交換様式B
氏族社会の後に生まれた国家社会に関してはどうか。これはもっぱら暴力的な収奪にもとづくように見えますが、同時に、「交換」にもとづいているのです。それは、通常、交換とは見なされないけれども、服従すれば保護を受けるという種類の交換です。(注5) 国家は、暴力による征服・支配として始まりますが、それが継続的な支配となりうるのは、服従する者が積極的に服従するときです。それが可能になるのは、服従することによって保護を受けられる、つまり、支配―被支配の関係が一種の交換となるときです。それが、暴力とは異なる「力」をもたらします。この力は、被支配者だけでなく、支配者をも拘束するものです。もし被支配者を保護することができないなら、支配者はその地位にある資格をうしなうからです。その意味で、この関係は双務的(互酬的)であり、ある意味で、交換様式Aと関連するものです。 私はこのような交換様式をBと呼びます。
(注5) ホッブズは『レヴァイサン』で、万人が万人と争う「自然状態」から、社会契約によって平和状態が創り出されると考えた。この社会契約は「恐怖に強要された契約」であるという。それは交換である。というのは、服従する者は「服従を条件にその生命を得る」からである。他方、支配者はそれを実行する義務がある。この意味で、ホッブズは交換様式Bから国家を考察したということができる。しかるに、ロック以後の人々は「社会契約」をCから考えてきた。