nocchi H28民法 20170704
平成28年度司法試験問題
設問1
第1 小問(1)
1 Eは,A及びDに対し,甲土地の所有権(206条)に基づき,甲土地の所有権移転登記手続の請求をすることはできないと解する。以下,説明する。
shio.icon 書き出し、良いですね。根拠と結論が端的に述べられています。nocchi.iconありがとうございます。
2 EはCの父Aと、Cが所有する甲土地及び乙土地の売買契約を締結した。平成24年2月10日の時点でCは満18歳であったため,唯一の親権者であるAがCの財産を管理し,法律行為について代表する(民法(以下,略。)824条本文)。このことから,甲土地及び乙土地の売買契約(555条。以下,「本件売買契約」という。)はこの代表権に基づきAが締結しているため,原則として契約の効果はCに帰属する。しかし,Aはこの売却代金を自己の遊興により負った債務の返済に充てる意思を有していたため,本件売買契約の効果をCに及ぼしてよいか検討を要する。
しかし,Aは,売却代金を自己の遊興により負った債務の返済に充てる目的で甲土地及び乙土地の売買契約を締結したため,本件売買契約の効力をCに及ぼしてよいか検討を要する。
shio.icon 「債務の返済に充てる」のは「意思」でしょうか。ここで「○○」と言っておくと後とつながるのですよ。さて何でしょうか。nocchi.icon「目的」でしょうか?
shio.icon 「目的」もいいですね。でもあとで何を言いたいのかをよく考えてみてください。それにつながる表現ができるとあとの論述の布石になります。もし「意思」だったら、その契約が有効に成立した暁には「債務」が生じることになりますよ。なので意思ではないほうがいいですよね。そうすると何がいいか。
3 利益相反行為該当性
(1)親権者が未成年者を代理してした法律行為が利益相反行為(826条1項)に当たるか否かは,親権者の内心をうかがい知ることが不可能であることから,外形的客観的に判断する。
shio.icon 条文を引かない理由があれば教えてください。nocchi.iconありません!
shio.icon ははは。そうでしたか。nocchiのことだから意図があるのかと思いました。
(2)本件で,確かにAは自己の借金返済に充てるという目的を有しており,CはAが売買代金を借金の返済に充てたことにより自己の財産を失っている。しかし,Aが親権者として行なった代理行為は外形的には単なる売買契約であり,Aと子Cとの「利益」が「相反する」取引とはいえない。
(3)よって,利益相反行為にあたらない。
4 権利濫用行為該当性
(1)次に,Aの行為が権利濫用(1条3項)にあたるか,検討する。
代理権の濫用に当たるか否かは,824条が親権者に広範な代理権を与えた趣旨に反し,専ら親の利益のために子の利益を害したと認められる特段の事情があるか否かにより決する。
AE間の売買契約は,実質的にAの利益のためにCの利益が害される態様の取引である。よって,「専ら親の利益のために子の利益を害した」と認められる。したがって,AE間の売買契約におけるAの行為は権利濫用にあたる。
(2)契約の効力について
権利濫用にあたる全ての取引を無効とするのは取引の安全を害することから妥当とはいえないため,取引の効力を否定すべきか否か,以下検討する。
親権者の代理権濫用にあたる態様の取引は,取引の効果帰属に関して表示と真意に不一致はないが,経済的効果の帰属に表示と真意に不一致がある点で心裡留保(93条)に類似する。そこで,相手方が表意者の真意を知り又は知ることができたと認められる特段の事情がある場合に限り93条ただし書を類推適用して代理人のした意思表示を無効とし,本人に契約の効力が及ばないようにすべきであると解する。
shio.icon 「意思」でしょうか。nocchi.iconいえ。「真意」です。直しました。
shio.icon それから民法さんは「表示と意思との不一致」という考え方はしていませんよね。どのように捉えているんでしたっけ?nocchi.icon「真意と表示の不一致」です。
shio.icon そうではないです。
本件についてみると,まず,AはCの財産で自己の借金を返済することにしているため,824条の趣旨に反する態様の行為であるといえる。よって,代理権の濫用といえる。次に,本件の取引の相手方であるEは,Aが借金を抱えていること,及び,今回受領する600万円をそのまま借金の返済に充てることを知っていたのであるから,当該取引が子の利益を害することについて相手方が悪意であった場合にあたる。したがって,本件は特段の事情が認められるため93条ただし書を類推適用し,AE間の売買契約におけるAの意思表示を無効としAの意思表示は無効とされ(Aの意思表示は無効であり),売買契約の効力は生じない。
(3)AE間の売買契約の効力は生じないので,契約の効力はCに及ばない。契約の効力がCに及ぶこともない。
5 以上より,甲土地の所有権はCからEには移転していないため,EはA及びDに対し甲土地の所有権移転登記手続を請求することはできない。
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第2 小問(2)
1 Dは相続により土地の共有持分権を取得したことを根拠に,Fに対し丙建物収去乙土地明渡請求,及び乙土地所有権移転登記請求をすることが考えられる。
(1)乙土地の権利帰属について
ア 他人の権利を売買の目的としたときは,売主がその権利を取得して買主に移転する義務を負う(560条)。
イ 本件は,上述の通り,AE間の甲土地及び乙土地の売買契約は効力を生じないため,甲土地及び乙土地の所有権はCからEへ移転していない。平成24年3月15日,Cが事故により死亡しA及びDがCを相続したが,AD間で遺産分割協議がなされた事実は読み取れない(907条1項)。よって,乙土地はAとDとの共有状態にあると解する(898条)。平成24年3月30日,EF間で乙土地の売買契約が締結された。Eは乙土地の登記名義は有しているものの,乙土地の所有権を有していないことから,この契約は他人物売買であるといえる(560条)。その後乙土地の所有権を取得してFに移転した事実も認められないことから,Fは乙土地の所有権を取得していない。
shio.icon 「AD間で遺産分割協議がなされた事実は読み取れない(907条1項)」→これだと「読み取れない」根拠が「(907条1項)」と述べていることになりますよ。
ウ 以上より,乙土地はA及びDの共有に属する。
(2)94条2項類推適用の可否
ア Fは,不動産の売買を生業とする仲介業者を信頼して取引した者であることから94条2項を類推適用し,例外的にAE間の売買契約の効力を認め,Fに乙土地の所有権を移転することができるか,以下検討する。
イ 94条2項を類推適用し善意の第三者の利益を優先することを検討する場合には,その相手方の利益にも配慮する必要がある。したがって,相手方が虚偽の外観を作出したと同視できる場合や,虚偽の外観の存在を知りながらこれを放置したと認められる場合に限り類推適用を認めるべきであると解する。
shio.icon 「その相手方」って誰のことなのでしょうか。「94条2項を類推適用し」で始まるこの文章において、「その相手方」までに登場する人物は「善意の第三者」だけですので、「その」は「善意の第三者」を指す文章としか読めないのですが、そういう意味ですか?その後に続く「相手方が虚偽の外観を作出した……」の「相手方」も、誰のことだかわからないです。下記ウでいう誰を「相手方」に代入しているのですか?
ウ 本件についてみると,Fは新聞の折込チラシを見て仲介業者に問い合わせをした者であるからAの権利濫用行為について知る由もなく,乙土地の真の権利者からその所有権を取得できると信じて売買契約を締結した第三者である。FはAE間の売買契約の効力が生じていないという事情について善意であったし,知らなかったことにつき過失は認められない。よって,Fは善意の第三者あたるといえる。
他方Dは,AE間の売買契約が締結されたことを知らなかったため,虚偽の登記の作出に加担した事実も,これを知りながら放置したという事情も認められない。よって,Dが虚偽の外観を作出したと同視できる事情も,虚偽の外観を放置したといえる事情も認められない。
shio.icon というわけでイの問題点を解決すればここも意味が通るようになります。
エ 以上より,Eが乙土地の登記名義人であるという虚偽の外観を作出したことにつき,Dに帰責性が認められないため,94条2項を類推適用してFが乙土地の所有権を有すると認めることはできない。
(3)共有物の保存行為(252条ただし書)
共有物が他者により侵害されている場合,共有持分権者は保存行為として単独でその妨害を排除することができる。
shio.icon ここ、どう書くのがいいでしょうか。例えば「共有物の保存行為は各共有者が単独ですることができ(252条ただし書き)、自己の所有物を侵害している他者を排除することは「保存行為」に該当する。」
よって,乙土地の共有持分権を有するDは,単独で乙土地の保存行為をすることができる。
shio.icon 「よって,乙土地の共有持分権を有するDは単独で,乙土地の保存行為として丙建物収去乙建物明渡請求をすることができる。」まで言わなくていいですか?
2 以上より,Dは乙土地の共有持分権に基づき,Fに対し,丙建物収去乙建物明渡請求及び乙土地所有権移転登記請求をすることができる。
shio.icon 移転登記請求については論じなくていいですか?
2017/06/30 22:55:41 H28民法shio memo
保存行為,根拠?
権利の効力である。
所有権を持っている人は,所有権の効力として妨害排除できる。保存行為,所有権の効力である。
所有権を持っていると保存行為ができる。
妨害排除ができます。
根拠は所有権。所有権,共有。
所有権が共有になっているので,Dは,保存行為はできるか?という話。
共有持分権を根拠に,建物収去土地明渡請求をすることができますか?
tsuna答案解説
AからB,BからC,
AB,虚偽表示,Aがしたとしたら,Cは,Bから受け取ったけれど,Bは虚偽表示をしていない。
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設問2
第1 小問(1)
1 Mは,債権譲渡契約によりEH間の消費貸借契約(87条。以下,「消費貸借契約①」とする。)に基づく500万円の返還請求権を取得したことを根拠に,Eに対し500万円とそれに対する利息や遅延損害金の支払いを請求することができる。以下,詳述する。
shio.icon 87条?
2 消費貸借契約①の成否
本件で,Eは賭博の掛け金とする目的でHから500万円を借りている。賭博は刑法で罪とされている違法な行為であるため,消費貸借契約①は「公の秩序」「に反する事項を目的とする法律行為」にあたり無効である(90条)。したがって,HのEに対する貸金返還請求権は発生しておらず,HM間で締結された債権譲渡契約(466条1項)の目的債権は存在しない。
3(1)指名債権の譲渡に関して,債務者が異議をとどめないで承諾をしたときは,譲渡人に対抗することができた事由があった場合でも,これを譲受人に対抗することができない(468条1項本文)と規定されている。
(2)ア EH間の消費貸借契約は2で述べた通り90条に該当する無効な契約である。よって,EはHからの500万円の返還を請求された場合は,契約が無効であることをもってHに対抗することができた。しかし,平成26年8月7日,Eは譲渡人Hに対し,HM間の債権譲渡契約に関し「異議をとどめない」「承諾」(468条1項前段,467条2項,97条1項)をしたため,「EH間の消費貸借契約が無効である」という事由をもって譲受人であるMに対抗することができなくなった。
(3)90条に該当するという事由にも468条1項が適用されるかについて,検討を要する。
468条1項の趣旨は,異議なき承諾がなされた場合,目的債権は問題なく譲受人に移るとの期待が働くことから,本来は対抗することができる事由があったにもかかわらず異議なく承諾した者よりも,譲受人の期待を優先させる点にあると解する。この譲受人の期待は,目的債権が90条に該当する契約により生じた場合であっても変わらない。よって,異議なき承諾より譲受人に対抗することができなくなるという効果は,公の秩序に反する目的を有する契約から生じた債権の譲渡についても及ぶといえる。
4 以上より,MのEに対するEH間の消費貸借契約に基づく500万円の返還請求及びそれに対する利息や遅延損害金の支払い請求は認められる。
shio.icon 十分、論じるべきことを論じることができていると思います。
第2 小問(2)
1 Mは,HのEに対する不当利得返還請求権(703条)を代位行使(423条1項)することにより,Eに対し400万円とそれに対する利の支払いを請求することができる。以下,詳述する。
shio.icon 「利」
2 HのEに対する不当利得返還請求権(703条)の発生について
(1)まず,EはHから500万円を受領しているため,「利益」を受けたといえる。
(2)Eの「利益」はHの「財産」から交付されたものであり,Hには,500万円の「損失」が発生している。よって,「利益」と「損失」との間に因果関係も認められる。
(3)「法律上の原因なく」
「法律上の原因なく」とは,公平の理念からみて,財産の移動を当事者間において正当なものとする権利義務関係がないことをいう。
平成26年4月1日,EはHから500万円を借り受けているが,これは賭博に使用する目的であったため90条に該当する取引であり,この消費貸借契約は無効である。そのため,EがHから500万円を受領し「利益」を得たとしても,Eは90条に該当することを根拠に返還請求に応じる必要はないと主張することができる。賭博目的で500万円を借りたのはEであるのに,そのことを理由にEが500万円の返還請求を拒むことができるという帰結は,当事者間において公平であるとはいえない。よって,Eが受けた500万円の「利益」には「法律上の原因」がないと認められる。
(4)以上より,HはEに対して,703条を根拠に500万円の返還を請求することができる(703条)。
shio.icon 708条は?
3 債権者代位(423条1項)による不当利得返還請求権の行使
(1)被保全債権の存在(弁済期が到来していること)
ア MはHから,EH間の消費貸借契約により生じた貸金返還請求権を400万円で譲り受けたが,消費貸借契約は90条に該当する契約であったため,無効であり当該債権は発生していない。よって,債権を譲渡するというHの債務は履行不能であり,MはHに対し解除権を行使することができる(543条,540条1項)。その上で,解除による原状回復義務として,MはHに対し,400万円の返還を請求することができる(545条1項,同条2項)。
(2)債務者が無資力であること
債務者Hは,平成26年10月ごろ,さらに資金繰りが悪化し資産も尽きたので,多額の債務を抱えたまま夜逃げをしている。よって無資力の要件はみたされる。
(3)債務者が自らその権利を行使しないこと
夜逃げした後のHの所在は不明である。よって,HがEに対する不当利得返還請求権(703条)を行使することはないといえる。
shio.icon (2)と(3)は条文には直接規定されていないので、「自己の債権を保全するため」の内容として、この二つを要すると(本来は)規範の定立が必要でしょう。
(4)不当利得返還請求権は,一身専属の債権ではない。
(5)よって,MはHがEに対して有する不当利得返還請求権(703条)を自らが被った損害の範囲内で代位行使することができる。
4 以上より,Mは,HのEに対する不当利得返還請求権(703条)を代位行使することにより,Eに対し400万円とこれに対する利息(545条2項)の合計額の支払いを請求することができる。
shio.icon それ以外は、ここまでOK。
第3 小問(3)
1 Lは,Eに対して,584万円の支払いを請求することができる。以下,請求の根拠を説明する。
2 前提問題
平成26年4月15日,EはKから500万円を借り受ける契約(消費貸借契約②)を締結した。それに際し,Eから委託を受けたLはKとの間で消費貸借契約②から発生するEの返還債務を連帯保証する契約を書面にて締結した(446条1項,454条)け。しかし,実際には平成26年5月31日を過ぎてもKからEに対して500万円は受け渡されなかったため,要物契約である消費貸借契約②は成立していない。よって,保証債務の付従性により,KL間の連帯保証契約の効力も発生しなかったことになる。したがって,連帯保証人になるはずであったLは,Kに対して何らの債務も負わない。
shio.icon 446条1項の次に2項も入れておく必要は?
shio.icon 「454条)け」^^
shio.icon 事実を読んで、この契約は諾成型の消費貸借契約だと考えたのですが、事実を読み直すと、典型契約としての消費貸借契約と考えることもできそうではありますね。この事実から、本当に当事者の意思は要物契約なのかなとは思いますが、要物契約だとした場合、nocchiが論じている展開で良いと思います。一方、諾成型消費貸借契約だとした場合、Kに先履行義務があるので、Eの債務は履行期が未到来、と考えることになります。この事実関係からどちらの法律構成も可能な場合、必要なのは、今回の請求者Lにとってどちらの法律構成が得か、という視点です。その点、如何でしょうか。結構高度ですよね。
3 (1)LはEに対して,459条1項に基づき,Kに支払った584万円の支払いを請求することが考えられる。第3,2に記載した通り,消費貸借契約②は成立していないため,債務が発生しておらず,Eは「債務者」ではない。そうすると,LのKに対する支払いも「弁済」に当たらないため,459条1項は適用できないのが原則である。
(2)通知を怠った保証人の求償は制限されている(463条1項,443条)。この反対解釈として,通知をした保証人の求償は認められる。保証契約の効力が,主たる債務の不存在により事後的に消滅し,その事情を知らなかった保証人が弁済した場合であっても,通知をして弁済をした場合には463条1項,443条の反対解釈を類推適用し,弁済があったと認めても良いと解する。
shio.icon 要物型消費貸借契約が成立していないのでしたら、主たる債務の不存在によって保証契約の効力は「事後的に消滅」したのでしょうか。Eの債務が発生すらしていない以上、Lは何らの責任も負わず、したがって保証債務も発生すらしていないと感じます。根拠は同じく付従性です。
shio.icon
(3)本件でLはE及びKから500万円の授受がなかった事情も聞いていない。そしてKに対して584万円を支払う前にEに債務の返済状況を確認し,Eの「1円も返済していない」という返答を受けて「仕方がないので連帯保証債務を履行する。」と述べている。これらの事実から,Lは連帯保証契約が無効となった事情を知らず,債務者に通知をして弁済をした者と認められる。よって,Eは消費貸借契約②の不成立をLに対抗することはできない。
4 以上より,Lは,消費貸借契約②の弁済をしたとして,Eに対し,459条を根拠に584万円の支払いを請求することができる。
以上