域住民が利用するプログラムを中心として、周辺寺院群の経営改善を目的とした寺院組合が経営する納骨堂等を関連付けながら配することで、住民が寺院との関係性を構築。
さらに、宿泊施設を複合することで墓参者の宿泊を可能にすると同時に、外国人観光客の増加する上野の杜から連続した、下町特有の賑わいを発信する観光拠点としても位置付ける。
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5.diagram-3つのオーセンティシティを考慮した建築再生のプロセス
前項のプログラムを前提として、既存建築の3つのオーセンティシティ ( 表現主義建築としての建築史的価値 / 地域遺産としての価値 / 復興小学校の建築計画学的価値 ) を具体化、その価値を継承するプロセスで建築を再生することで、既存建築の地域拠点としてのポテンシャルを継承し、観光客、地域住民、寺院住職の混在する新たな拠点へと再生する。
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6.全体計画
地下鉄下谷駅のある北東を観光エントランス、寺院の密集する南側に納骨堂エントランス、西側の既存建築昇降口を地域住民エントランスと設定し、図書室、宿泊施設利用者が様々な機能にふれながら昇降する。また、南側寺院密集街区に対して開かれている、中庭に着床する2つのEVにより歴史資料館等、住職が様々な機能に関わってゆく計画とする。https://gyazo.com/0afdb4a1de64cc0c718e970d4e2c097c
7.平面計画
【下層階-1F平面図】
下層階においては既存の中庭と諸室の強い関係性を継承し、中庭を中心とした平面計画を行う。
玄関口の配置に合わせ、東側に地域物産などの観光プログラム、西側に地域プログラムを配し、中庭によって緩やかに繋がる計画とする。
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【上層階-4F平面図】
上層階においては新築ボリュームによって建築全体の回遊性を向上、既存建築の教室と廊下の関係性を活かしたそぞろ歩きのような空間体験を獲得する。
北側スポーツジム、南側図書室では宿泊者と地域住民が共同利用する空間として計画。
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8.各空間シーンパース
【B1F-納骨堂】
納骨堂はガラスブロックによって柔らかい光が降り注ぎ、死者を弔う静かな空間としている。
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【B1F-新設地下階段】
WCの配されていた既存のアール壁面を持つ部位は、地上へと続く階段となり、象徴的な場となる。
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【1F-北側新設エントランス】
隅角部WC改修後のエントランスにより、入谷鬼子母神、朝顔市等の言問通り沿いの賑わいと連続し、観光客、寺院、住民が交わる文化の交差点となる。
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【2F-改築後観覧テラス】
改築後講堂上部は、図書室から直通の中庭観戦スペースとなり、子供の活動を地域の親世代が臨める新たな空間となる。
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【3F-Lecture Room ホワイエ】
3Fホワイエは、既存の手工室への動線を活かした1Fアトリエの様子が伺え、地域の職人の作業がかつての手工室の様子を彷彿とさせる。
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【3F-歴史資料館】
歴史資料館は既存特別教室の壁面を残しながら吹き抜けを穿つことで、体験的にも歴史を感じる空間となる。
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【4F-Lecture Spaceから図書室を見る】
既存とホテルを接続するスロープでは、レクチャースペースや図書室の活動を見ながら歩くシークエンスが形成され、偶発的な体験を促す。
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【4F-図書室側からLecture Spaceを見る】
背後に既存建築のファサードが現れ新旧の対比を顕在化すると同時に、周辺寺院の住職が寺院巡り等のレクチャを行い、
地域住民、観光客、住職が混在した、新たな下谷コミュニティを象徴する場となる。
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【5F-ホテルレセプション】
ホテルレセプションは下層のレクチャールーム、図書室と連続し、待合時間に地域の文化と触れる場となる。
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【5F-ホテル客室】
客室の一部には墓参者のための仏壇があり、人の死と向き合う静かな空間となる。
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9.断面計画
【改修後A-A' 断面図】
セットバックによって、分離派建築として重要な通りからの既存立面を継承。蛇腹扉によって中庭と講堂の連続性を強化している。
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【改修後B-B' 断面図】
随所で中庭を中心とした「見る、見られる」の緩やかな関係性を構築する。
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【中庭におけるハレとケ】
ガラス屋根によって雨天時の中庭利用が可能になり、諸室から地域の子供たちの活動が伺うことができる。
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夏季の盆踊り大会や法要などのイベント時には、中庭を中心とした一体感のある賑わいが断面的に広がり、下谷における圧倒的なハレの場を創出する。
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10.おわりに
帝都復興の遺産である復興小学校を、3つのオーセンティシティを考慮しプロセスを構築することで、地域拠点としての可能性を十分に引き出した再生を行うと同時に、現代のマチの要素を取り込みながら寺院と住民、観光客が関わり合う地域コミュニティを再構築した。
かつて地域の核でありマチと密接に関わり合っていた復興小の地域拠点としての再生は、建築単体を通しマチ全体の再生を可能にすると考える。
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講評:この作品は、関東大震災復興計画の中でも地域の中核となる復興小学校そのものの再生計画と地域の抱える現代的問題を同時に解決しようという試みである。旧坂本小学校は、下町の寺院群に代表されるエリアに属しながら地元でも愛される存在であることから、地域施設としてのコンバージョンを測っている。加えてもう一つのプログラムに寺院を訪れる観光客の両方に開かれた計画をも重ねているため、施設内は多様な人々が行き交うシーンが作り出されている。特に地下にある納骨堂と地上部の中庭での地域のイベントが作り出す日常の不思議な感じはフェリーニの映画のようで優れた空間を提示している。(今村)
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