知財技能士1級28回Q20
前提知識
第4 不公正な取引方法の観点からの考え方
数量制限
ライセンサーがライセンシーに対し、当該技術を利用して製造する製品の最低製造数量又は技術の最低使用回数を制限することは、他の技術の利用を排除することにならない限り、原則として不公正な取引方法に該当しない。
他方、製造数量又は使用回数の上限を定めることは、市場全体の供給量を制限する効果がある場合には権利の行使とは認められず、公正競争阻害性を有する場合には、不公正な取引方法に該当する(一般指定第12項)。
独占的ライセンス
ライセンサーがライセンシーに対し、ライセンシーが開発した改良技術について、ライセンサー又はライセンサーの指定する事業者にその権利を帰属させる義務、又はライセンサーに独占的ライセンス(注19)をする義務を課す行為は、技術市場又は製品市場におけるライセンサーの地位を強化し、また、ライセンシーに改良技術を利用させないことによりライセンシーの研究開発意欲を損なうものであり、また、通常、このような制限を課す合理的理由があるとは認められないので、原則として不公正な取引方法に該当する
不争義務
ライセンサーがライセンシーに対して、ライセンス技術に係る権利の有効性について争わない義務(注14)を課す行為は、円滑な技術取引を通じ競争の促進に資する面が認められ、かつ、直接的には競争を減殺するおそれは小さい。
しかしながら、無効にされるべき権利が存続し、当該権利に係る技術の利用が制限されることから、公正競争阻害性を有するものとして不公正な取引方法に該当する場合もある(一般指定第12項)。
なお、ライセンシーが権利の有効性を争った場合に当該権利の対象となっている技術についてライセンス契約を解除する旨を定めることは、原則として不公正な取引方法に該当しない。
非係争義務
ライセンサーがライセンシーに対し、ライセンシーが所有し、又は取得することとなる全部又は一部の権利をライセンサー又はライセンサーの指定する事業者に対して行使しない義務(注17)を課す行為は、ライセンサーの技術市場若しくは製品市場における有力な地位を強化することにつながること、又はライセンシーの権利行使が制限されることによってライセンシーの研究開発意欲を損ない、新たな技術の開発を阻害することにより、公正競争阻害性を有する場合には、不公正な取引方法に該当する(一般指定第12項)。
ただし、実質的にみて、ライセンシーが開発した改良技術についてライセンサーに非独占的にライセンスをする義務が課されているにすぎない場合は、後記(9)の改良技術の非独占的ライセンス義務と同様、原則として不公正な取引方法に該当しない。
これを踏まえて問題文を読む
ア: 最低数量と最高数量を規定しているが、他の技術の利用を排除するものとなっていないので、原則として不公正な取引方法ではない
→× 最低数量規定に関してはその通りだが、最高数量規定は下記のとおりNG
市場全体の供給量を制限する効果がある場合には権利の行使とは認められず、公正競争阻害性を有する場合には、不公正な取引方法に該当する
ウ: × 不争義務を課すことは直接的には競争を減殺するおそれは小さい
エ: × 非係争義務を課すことは、公正競争阻害性を有する場合には、不公正な取引方法に該当する
イ: →× 独占的ライセンスなので原則的にNGである…かと思いきや
契約書の「ただし、乙による当該発明の実施は何ら制約されないものとする」が曲者
独占的ライセンスが原則NGである理由は:
技術市場又は製品市場におけるライセンサーの地位を強化し、また、ライセンシーに改良技術を利用させないことによりライセンシーの研究開発意欲を損なうものであり、また、通常、このような制限を課す合理的理由があるとは認められないので、原則として不公正な取引方法に該当する
この「ライセンシーに改良技術を利用させないことによりライセンシーの研究開発意欲を損なう」が回避されている
とはいえ問題文ではY社の事業活動と研究開発意欲についてしか触れられておらず「市場におけるライセンサーの地位が強化されること」の効果が議論されていない。
選択肢にあるように「原則として不公正な取引方法に該当しない」とまで言い切れるのか疑問
まあ、残りの選択肢がとても不適切だから、最も適切なものを選べって意味ではこれを選ぶことになるのかな…