下村治
安野 国民の所得を上げるのは非常に重要だと考えていますが、経済成長の方法は、突き詰めればシンプルに、人口が増えるか、天然資源を使うか、テクノロジーを使うか、の3つだと言われています。先の2つは日本では難しいので 、テクノロジーにかけるしかない、というのが私の基本戦略です。
これは現実味のない話ではなく、過去を振り返れば日本の高度経済成長期は非常にうまくいった例です。この時期、製造業を中心としたイノベーション――電気炊飯器、軽自動車、カラーテレビ、自動改札機など、テクノロジーを駆使した画期的な新製品が次々と生まれていました。もちろん人口ボーナスはありましたが、資源に乏しい日本がわずか7年で奇跡の「所得倍増」を実現できたのです。 計画をデザインしたのは、時の首相・池田勇人のブレーンだったエコノミスト、下村治です。海外に門戸を開くことで高い技術を導入し、国内投資を活性化させ輸出を増進させると同時に、国民の完全雇用を目指しました。「経済とは人が営んでいる」という思想のもと、国民一人ひとりにやどる「創造性」を下村は非常に重視しました。