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イベントのオファーの様子
蔵多:このイベント、本当は2020年3月に鳥取市に来ていただいて開催するつもりでしたが、新型コロナウイルスの感染拡大で延期になりました。その後、たみがセルフロックダウンしたり、矢津さんがkumagusukuを辞めたり、岩崎さんはクラウドファンディングをしたりしました。その後、どうですか?
矢津:そんなに前でしたっけ。3月って岩崎さんとアムステルダムに行きましたよね?
岩崎:確かアムステルダムにいる時に隣にいた矢津さんと一緒に、蔵多さんとの延期のやりとりをしたような覚えがあります。
蔵多:それをそのまま三宅さんに転送した記憶があります。懐かしいですね。
矢津:さっき蔵多さんが言ってくれたようにそのあと衝撃的なことが起こりすぎですよ。
コロナ禍での対応
矢津:(新型コロナウイルスが感染拡大する2020年春に)たみとYがセルフロックダウンを宣言した時、その決断を見てめちゃかっこいいなと。その時はまだ僕はkumagusukuをどうしたらいいんやろうという感じで、予約もまだ入ってたし。そういう状況の時にああいう決断ができるというのは、かっこいいなと思いましたね。
三宅:鳥取は特に感染者数が少なくて。だからこそ感染者ひとりに対する意識が違うので、県外から客を招いて自分たちが感染したら本当に大変なことだと思った。もう、一刻も早く閉めなきゃという感じでしたね。
矢津:来てください、と言えないのは辛いですよね。前提として、来てもらってから始まるじゃないですか、宿は。
三宅:岩崎さんはどうですか?
岩崎:マガザンでは、そういう正しい姿勢みたいなものを表明する機会を求められているような気がしていました。。一方で、うちは従業員を食べさせないといけないし、宿の中だけだけじゃないクリエイティブなプロジェクトも引き続き作っていきたい。コロナ禍に対しては、この二つのテーマでずっと考えているという実情ですかね。そのひとつの答えが「オンラインに振り切る」。コロナ禍に対する見方は色々あるじゃないですか、で、色んな事情で旅をしている人もいると捉えた時に、来てね!というキャンペーンはしないが宿は開けておいて予約が入れば歓迎して受け入れる。その残りの時間はオンラインに振ろうと。で、オンラインストアの利益の半分を、マガザンメンバーでこの人たちを特に応援したいという人たちに贈ろうと何を贈るのがいいのかな?と議論を煮詰めて、やっぱり今喜んでもらえるのは現金じゃないかなというのを、2020年4月に判断してやってみました。それが今も続いてますね。誰が自分たちにとって大切な人なのかというのがオンラインでも浮き彫りになった気がしますし。メンバーみんな一生懸命にやってくれています。
局所的多角経営
矢津:岩崎さんはもともとコロナ以前からオンラインに力を入れたりとか、宿泊に頼らない経営をしているじゃないですか。それを以前から徹底してやっている印象があったので、コロナ禍の影響が限定的だった気がするんですよね。kumagusukuは宿泊に頼っていたので大変でしたけども。
岩崎:矢津さんの言葉を借りれば、自分の中の“アーティスト”がやろうとしているのはメディアや広告のアップデート。広告って、資本主義と密接につながりすぎてかっこ悪いものとして捉えられている一面があると思うんです。売り込みとかスパムとか。でもキャリアが広告畑から始まっているのもあって、本当は広告ももっと素敵なもののはずだという思いがあって、雑誌というメディアをモチーフにして始めたんですけど。雑誌はマガザンがそうであるように、「局所的多角経営」。売り上げが何で成り立っているかというと、コンビニや書店での売り上げもあるし、広告など読者の見えていない裏側でも、業務提携やコラボレーションや、誌面の外で別の雑誌を作っていたりとか、そういう仕組みをアップデートしたらちっちゃい場所でも価値を広げられるんじゃないかと。それが偶然リスクヘッジになってたっていう。
矢津:なるほど。
岩崎:で、メディアって評価軸に「滞在時間の長さ」というのがあるので。宿って滞在時間を獲得するメディアとして最強じゃないか!って思ったのがきっかけですね。
矢津:「局所的多角経営」いいですね。
岩崎:今思いついた言葉なんですけど。ちっちゃい場所で、色んな切り口の経営をしているなっていう。色んな会社を作って色んな事業をしている、というのとは違う多角経営ですね。
矢津:めちゃ参考になります。
あたらしいkumagusuku
三宅:3月から、いくつくらいテナントが入るんでしたっけ?
矢津:kumagusukuも合わせて12店舗。180平米ほど。
岩崎:180平米に12店舗は驚異的ですね(笑)
三宅:100パーセントの宿をやるのは難しいなって気はするんですけど、例えばひとつふたつをそのうち宿にすること可能性はあるんですか?
矢津:いや、それはないですね。風呂場まで部屋にしちゃったんですよね、今回(笑)。でも、宿ではないけど泊まれる部屋は一つだけ残しているんですよ。ゲストルームという感じで、アーティストインレジデンスや京都外の友人が京都で何かをする時に滞在できる部屋。そこまで無くしてしまうのは惜しいなあと思うので。営業はしないですけど、機能としての「泊まる」っていうのは実は一部屋だけ残ってるっていう。
三宅:なるほど。
矢津:「泊まる」はやっぱり面白いんで、やっぱり。いずれやるんじゃないかなとは思うんですけど、それがどんなものかはわからないですね。
続ける理由
岩崎:三宅さんが続けているのは理由がありますか?
三宅: 矢津さんの決断とかを見て、潔くていいなというのと、語弊があるかもしれないけど羨ましいなっていうこともあるし、この状況において辞めるっていうことを選んだことも。でもそこに踏み切れなかったのはやっぱり…すごい中途半端な態度になってるって感じではありますね。スタッフの雇用もあるし、みんな船から降りるのは難しいみたいなところもあるし。
岩崎:そこがリアリティを感じますね。僕も悩まないわけではないですし。
自分が続けるのは、マガザンという生態系の維持に引き続き「泊まる」は価値があるとは思っているのだけども、どこかで意地というのもありますよね。「泊まる」に場所を面白くしてもらったという感覚もあるし。それは京都という街のパワーもあってのことで。それをさっき三宅さんが言ったように「消費した」感じで終わりたくないという意地みたいなのがあります。何とか斜め上にジャンプしてやりたい。今を維持したいという感覚はないですね。