へレディタリー/継承の感想
面白かった。
展開上いくつものミスリードがあり、「これはこういうタイプのホラー作品だな」という期待を裏切ってくるので、最後まで緊張感がある
嫌なシーンの嫌さを丹念に描写するのがうますぎて戦慄した。嫌なシーンというのは、猟奇的とか心霊的というよりは、精神的な嫌さのやつ。
ここからネタバレそんなに気にせず書きます
一番衝撃的なシーンはチャーリーが死ぬ(死んだ後)のシーンだった
重要人物に思えたチャーリーが唐突に死ぬこと自体も衝撃なのだが、死の発覚までの演出がとにかくすごい。視聴者としても衝撃を引きずったまま(現実を直視できないピーターに同調したまま)、じっくりと発覚を待たなければいけないのが嫌すぎる。発見したアニーの声も強烈。恐ろしい。
生前のエレンをまったく描かず(回想ですら)、登場人物(アニーやチャーリー)の口から徐々に語られていくのみなのも良い。エレンに得体のしれなさを感じつつも、それを語るアニーも信用できない語り手(精神疾患がある)なところが絶妙。狂っているのは誰なのか。
カルト集団の存在が明らかになり、真相がわかると、アニーやチャーリーが語ったエレンの行動の意図にぞっとする。最後のホラー展開の畳み掛けの後にじわじわエレンの怖さに気づくので、終わったあとも恐怖の余韻が続く。
個人的に微妙だと思ったのが、心霊現象がちょっと不条理っぽいところ。たとえば、スケッチブックを燃やしたらスティーブが燃えたのは何故か。この作品の心霊現象については「自分で行った行為の代償」であるところがポイントだと思っていて(仕組まれたとはいえ、アニーは自分で召喚の儀式を行ってしまった)、スケッチブックを燃やそうとした人が燃やされるのは理解できるが(アニーの例)、燃やそうともしていない人が焼死するのは若干の不条理を感じる。もちろん、家族まとめて巻き込まれた(特にピーター)ので、スティーブだけ何もないということもないんだろうけど。最後の展開に導くために標的にされているのは間違いないし。にしても、あまりに心霊的に理不尽すぎる死だと、人の意思そのものが恐ろしいカルト的恐怖とコンフリクトする気がする。
スケッチブックを暖炉に投げ入れるのはスティーブのほうが良かったんじゃないだろうか。自分が焼死するつもりだが投げ入れる覚悟ができないアニーがスティーブに頼むという展開はそのままで、アニーではなくスティーブが焼死する。自分が焼死すると思っていたアニーにとってひどく残酷な結果であるし、投げ入れた人が燃えるのであれば不条理はない。なんでそうしなかったんだろ。この展開は視聴者の予想の範疇なので、だからこそあえてアニーに捨てさせる(けどスティーブが燃える)という裏切りをやったのかな。まあ、自分が意図を読み切れていないという話はあるけど…。
あとは、心霊的な現象がなければカルト恐怖(人間の恐怖)の純度が上がっただろうなぁとは思うけど、人間ができる範疇のことしかできなくなるのし、それはやりたかったことの本質ではないか。カルト集団の意図通りの心霊現象が起きたことそのものが恐ろしいという。
上の方で「巻き込まれた」という書き方をしてしまったけど、これは家族ぐるみで継承した呪いであるので、逃れられなさも恐ろしい。ただ、トリガー(儀式)はアニーの意思で引いてしまったという事実も巧妙。操られていたのではあるけど、理不尽ではない。だから怖い。
とにかく巧妙という感じの映画だった