児山菜月「視覚障害者の空間認知方法を応用した設計提案 -視覚障害者と晴眼者が「印」を共有する複合施設計画-」
修士設計/2023年度
https://gyazo.com/2a510533e7a2d1ebd20b761fef391170
【序章】
私たちは、約8 割の情報を視覚を頼りに得ていると言われている。これは空間認知においても同様、無意識に他の知覚方法よりも視覚のわかりやすさが優先されているということである。今回の計画は、普段視覚に頼っている私が、「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」、「視覚障害者とつくる美術鑑賞ワークショップ」という2 つの体験をきっかけに得た、空間の知覚方法の多様性、またその認識の多様性への気づきからインクルーシブデザインを再考したものである。
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このように私は、視覚障害者の方と実際に関わったことで、要素の知覚方法や認知方法、捉え方は多様であり、自由であることに気づくことができた。このように、視覚を頼りに生活している晴眼者の私たちも、他の知覚方法を頼りにしている弱視、盲目の人々も、多様な方々が空間を自由に捉えられ、ふるまいを尊重し合える空間をつくることこそインクルーシブデザインなのではないだろうか。
【背景】
視覚障害者が求める空間の質は、晴眼者の私たちが求める空間の質とは異なる。彼らは、音を聞き、匂いを嗅ぎ、素材を見極め、シルエットを記憶しながら日々、自らの領域を広げている。しかしながら、晴眼者に重きの向けられる社会では、雰囲気づくりのために間接照明が用いられたり、景観を守るために電柱が地中化されたりし、視覚障害者の空間認知を補助する要素を減少させている。
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また、小学校入学時から視覚支援学校に入学するなど、晴眼者との分離教育の中で、少人数制の教育を受けることも多いことから、晴眼者が教育の中で培われるような社会性や競争力は高まりにくい。また成人になってからも、地域行事の参画ができない状況にあり、地元社会と繋がることができない傾向にあること、またそれにより、晴眼者の視覚障害者への理解が進んでいないことも課題の一つである。
【目的】
視覚障害者が利用しやすいプログラム・施設として計画されることで、視覚障害者の利用のみに留まることの多い、視覚障害者施設に晴眼者の生活を介入させ、双方の関わりの場を創出する。https://gyazo.com/f642939963913de6fe1fee5be4c8cca6
このように、視覚障害者と晴眼者の双方の空間の捉え方を尊重し、視覚障害者施設に晴眼者の生活を介入させることで、双方が互いの捉え方を尊重し合い、互いが気づいていない、空間の多様性や豊かさに気づくことを目的とする。
【ヒアリング/文献調査・分析】
まず、視覚障害者がどのようなものを空間認知の要素とし、どのような行為を行うことで認知しているのかを知るため、「杉並アイプラザ」に所属する弱視の方 3 名、全盲の方 5 名の計 8 名にご協力いただき行なったヒアリング調査、また文献調査より、視覚障害者の空間認知に関する 52 個のセンテンスを導き出した。またそのセンテンスを、視覚 障害者の把握する 6 つの情報(空間のどの位置にいるかを示す「所在」、どの方向を向いているのか、どの方向へ進むべきなのかを示す「方向」、目的の点まで導く「誘導」、空間のサイズや様子を示す「空間の様相」、時間や季節を示す「時節」、天気を示す「気候」)に分けた。
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【事例文献調査・分析】
視覚障害者の利用を目的とした 12 個の施設を事例調査の対象とし、これまでどのような建築的構成、建築的要素が視覚障害者の空間認知要素として計画されてきたかを調査・分析した。また、それらの建築的構成、建築的要素が、視覚障害者のどのような 空間認知の要素として捉えられるように計画されているのかを調査・分析した。
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【調査・分析結果】
ヒアリング調査より、視覚障害者は、視覚障害者誘導用ブロックや手すりに埋め込まれた点字などの視覚障害者に向けられ た特別な要素だけを空間認知の要素(=『印』)として知覚している訳ではなく、晴眼者である私たちも普段何気なく視覚により見ているものと同じ要素を、私たちとは異なる知覚方法を交えながら、捉え、『印』として認識していることがわかった。 ヒアリング調査より得た、視覚障害者の空間認知に関する知覚方法については以下を抽出することができた。
https://gyazo.com/dda92ca955bbea32fbdc0aedad1f7b6c
これらのように、要素を認識する際に重要視している知覚方法が異なることで要素の捉え方に差異が生まれており、これらの知覚方法も許容される空間設計が必要であると確認できた。
また、事例調査・分析より、視覚障害者の認知しやすい平面構成については以下のことがわかった。
https://gyazo.com/d41f69e5f69f0832878094750280a037
また、ヒアリング調査のキーワード、事例調査の建築部分から導き出した建築的要素を視覚障害者がどの知覚方法で、どのような情報としてに捉えることで空間認知をしているのかについては以下のように示すことができた。
https://gyazo.com/80cc66a067f57aba4f571d1cd5d5585e
この結果からも、視覚障害者は建築要素を晴眼者とは異なる知覚方法を用いて、空間認知要素の一部として捉えている。これらのことから、視覚障害者の「印」の捉え方から要素を再考することは、普段私たちの気づいていない建築要素に対する多様な可能性への気づきに繋がるのではなだろうか。
【再評価】
本計画の趣旨は、視覚障害者施設に晴眼者の生活を介入させ、新たな関わりを生むことにあり、視覚障害者と晴眼者が単一空間で建築要素を共有することが求められる。それに伴い、抽出した視覚障害者の知覚の要素となっている「印」は晴眼者のための要素 としても利用される必要がある。「印」を視覚障害者と晴眼者の双方の要素として再評価するため、ヒアリングなどでの気づき、実体験を参考にしながら、視覚障害者、晴眼者が共用できる要素として捉え直しを行なった。https://gyazo.com/ce3880ef4c3c09c4989fa8bcbf3bd271
https://gyazo.com/8a51be83016f6f540953e072b3a72cf7
【計画敷地】
敷地は東京都日野市にある倉庫跡地を含む敷地を選定した。この敷地は、かつて、「伊勢丹日野旭が丘センター」として倉庫の 用途で使用されていた部分だが、現在は社会福祉法人「東京光の家」の施設の一部として、現存する就労ホームと共に増築・改 修計画が進んでいる。本計画はその計画敷地全体を建て替えることで、視覚障害者と晴眼者の新しい関係性を模索するという位 置付けで進行中の計画の代替案として提案する。
https://gyazo.com/86a5d6b793237789a6c04a61b9fdb84b
【プログラム】
本計画のプログラムは、視覚障害者、市民、企業、学生など多様な人々が関わりながら新しい産業を生み出すことを目的とし、以下を取り入れる。https://gyazo.com/22fcf9efea4ef8d0842dc5515ae3eb7c
【ダイアグラム】
今回の計画では、特に、視覚障害者の空間認知方法を応用することで起こる境界の曖昧化と、視覚情報とその他の感覚のずれから起こる、周辺気配の想像や、他の空間への興味をつくり出す点に着目した。敷地条件に合わせながらも、視覚障害者が認知しやすい空間構成にすることに加え、晴眼者が互いに空間を利用することを想定しながら、以下の手順で設計を行なった。
https://gyazo.com/f427c6b47c99de46eb4900709ab7517e
【平面計画/詳細】
各階の平面計画、要素の詳細を以下に示す。
《1F》
https://gyazo.com/87d33eba0789e568542786242f429468
https://gyazo.com/efa376a77de4c47c4a1bb61b72eee9c9
《2F》
https://gyazo.com/7d8a8a5feb07751997543c6226564dfd
https://gyazo.com/b496017eeac0517e1cafaff0d030cd36
《3F》
https://gyazo.com/92a34911639ccc9d59b6f5ee596df0eb
https://gyazo.com/fdc4b9221c9827adef3924940dde97b9
《4F》
https://gyazo.com/1755f756b22cb81f61237c0056feb640
https://gyazo.com/1e9243081651bfc2cbad2edb04d85f0c
【断面計画】
熱の溜まりや風(匂い)の通り道を設けることにより、計画を断面から見ても、視覚障害者の認知要素となっていることが確認できる。
https://gyazo.com/db3c7cd17ee1c37e9f077b3373b2b5a4
【終わりに】
https://gyazo.com/56146148e6be7fd4f099ce283785f6c7
視覚障害者と晴眼者の関わりの場を創出することで、空間の捉え方は多様であり、自由であることを示すことができた。また今回、視覚障害者の空間認知を応用することで、境界の曖昧化や、視覚情報と他の感覚のずれといった、晴眼者にとっても変化のある空間を提供することができた。晴眼者の私たちも、他の知覚方法を頼りにしている弱視、盲目の人々も、多様な人々が空間を自由に捉え、それぞれのふるまいを尊重するインクルーシブな空間がより広がることを期待する。
指導教員:佐藤光彦
講評:ここに入力(名前)
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