アジャイル開発チームのための、ナレッジ共有入門
自己紹介
洛西一周
プログラマーであり、ベンチャーを経営
プロジェクトがうまくいかなかった例を振りかえってみてください
共有、認識がうまくすりあわせられていない
「情報共有がきちんとできなかった」
「お互いの認識が異なっていた」
具体的には?
チームの重要メンバーが退職すると、プロジェクトの知的資産がごそっとなくなる
他部署との調整はいつも険悪なムード。なんで同じ方向を向けないんだろう
同じことをそれぞれの人に繰り返し説明していて、生産性の高い仕事に時間を割けない
もやもやとした悩みがあるが、言語化できない
その場の雰囲気で開発内容を決めている
アイデア出しやブラッシュアップに長時間拘束
コンセプトが浅い。自社で練る時間がない
ナレッジ共有とはなぜ必要なんでしょう?
ナレッジ共有はコスト?
守りの情報共有
認識あわせも、議事録の保存も、負荷がかかるが、破綻を防ぐにはやらなければならない
攻めの情報共有
チームには、形式知とは別に暗黙知があります
形式知を、形式知のまま残すだけでは苦痛
暗黙知を共有していくことで、プロジェクトをスムーズに回すことができます
ナレッジ共有
チームを正しい方向に誘導するための地図のような役割を果たします
https://gyazo.com/f0e4d8bb3c124fc93d1f4121c600082b
PDCA: 交通量
ナレッジ: 道路や信号、標識、路面の状況、インフラ
交通量を増やしても、信号や道路が正しくなければ、事故が起きますよね?それと同じです
キーポイント(チェックリスト)
自分の経験を共有していますか
チームの成功と失敗パターンが記憶されている
語彙が統一されていますか
仮説や意見も全員と共有できますか
現場の多くの情報がそのままあがってくることを拒んでいませんか
よいリーダーはむしろ生の情報にアクセスしたがります
ビジョンは言語化されていますか
それを話し合う場はありますか
他の部署に自分の仕事を説明できますか
提案の採用を見送ったとき理由を述べていますか
モダンなナレッジ共有に至るステップ
第一の段階
なんでも階層的に管理したがる
特定の人にしか見えない権限の壁を作りたがる
決定したものしか共有しない
現場の情報がそのまま上がってくると怒り、要約だけを求める
文章の体裁を気にする
言葉の定義はなにも決まっていない
情報量もナレッジもとても限られている状態で意思決定を行う
ファイル置き場があるが、なにも探せない
昔はこれは必要だったが...
今は阻害しているものを一つづつ除く(アンロック)する必要がある
できるようになると、様々な問題が解決し、車両はより速く走れます
なぜ、ナレッジ共有は、会社の交通インフラに例えられるのでしょうか?
道標 / 道しるべ
ビジョンや哲学に触れる機会が増える
標識
いろんな業務のやり方が掲載されている
「この前、こっちにいったときはこうだったよ」
道路
たどっていくことで、別の部門や人の考えに会える
高速交通網
見えない「すりあわせ」時間の短縮
連携意識の強化
モダンな情報共有ツールの役割
〜Scrapboxはチームに何をもたらすか?〜
情報共有は変わっています
カタイ情報共有と
ヤワラカイ情報共有があります
守りの(カタイほう)の情報共有のイメージ
「倉庫」です。
https://gyazo.com/eb6281a56dab658031ff6c37607a833b
使い方:「鍵」がかかっていて、厳重に管理にする
更新:基本的にできない。決定事項だけ置く
コメント: コメントや意見を付すことは可能だが、おまけである
役割:(発言はあいまいなので)「ちゃんと記録する」「決定が覆らないようにする」
形式知を残す
攻めの(ヤワラカイほう)の情報共有のイメージ
「無限のホワイトボード」
https://gyazo.com/7d443cb300770248896dcb7cdcfb83b2
使い方:思いついたことを書くことができる
更新:誰でもできる
保存:サイズに制限はない
また、検索も自由自在
役割:チームのアイデアやカルチャーを可視化する
イニシアティブはそれぞれが持ちつつも、オープンに議論をする
暗黙知を集合知化して闘う
なぜ、変わった?
形式知を残す - 「ちゃんと記憶する」がミニマムなことは変わりがないが
会話もLINEで記録。音声も録音可能に
業務の中で自然に、保存するだけでなく、知識同士を結びつけて、高速に出し入れできる技術ができた
スピードが速くなっている
いちいち書類を取り出して確認する時間がかけられない
集合知で闘わないと対応しきれない
よって、これからの情報共有の役割は、
「コミュニケーションによって引き出されるチームの知恵を最大化すること」です。
すなわち暗黙知を集合知化して闘う
どういうときに使うのでしょうか?
〜利用シーンの解説〜
新しい人が入ってきた
あなたのチームが取り組んできた仕事をぱっと説明できますか?
一言で説明できないのは当然です。難しいことなので
あなたは、すこしつづ時間をかけて、新メンバーに教えていくでしょう。でもその間に競合は、一瞬でチームの目標とコンセプトの共有を完了させ、戦力を一気に増強させているかもしれません
解決
これまでScrapboxでためてきたドキュメントがあれば、それを見てもらうことですべて解決
コンセプト、成功・失敗経験、タスク、議論などすべてを残すことで、あらゆる情報が残らずチームの血肉になります
どれを読むべきか?は、その人が選ぶ
読んで欲しいものは「リンク」を送るだけで解決します
質問があれば、その場に書いてもらい、答えもそこに残します
これによってますます、その濃度が上がっていきます
次に新しい人が来たときには、さらに効率化されるでしょう
https://gyazo.com/227fa168766ff21b1945f147b188abc7
https://gyazo.com/717d0e53912a9e126bb3ea5fe0c30a2d
となりの部署やチームの積極的な協力が欲しい
開発チームとマーケティングチームはお互いに、自分たちのコンセプトを分かって欲しいと思っています
これまではそれぞれのリーダー同士で話し合うことが多かった
メンバー全員が集まってミーティングをすると、お互いの共通理解(バックグラウンド)が少なすぎるので、収束しません
表面的な会話だけならすぐに終わりますが、本質の理解をお互いにするためには、時間がかかります
それをやっている間に競合は、全メンバーが相互理解を深めて、部署間で優れた連動を見せ、よいマーケティング&プロダクトを市場に投入してきました
解決
攻めの(ヤワラカイ)情報共有ツールは、決定事項だけをいれる場所ではありません
チームの頭脳をそのまま吐き出す場所です。これまでも、チームは時には激しい議論も経験してきたはずです。それらの経験と成果を次に活かせないのはもったいないことです
「私はこう考えている」ということをリンク構造を使って表現 します
すると、他のメンバーと自分の共通点について暗黙的に感じていた点があぶり出されます
この点については、いちいち議論しなくてよくなります
よって、一気に2回目以降の会議が短縮できます
単なる一人の意見書ではなく、チーム全体の知恵に昇華できます
Tips: 一つのトピックごとに一つのページに切り分けていきます
違うトピックに話が移った場合は、それも別のページにして、リンクを貼っておきましょう
まったく違う意見がある場合は、別のページを作ってもかまいません。
https://gyazo.com/1c7d19e1ae8d8a7c78dbdccd46742116
https://gyazo.com/89fd56589cb5e8ba50fed72947ba96d0
https://gyazo.com/32adec82e08c30e8f53ac9063807dcca
細かい事務的なタスクに忙殺されて生産的な仕事に向かえない
社員A: 経費申請の方法を、会計担当者になんども聞いてしまう
会計担当者: Aさんだけでなく、実はみんなが簡単なことをなんども聞いてくる...
本当はもっと高度な分析の仕事がしたいなあ
簡単な仕事でもこなすことで、達成感が得られます。が、それに安住すると、個人としても企業としても成長がありません
カタイ文書によるマニュアル化は、組織の官僚化と生産効率の低下を加速します
解決
情報共有ツールに、やり方を書いていきます
疑問を口頭でもらった場合にも、質問をそのページ内に書いていきます
URLを渡すだけで、解決していき、仕事の幅が広がります
https://gyazo.com/f65a5c214eb59584ec32aa607e728641
https://gyazo.com/850438bf59d53f174f000614aee7542c
解説
自己解決型組織
費用対効果 - トータルコストが下がるのが想像できますよね
実践的な記入テクニック!
〜どうやって使えばよいの?〜
リンクを使っていく
足りない部分で、リンクを使う
前提の共有などが不足しているな、と感じる場合
◯◯とは?とのようなページを作って前提を共有
https://gyazo.com/1e4cbfd3490bccb1ee10885924ee5fb0
溢れた部分にリンクを使う
トピックが大きくなりすぎて話が散漫になっている場合
別のページに、単語の定義を書く
別のページに切り出す
関係があるものをリンクする
タグなどを使って共通のものをまとめたり
関連あるものを直接リンクします
(補完機能があるととても簡単!)
単語をリンク化する
将来役に立つかもかもしれない単語を選んでリンクにします
リンクの効果
リンクは、背景や文脈の説明を外だしして省くことに使えます
「◯◯さんは今週から参加だね。一から説明すると〜」をスキップ
一つのトピックに一つの見出しをつけることで探しやすくします
大きなファイルは、その中から中身を探すのが大変
なお、Scrapboxではリンクとタグは区別されません。
100%完成していないものも共有する
足りない部分は、他のメンバーがどんどん書いてくれる
質問をしたり意見を書いたり
それらもそのまま残していく
https://gyazo.com/e9d12045ff40e67e2acc97f477cdfd4b
文章はなるべく短くしましょう
一行単位で、コメントをもらえます
二つのことを一行に書くと、質問や議論もしにくくなります
アイデアを膨らませるのもとても有効です
相手を煙に巻きたいという意図があるなら別ですが、この書き方をすることで簡潔で明朗な議論に近づけます
画像を使う
絵の力を使うのも、イメージ(暗黙知)の集約にはとても有効です
基本的な名詞、さらには共有にしにくい形容詞にも絵をはっていきましょう
「信頼感」など言語化しにくいページに絵を貼っていくのもよいでしょう https://gyazo.com/cee1513d9b5b0ba2d4a4b5998796c573
事実を積み上げる
プロジェクトの目的は、意見を言い合うだけでなく、みんなの知的資産を増やすのが理想
意見には名前(顔アイコン)をつける
事実については古くなっていたり間違っていたら他人のものであっても編集
こちらが正しいのではないか?と思ったらそれを積極的に発信していく
「事実」というと堅そうですが、
「◯◯製品のイベントの計画」というような場合、その計画の中身は事実扱いでよいでしょう
よくある質問
〜ここからはディスカッションです〜
ぐちゃぐちゃになって取り出せなくならないか?
リンクがあることで辿っていくことができる(ここがポイント)
検索して、2,3個辿ると出てきます
「リンク」は、現実の「ホワイトボード」にも「書類」にもないもの
よく地図のメタファーを使って説明しています
丸の内ビルにいくときに、住所だけ言われてもわからない
でも東京駅から丸の内駅のほうに向かって歩いて行って、上にでて大きいビルを探すと辿るつける
これに近い感覚です
絶対座標(住所)ではなく、相対的な方法でわれわれは地理を認識しています
リンクは、右とか左とかを指し示す標識のようなものです
https://gyazo.com/f0e4d8bb3c124fc93d1f4121c600082b
どれが決まったことで、どれが話し合い中のものかわからなくならないか
ほとんどの決まったことは陳腐化します
決まっていること・決まっていないことで分けると、決まったことが「層」になって溜まる
しかし、ほとんどのものは更新が必要です。すると、更新のたびに「決まっていないこと」に戻さないといけない
この処理がとても面倒なので、実際は、更新されなくなって情報として鮮度が失われます
「決まったことなので変更しない」という態度がリスクになります
それよりも、すべての情報は更新される可能性があるから、できるかぎりアップデートしていこうという方針の方が役に立ちます
Scrapboxは、更新行が視覚的にわかるので、どこが古いかどうかすぐわかるようになっています
また、追記するときに日付を書くのもよいですね
だれかが嘘を書くのではないかと心配です
mtgやチャットでも人を騙すことはできます
また情報共有ツールは、みんなが常に見ているので、そのような場で、悪事を働くことは難しいです
悪意はなくても間違っていたらどうするのか?
すぐに直していけばよいです
「仮説」とか「未確認」とか書いてもよいです
間違って消してしまったりしたらどうなりますか?
自動バックアップがあるので、いつでも戻せます
リテラシーが高くないので、使える気がしません。
むしろそういう方へおすすめです
WordやExcelのような難しい編集機能はほぼついていません
LINEが使えれば使えるでしょう
最低限やるべきことは、入力すること、リンクすることくらい
リテラシーに関係なく、誰でも使えて満足するものを目指しています
情報は与えすぎると、迷ってしまい身動きがとれなくなるのではないか?
個人レベルもチームレベルでも、情報がたくさんあることは、決定に有利に働きます
気をつけないといけないことは「全部見なければならない」というようなルールを作ること
「そこにあり」「いつでもアクセスできる」ことが重要です
「ウェブ」はこれまでのルールをすべて変えてしまいました
インターネット検索は前提
情報共有ツールは社内に同じパワーをもたらす
むしろ、外部情報に流され、チームでの文化・知識形成が遅れをとっていませんか?
見えなくてもいいものが見えることで、部署間の軋轢が増えたりしないか?
情報共有は、これまで社内にあったものを見える化する手法です
見えないと改善できないです
問題点がでてくるということは改善できる
きっかけができる
ラッキーだと思うくらいがちょうどいいです
「口では言っていいけど、文書ではだめ」というような考えは古いです
おまけ
サッカー日本代表熱いですね
岡田監督の「生物的組織」
自律的に意思が統一
I から we に変わる
Scrapbox情報整理術
https://gyazo.com/a6bf4debf23f7a0c62645cbc89cc7787 https://www.amazon.co.jp/dp/4863542526
2018/7/24発売予定