大企業と高速企業
面白い切り口。
今まで、就職先を選ぼうとしている学生にとって「大企業」と「中小企業」というネーミングは暗黙に「大企業の方が良い」というバイアスを発生させるものであった。大企業の内定を得た学生が中小企業の内定を得た学生に大きな顔をしたり。 「低速企業」という言葉が生まれたことで、このバイアスが解消される方向に動く。「大企業に内定した」と威張っている学生に対して他の学生が「えっ、低速企業に行くの(半笑い)」などのカウンターを打てるようになるからだ。
このバイアス解消がどの程度の幅で起こるかは誰にもわからない。大した影響がないかもしれないし、逆に「低速企業に入るのはとてもダサいことだ」という考え方が学生の間に普及するかもしれない。
後者の場合、今まで大企業好感バイアスによって下支えされていた大企業のリクルーティング活動に大きな影響が出る。そのままいくつかの企業は沈没するだろうが、他の企業は人材市場の変化に合わせて行動を変えるだろう。例えば、「自分たちは大企業ではあるが高速企業でもある」と事例を作って積極的にアピールしたり。事例を作るためには、事例を作ることのできる「新しいものを生み出す人材」に高い裁量を与えるなどの「今までと異なるマネジメント」が必要になるだろう。新しいものを生み出す人材が重用されるようになると、学生の就職活動でのアピール内容も影響を受けるようになる。「バイトで副リーダーをやっていました」的な成果をアピールしても「新しいものを生み出す人材」だとは認識されない。学生たちが、学生時代の間に新しいものを作って、その実績をアピールするようになる。
落合さんは特に学生から高い支持を集めていて、「低速企業」という言葉を大学などでの講演でも使っているようだ。これは社会に大きな変化を巻き起こしうる。
一方で、「大企業に入りたかったけど入れなかった人」が大企業バッシングのためにこの言葉を使うケースも今後しばしば観測されるようになるだろう。「大企業=低速企業」と単に言い換えるのは、自分のプライドを満たすために言葉を付け替えただけであって、結局規模で判断していることには変わりない。速度が大事だということを見落としている。
規模の大きい大企業でも、高速企業になり得る。例えばサイバーエージェントは総人数としては大企業に分類される規模だが、新卒から数年で子会社の社長になる人が何人もいることで有名。これは大企業が小さい高速企業をどんどん作って若い人に経営を任せているという事例だ。
三菱UFJも大企業で、しかも銀行業だから固くて遅いと多くの人が思っているだろう。企業名ブランドを冠していないので関連に気づいていない人も多いかもしれないがJapan Digital Designを31億の資本金で作った。これも大企業が高速企業を作った事例だ。 子会社を作るところまで踏み切れていない大企業の中にも変わろうとしている企業がたくさんある。ローンディール はそれらの会社と高速なベンチャーとの仲介をする会社で、多くの大企業が自社の社員を高速企業に送り出している。これは多くの大企業が高速企業型の人材に関心を持ち、特殊なマネジメント形態を受け入れつつある事例だ。