小林由実「群景 -群像劇的空間のための習作-」
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複数視点の世界が拮抗した状況を描く群像劇はこの世界の姿かたちを明快に現したものなのではないか。一方で全体性として一つの姿を求める建築に、このような群像劇的な視点を与えることで、この世界の掴み切れない全容を把握する手掛かりとなるのではないだろうか。本研究では群像劇映画に着目し,シーンを建築の断面と読み替え,断面の記譜とそのレイヤー化による空間の生成を行なった。21の習作をもとに断面からの設計手法を編み出し,そこから習作モデルを作成,最後に映像設計による空間化を行い,それらのプロセス建築的にまとめる。
1.群像劇とは
1-1.群像劇の誕生
1932 年,群像劇が生まれるきっかけとなった映画『グランドホテル』はエドマン・グールディング監督によって生み出された.「グランドホテル 人が来ては去って行く」という作中のセリフが示すように,群像劇は日常の中で繰り広げられる複数人のシークエンスの絡み合う模様を演劇的に映し出したものである.
1-2.群像劇の構成
主人公を定めた物語は,その人を中心とした人生の模様を描く単一視点的なものである.一方で群像劇とは,ヒエラルキーを持たない複数の登場人物が,個々に織りなすストーリーをシーンとして断片的に切り取り繋ぎ合わせることで,一つの物語としての世界を作り上げる.群像劇の記譜は,世界の模様を俯瞰的視点から捉えることのできる記述手法である.
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1-3.群像劇の建築的読み替え
本研究では,群像劇映画におけるシーンを建築の断面と読み替えた.群像劇のシーンは物語に対して非常に断片的な要素であり,物語の全体性と一致しない.シーンが複数積み重なりシークエンスや絡まりが生じることではじめて物語を紡ぐことができる.これを空間化の手法として当てはめ,建築の断面というシーンと同様に断片的な情報から,それをレイヤー化させボリュームを生み出し建築化させていく.以上を手法として21の習作を作成し分析した.
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2.群像劇の空間化
2-1.習作の概要
前項で定めた空間化の手順に従って『①断面の記譜法 ②レイヤー化 ③ボリューム化』を以下の複数パターン検討した.
① 幾何学/線/混合
② 1 軸平行/1軸振動/2軸直交/回転
③ 押し出し/結合/連結/混合
2-2.習作の作成条件
前項で定めた 3 つの手順を設計手法として変換していくにあたって以下のように条件を設定した.
・形にスケールを与えない
・断面の大きさは黄金比である 1:1.6 を基準とする
・断面レイヤーの幅は等間隔に並べる
・断面に記譜する線は厚みを一定のものとして考える
2-3.習作モデルの空間生成手法
21 の習作を通して得た成果を習作モデルとして一つの形に落とし込んだ。習作モデルではスケールを与え、幅 32m,奥行き 42m,高さ 20mという範囲の中で空間の生成を試みた。以下にその手法をまとめたものである。
・断面の軸を時間軸として設定し,時間の流れと共にシーンが出現する様子を断面のレイヤーに記譜する
・軸は 2 軸が直交するように設定し、短手の断面を基準としもう一方の断面レイヤーは基準軸を錯時させるように設計する
・断面線が時間の経過とともに変化していく様子を断面を重ね合わせることで操作し,重なりを設計する
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2-4.偶発的な空間の生成
一連の手順によって生み出された習作モデルは,一般的な平面図などにより計画された空間とは異なり,スケールエラー・歪み・急な勾配など偶発的な空間を生み出した.これらは断面の自律性によって生み出され,設計者の手から離れた制御できない力が建築に働いている.一方で,設計者の恣意性はレイヤー化する際の断面間の幅・レイヤーの数によって強度を選択することが可能であった.私はこの習作を通して建築の境界を見た.自律的に断面線が生み出すボリュームと,設計者としてそれらをコントロールする働き,これらの相互作用の衝突が,群像劇的な複数の世界が拮抗した空間を生み出す手法であると分かった.
3.映像設計の概要
習作では図 2 に示すボリュームを生成するところまで作成した.最後に映像というアウトプットに基づき群像劇的な建築の設計を行う.断面が自律的につくり上げた空間を設計者である私が建築化させる。ボリュームを観察してより多くの世界が拮抗する視点場を 12 個定め,その点から体験者の視点で軌跡を伸ばしていく.これを映像設計としてのシナリオとする.
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視点場を元に空間に厚みを与えていく.近景は薄く遠景は厚くボリュームを与えていくことで,空間にヒエラルキーを無くす.
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4.人と建築の間のヒエラルキーの斑点と補完
これまでの建築は、設計者の与えた全体性によって建築は形作られ,経験者(人)はまたそれを使いこなす.人>建築という明快なヒエラルキーが存在したが,本研究によって生まれた群像劇的建築は,設計手法・空間体験が,時には建築が優位になり人に何かを与え,時には人が建築を使いこなす.人と建築のヒエラルキーは常に逆転しながら互いに補完しあう可能性が見えた.
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講評:ここに入力(改行は不可)(山中真太郎)