ロビン・ハンソン
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予測市場研究のパイオニアであるロビン・ハンソンは 1990年代初頭から現在まで、数多くの論文で「市場を使って分散情報を集約し、より良い意思決定を行う」というビジョンを深めてきました。初期の「Idea Futures」から、政策決定に市場を組み込む「フタ―キー(futarchy)」、さらには自動マーケットメイカー設計や実験検証まで、ハンソンの仕事は学術理論・制度設計・社会実装を連続的に結びつけている点が特徴です。以下では主要な論文群を年代順に整理し、それぞれの貢献と論点を簡潔にまとめます。 1. 創成期:Idea Futures (1990–1993)
1990 “Idea Futures” (Extropy誌)
科学・技術・公共政策に関する命題を「クーポン」に変換し、先物市場と同様に売買することで、正直な専門家コンセンサスを得るという基本アイデアを提示。(Robin Hanson) 1993 “Decision Markets” (IEEE Intelligent Systems)
予測市場を「意思決定を伴う変数」に拡張し、政策シナリオごとの条件付き確率を集約する枠組みを提案。(CORE) 2. 政策応用:フタ―キーとPAM (1999–2004)
2.1 フタ―キー
2.2 政策分析市場 (PAM)
国防高等研究計画局(DARPA)が2003年に採択した Policy Analysis Market はハンソンの設計が下敷き。テロ発生確率などを取引対象にする案が「テロで賭けるのは不謹慎」と批判を浴び、計画は中止されたが、予測市場の精度と倫理という議論を世界に広めた。(WIRED, WIRED) 3. メカニズム設計:市場スコアリング規則と組合せ市場 (2002–2008)
年 論文 技術的貢献
2002 “Logarithmic Market Scoring Rules for Modular Combinatorial Information Aggregation”
2003 “Combinatorial Information Market Design”
条件付き・組合せ的な事象空間(2ⁿステート)全体を1つの価格ベクトルで更新できる設計指針と実装課題を整理。(Mason) 2008 “Combinatorial Prediction Markets” (COLT invited talk paper)
4. 実証・実験研究 (2006–2011)
“Information Aggregation and Manipulation in an Experimental Market” (JEBO 2006) では、実験室内で意図的な価格操作を試みても最終的な価格精度はほとんど落ちないことを示し、市場の“自己修正力”を実証。(IDEAS/RePEc) 企業内予測市場データとの比較研究(Chen & Plott 1998 等)を引用し、市場が公式予測より高精度になる傾向をまとめた。
5. 法制度とコーポレート・ガバナンス
6. 主要な論点と影響
1. 情報集約性能 — 比較研究で世論調査やエキスパート委員会より予測誤差が小さいことが多数報告。
2. 市場厚みと流動性 — LMSRによりトレーダー1人でも価格を定義できるが、コスト設定が鍵。
3. 倫理・規制 — テロや災害の“賭け”は倫理的反発が強く、対象選定とガードレール設計が必須。
4. 政策実装 — フタ―キーは理論的には強力なインセンティブ整合を持つが、価値指標の合意形成と統計計測が難所。
7. さらなる読み物
Logarithmic Market Scoring Rule (技術詳細) → hanson.gmu.edu/mktscore.pdf (Robin Hanson) DARPA PAM騒動の長尺ルポ → Wired “Darpa’s Gambling Man” (WIRED) まとめ
ハンソンの論文群は「価格=確率」を軸にした情報インフラを提案しており、学術的には情報経済学とメカニズム設計を前進させ、実務的には企業予測市場や政策評価ツールの基盤を提供しました。実装には法制度・倫理設計が不可欠ですが、予測市場が分散知を効率良く集約する技術であることは実証的にも理論的にも支持されています。