刑訴百選87事件
私人作成の燃焼実験報告書
【決定要旨】
燃焼実験報告書の作成者が私人であることは明らかである。
原判決は,本件報告書抄本が火災原因の調査を多数行ってきた会社において,これに基づく考察の結果を報告した者であり,実際に実験を担当した作成者Bは,消防士として15年間の勤務経験があり,通算約20年にわたって火災原因の調査,判定に携わってきた者であることから,本件報告書抄本は,捜査機関の実況見分に準ずるだけの客観性,業務性が認められ,同項を準用して証拠能力を認めるのが相当である旨判示した。
しかしながら,同項所定の書面の作成主体は,「検察官,検察事務官又は司法警察職員」とされているのであり,かかる規定の文言及びその趣旨に照らすならば,本件報告書抄本のような私人作成の書面に同校を準用することはできないと解するのが相当である。原判決には,この点において法令の解釈適用に誤りがあるといわざるをえないが,上記証人尋問の結果によれば,上記作成者は,火災原因の調査,判定に関して特別の学識を有する者であり,本件報告書抄本は,同人がかかる学識経験に基づいて燃焼実験を行い,その考察結果を報告したものであって,かつ,その作成の申請についても立証されていると認められるから,結局,本件報告書抄本は,同法321条4項の書面に準ずるものとして同項により証拠能力を有するというべきである。
【解説】
1 伝聞証拠
供述を内容とする書面は,当該書面に記載された供述の内容の真実性を前提として,その事実が存在したことを証明するために用いられる場合には,伝聞証拠となり321条以下の伝聞例外に該当しない限り,証拠能力がない。
本件報告書抄本について検察官の提示した立証趣旨は定かでないが,・・・伝聞証拠といえよう。
2 伝聞例外
(1)321条3項準用の否定
321条3項は,「検察官,検察事務官又は司法警察職員」の「検証の結果を記載した書面」に着き,321条1項3号よりも緩和された要件(作成者の法廷での真性作成供)のもと,伝聞例外性を認めている。そして,実況見分調書についても同項の適用ないし準用を認める者が判例・多数説といえる。当該要件のみで検証調書に伝聞例外を肯定する根拠のうち,書面の性質に関わる根拠は実況見分調書にも等しく妥当することが指摘される。(刑訴百選A35事件)
本件報告書抄本に記載された内容が「本件と同様の条件のもとで添加した場合,なん分何秒後にどこまで燃えたかどうかを客観的に記述したもの」であって,性質上「実許見分調書に類似した内容」のしょめんだとすれば,書面の性質だけを見れば同項準用の余地ありといえそうである。
もっとも,実況見分調書は同項の明示する主体が作成した書面であり,その適用・準用を肯定するに際して,書面の性質だけでなく,作成主体の点が考慮れているものといえる。そうだとすれば,民間会社に務める私人の作成した本件報告書抄本にただちに同項の準用が肯定されることにはならない。