体の拡大
抽象代数学のとくに体論において体の拡大(たいのかくだい、英: field extension)は、体の構造や性質を記述する基本的な道具立ての一つである。
数学的に厳密な話をしたいわけではないので柔らかく書くと、ある集合があって、その集合の中で成り立っている法則性があるときに、その集合の中にないものを付け加えて、かつ法則性をなるべく維持しようとすることによって、より大きな集合ができる。これがしばしば有益である。
例えば小さいときに「1、2、3、…」という数の集合を漠然とも持っていて、足し算と言う法則性がその集合の中では成り立っていた。ここに引き算という法則性を入れると、「2引く3は?」「できない!」となった。
この数の集合に「負の数」という、「-1個のリンゴが実在しない」という意味で「実在しない」数を付け加える。そうすることで引き算という法則性は、常に実行可能なシンプルな定義になる。
同じように、実在しない虚数の概念を付け加えることによって、掛け算による回転が可能になったり振動する現象の記述が容易になったりする。
数が1個だけではなく、N個並んだ「ベクトル」を考えるようになった。「(1, 2, 3)個のリンゴが存在しない」という意味でこれも実在しない数だが、速度などを表現するのに都合が良かった。
N*Mで並んだ「行列」を考えたり、もっと一般化してN*M*L*...と並んだテンソルを考え、元々の普通の数は「スカラー」であり「0階のテンソル」、ベクトルは「1階のテンソル」、行列は「2階のテンソル」と考えられるようになった。
そのほかにも「無限小」を付け加えたり「無限大」を付け加えたり、関数も数の一種としたり、などの色々な拡張が行われている。それらの拡張の中で有益なものがよく使われている。数概念が天賦ではなくプログラム同様に人が作って有益さによって評価される対象だ、というのが面白いポイント。
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