サイボウズの人事制度
2018-10-03
「サイボウズの今」がキャッチーに耳目を集めがちだけど、知識として有用なのは「サイボウズがこの10年で何をして今のこの状態になったか」だと思う。社長自身による赤裸々な失敗談の本や、社員による色々な情報発信があって公開情報だけでも大分追えるはず。 Twitter @nishio というわけでどう言う過程で発展してきたのかをまとめる意図で時系列に並べた。
忙しい人のためのまとめ
2007年に働き方を2つの選択肢から選べる制度を開始、2013年に選択肢が9分類になり、2018年に選択肢を撤廃して個々人が設定できるようになった。10年掛けて変わったのであって、最近の"働き方改革"ブームで働き方を改革したのではない。
市場評価を取り入れるアプローチは2012年から。2016年には「通過点」と自ら発信している。
講演資料+トークの書き起こし
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下記は資料的なまとめ
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1997-2001: 評価制度: 創業の1997~2001は個別評価、社長が決めていた。(中根) 2000/8: マザーズ上場。
大阪にあった本社を東京に移転。
大阪勤務の社員も全て東京転勤とし、大阪事務所は閉鎖。
2001-2002 評価制度: 2001~2002にかけて目標管理、成果主義人事制度を導入した 目標管理シートをベースに、上司と部下とで目標を話し合い、それを半年に一度評価し、100点満点で評価して賃金を決めるという形です。(山田) 2003-2005: 評価制度: 2003~2005には360度評価を取り入れた 社員が自分の評価を気にし始めて一体感が損なわれました。(中根) それまで目標管理で100点だったところを60点に下げ、他事業部の本部長からの評価を30点、本人所属の事業部からランダムに選んだ社員5人の評価を10点とし、合わせて100点満点とした...360度評価のために取り入れた同僚社員からの評価についても、評価者は半年後にランダムで決められるため、社員にとっては自分が誰からどう評価されているのかよく分からないことになる。結果として、誰とどんな仕事をすれば評価されるのかがあいまいになり、社内の一体感が希薄化し、点数だけが1人歩きするようになっていった(山田) プロセスやチャレンジを点数で示すのは難しい。「上司以外の他の人がこう言ったから、何点になった」と言われても、本人としては納得できません。...上司と部下との間に「ひずみ」ができてしまったのです。評価に対する不満が増え、せっかく採用した人たちが辞めてしまう...とにかく人が辞めないような人事制度が必要だと考えました(山田) 2005-2006: 2005年から2006年にかけて積極的なM&Aを展開
1年半で9社
会社は大きくなり、連結売上高も従業員数も倍以上になった。
しかし社内には知らない人が増え、目指す理想もばらばらになり、離職者数も急増していたのです。(中根) M&A(企業の合併買収)に手を出した...株価がガンガン上がって、時価総額が1400 億円になった。今の約7倍です。当時の利益は5億円程度なのにですよ!?...ライブドアショックでドーンと売られ。株主名簿を見たら、びっくりするくらい構成が変わっていました。...「今までの考え方でいったらダメだ」...我々のこういう会社をつくりたい、こういう世の中にしたい、という思いに賛同してくれる方だけが株を買ってください、というように方針を転換したんです。(山田) 2005/4 代表取締役社長: 高須賀→青野
2005/8 サイボウズラボ設立、社長: 畑
研究部門子会社として別の法人格、別の人事制度でスタート
50%ルール: 業務時間の最低50%を好きなテーマに使える制度 サイボウズ・ラボが設定する研究開発領域の範囲内において、自分で設定した研究開発テーマに業務時間の最低50%を割くことができるということが保証されている。「一応、『半分は好きなことをやっていいよ』というふうにしているんですが、よく見ると100%好きなことをやっているかもしれない(笑)」(青野氏)src 2005/3 ストックオプション廃止
2005/4 従業員持株会導入
2005: 離職率が28%と過去最高を記録
本部をまたぐ5人以上で部活動が作れます。部員一人当たり年間10,000円を補助
「部署を跨いだ人的ネットワーク構築」に対する投資の始まり
関連: 2008- 誕生日会 2009- 仕事Bar 2012- イベン10
2006: 評価制度: 結果重視から能力重視へ、「信頼」、「スキル×覚悟」の概念の導入 目標に対する結果を評価するのではなく、目標達成のために何をしたかという能力を評価...
「能力」だけでなく「信頼」も重要な評価軸と位置付け、目標に対する「スキル×覚悟」を評価のポイントにしている。「覚悟とは『サイボウズに対するコミットメント』。いくら高い能力を持っていても、サイボウズに興味がなければ評価はできない。
上司との面談で評価に納得できない場合、社員はその上の上司、さらには人事部にも相談できる
2006: 最長6年の育児介護休暇
妊娠がわかった時点から取得できる最長6年間の育児・介護休暇制度を設けました
2005年に第一子を出産する女性社員が現れたのです。まさに離職率が高かった頃ですから、「できれば辞めたくない」と言ってくれる人が長く働ける方法を作ろうということになり、急遽2006年に「労働時間を選択可能に」しました。
2007-2018 選択型人事制度
当初は2分類、のちに 3分類、2013年に9分類になる。2018年に一人一人個別に設定できるようになり終了。
従業員の長い人生におけるさまざまライフイベントを考えると、成果重視型だけでは従業員の満足度や働くモチベーションを高めるのは難しい。「成果重視の働き方」「年功重視の働き方」の両方を用意することが重要
大企業でよく取り入れられている「総合職制度」と「一般職制度」だが、男性向けの制度、女性向けの制度と考えられがち。これを並列にし性別や職種に関係なく自由に選択できるようにする。どちらを選択するかは、あくまで個人が決める
2008-2009
2008年から2009年にかけてやったのは、買収した会社を売却したり、事業を整理することでした。並行してより多くの人がより長く、より成長して働ける、ワークスタイルの多様化のための制度を充実させていきました。(中根) 2008- 誕生日会
誕生日会に一人あたり3,000円を補助します。
2008- ポスドク採用
2008 長期視点の新規プロジェクトがいくつも開始される
サイボウズ自身が、新たな戦略を打ち出さなくては生き残れないと考え、2008年からは、いくつものプロジェクトをスタートさせました。その成果が出たのが、2011年だった(青野)
2009- 仕事Bar
リラックスした雰囲気の中、真面目に仕事の話をする「場(Bar)」に、飲食費を支援する制度です。部署をまたぐ5人以上の会が対象。一人あたり1,500円を補助します。
2010-2012 在宅勤務制度
当初は月4回という制限がありましたが、2012年8月より下記「ウルトラワーク」制度を開始したため回数や場所の制限はなくなりました。
サイボウズの在宅勤務制度試験導入レポート
2011/03/11 東日本大震災、多くの社員がフルリモートワークに。この時、意外と問題なく仕事が進んだことや、リモートワーク体験者が増えたことによって、リモートワークの方針に弾みがついた
2010- 部内イベント支援
部内での飲み会等に一人あたり年間10,000円を補助します。
2010/08 社長の第一子誕生と育児休暇
きっかけは2010/02
文京区の 成澤廣修区長(44)が2週間の育休取得を宣言したことを知った。「Twitterで(区長の育休取得について)つぶやいたところ区長にフォローされ、そのうち一緒に飲みに行こうということになったんです」。成澤区長から「企業の人もぜひ育休取得を」と勧められた社長。「会社の宣伝にもなりそうだし、おもしろそうだし」と"なりゆき"で心を決めた。
8月下旬に育休を取得することにした青野社長。2週間の休暇のため毎晩夜遅くまで働き、「力尽きるような状態」で育休に突入。
育休中は1日2時間だけは仕事をしたいと予定していたが、そんな余裕もなかなかなかった
この経験を経て社長の価値観に変化が起きる
2週間の育休中に「育児とは何か」を考え続けたという青野社長。その結論として「育児は仕事より明らかに大切なもの」と言い切った。「育児をしない社会だと子どもが育たず市場が縮小する。育児ができて市場ができてみんなが楽しく暮らすなかでようやく商売人は商売ができる」
2010/10/30 サイボウズラボ、水道橋にあった本社オフィスに合流。入居していたビルの建て替え工事のため。
サイボウズ・ラボユースは、世界に通用する日本の若手エンジニアの発掘と育成を目指すことを目的とし、学生の若手クリエイターに研究開発の機会を提供する場として、2011年3月31日に設立されました。
学生個人のソフトウェア研究開発プロジェクトを会社が応援する
アルバイトともインターンとも毛色が違う
IPA未踏ユースを参考に作られた
年間103万円を上限にサイボウズが奨励金を支払う
成果物の著作権は個人に帰属
2012- ウルトラワーク
選択した働き方から異なる働き方を、“単発で”することをウルトラワークと定義
私を含め、サイボウズの社員の半数近くは裁量労働制です。それでも、ウルトラワークの試行前は昼間の移動中に寝てしまうことに少々申し訳なく感じていました。ウルトラワークで変わったことといえば、会社が勤務時間の自由を謳うことでこうした点を気にしなくなったことでしょう。(野水)
2012/08 からウルトラワーク試験導入 2013/07から本導入(src) 2012- 育自分休暇制度
最長6年の「育自分休暇」を取ることができる
育児休暇が最長6年であることに合わせたもの
2012- 副業許可
社長より給料の高い人を雇おうとして、コミット時間を減らす提案をされたのがきっかけ src 龍太さんから副業をさせてほしいと話が合った時に、僕は山田さんと「副業を認めよう」と腹をくくった…サイボウズではすべての副業を認めるということになりました。
2012- イベン10
本部をまたぐ10人以上で、業務時間外に行う単発のイベントに対し、費用の半額を一人あたり上限2,000円まで補助します。
部署をまたいだコミュニケーションの支援
2012- 市場評価を人事評価に取り入れ始める
2012頃から現在にかけては「市場価値を取り入れた評価」を取り入れ運用しています。「人材市場においてこのキャリアの場合はいくらの給与を得るのか」も含めて給与を決定するのです。
2013 9分類の選択型人事制度
2013年頃になると、社内の働き方は多様性の度合いが増していきます。勤務時間はまちまち。いつも会社に来ている人がいれば、たまにしか来ない人も出てきました。こうした状況を整理し、働き方のラベルを「時間」と「場所」を軸とした9分類に増やしました。その中から自分の希望を選択し、周囲にも宣言するという形にしたのです。src https://cybozushiki.cybozu.co.jp/images/graph_02%20%281%29.png
2013- ハッカソン
ラボ主催での学生向けのイベント
12月に本社でもハッカソンが行われた
以降毎年続いている
社員が3日間、自発的に定めたテーマについて研究開発をし、発表する
2014/8- 子連れ出勤制度
2015 休日に業務に役立つイベントに参加する場合、業務として参加し休日出勤扱いにすることができる
業務に役立つ技術系イベントへの業務としての参加を推奨
業務として参加する場合、交通費や参加費を支給
休日に参加する場合は休日出勤(=給料が出る)
業務外で参加したい場合は業務としての参加を強制することはない
この方針を明確に打ち出したのは2015年
それ以前も業務としての参加を禁止していたわけではない
しかし業務として参加したいと申し出る人はほとんどいなかった。
自分が参加したいだけのイベントに業務で参加してもいいなんて誰も思わなかったのでしょう。
2015/6 U-29採用
彼は大学を卒業後の2年間、青年海外協力隊でバングラデシュに行き、帰国後に既卒として就職活動をしました。すごく優秀なのですが、既卒となるとなかなか間口がなく、応募先すら限られていた
例えば海外に留学したり、スポーツでオリンピックを目指したりしてきた人は、優秀なのに就業経験がないために機会に恵まれないことが多い。そういう面白い経歴を持つ方を、積極的に採用しますとメッセージを出せば、もっと応募が増えるのではないか
2015/12/18
青野社長が挫折を赤裸々に語った本で、変革のきっかけが何であったかを理解するのに有用
私が社長になった2005年、社員の離職率は28%に達した。...原因の1つは労働環境だった。
...ハードな働き方を拒む人がいても、「我々はITベンチャーですよ。何がしたくて入ってきたんですか?」と、こんな調子で考えていた。
...しかし、挫折を経験した後の私は考え方が変化していた。社員が楽しく働いていないことは重要な問題だと思い始めていた。
複業って...「今日はA、明日はB」とか、そんな感じだと思っていたのですが、実際はもっと重なっているんですね。ミックスされていて、どこがサイボウズでどこがダンクソフト...かよくわからない。だけど分けることにはあまり意味がなくて、僕らはサイボウズの部分だけでなく、むしろ龍太さんの活動全体を見て、「それいいね」とか「もっとこうして欲しい」とか言ったほうがいいみたいだな、と感じるようになりました。(青野) 龍太さんが他の仕事をしていることで、サイボウズのクラウドの新たな適用場所が見つかってきています。農業でのIoTをダンクソフトさん経由でうまくやっているとか、サイボウズの今までの経験ではできなかったことが、複業している人によって一気に枝が伸びるという効果が出ているんです。経済学者のシュンペーターは、イノベーションを「新結合」と定義しているそうです。複業って、正にその新結合を生み出すものですよね。会社の中にないものを外の世界から引っ張ってきて結合できる、これこそがイノベーション。そう考えると、みんな僕の知らない世界で複業して、どんどんイノベーションを加速してくれればと思うくらいです(青野) 2016/01 51歳の執行役員が社長から「副業したら?」と言われる
もらう側が「なぜその金額を欲しいのか」を説明する責任もある(山田)
2016/03 狙って赤字を出して社長がドヤ顔をする
「狙って赤字を出し、ドヤ顔している上場企業の社長」というのが珍しいのだと思う
2016/03
先日、厚労省のプロジェクト「働き方の未来2035」で「企業の副業禁止規定を禁止しよう」と話したら、同じ日に未踏会議で夏野剛さんが同じことを話しておられた。ついに副業の時代がきたと感じた。 龍太さんは転職前、僕よりも給料が高かった...龍太さんからは「じゃあコミットする時間を少なくします」(src) 2016/4
1年間
成長とは逆の方向に経営を振り、働いている人が徹底的に働きやすい環境を作ってみました。業績が上がらなかったらやめようと思っていたけど、幸か不幸か少しずつ業績が上がっているのが今です(山田)
複業採用では他社(あるいは個人事業主など)で既に仕事を持ちながら、ご自身のキャリア開発の一環、あるいはサイボウズへの共感を前提として複数の仕事を持つことを目指す方を主な対象としております。 そうです。働き方が多様化していきますと、条件が違いすぎて、社員同士を比較するのは難しくなってきます。勤務時間が長い人、短い人、在宅勤務の人など、同じ給与テーブルで比較することが難しい。ですから、その人の給料を決める場合は、市場性を基準にするしかなかったんです。(青野)
nishio.icon逆に言えば給与テーブルがある会社は働き方が多様ではないということか
サイボウズの組織構造は、よくあるヒエラルキー(階層型)組織...通常のヒエラルキー構造は縦割り組織として仕事が進み、指示は上から下へと降りることが多いですが、サイボウズでは、「人材育成や評価」は部署の中の縦のライン、「グループウェアの開発やマーケティング」は部署を超えた横のラインで実行されています。
自社製品であるグループウェアを使って、全社や他部署のほとんどの情報にアクセスできるので、高い透明性で情報が流通している
どんなやりとりも可視化されていることで、「この会社ではこういうことが重視されるのか」「こういうケースはこういう結論になるのか」など自社の風土・文化を全員が高速で学習する装置になっている
組織構造が特殊なのではなく、グループウェア活用度がとても高いことによる、風通しの良い情報共有が特徴という話
2017 全員に給与交渉の時間が明示的に与えられた(2016までは「やりたい人が上長と調整して」だった) src 2018/3/1 出版
2018/4 新・働き方宣言制度
9分類の選択型人事制度を廃止、一人ひとりが自由に「自身の働き方」を宣言し実行する
「2分類」や「9分類」といったように、働き方をラベル分けしたことは、サイボウズにとって大きな意味を持っていました。それぞれの働き方にラベルをつけることは、多様な働き方を「並列」に認めるということを意味しています。それは結果的に「長時間働く人が偉いんだ」という空気をなくすことにつながりました。
ただ、この「ラベル分け」の役割はもう終わりました。わざわざラベルで分けなくても、「それぞれの個性や人生を尊重する」という風土が社員の間に浸透してきたのです。
給与に対して納得感を持って働くためには、まずは自分の市場価値を知るところから始めなくてはいけない
市場価値は意外とアバウトに決まっている
2018/9 OSSポリシー
業務時間中であっても指示なく自発的に作ったソフトウェアは個人のもの
たとえばRustの勉強をしたいエンジニアがいたとして、担当業務でRustを使っていなかったとしてもRust本を購入可能です。
多分2015年以前からだと思うがいつからかは不明
2018/6/27
人事管理に情報システムを活用している話
サイボウズの人事制度に対して「給与テーブルがないと負担が大きい」的なコメントがつくことがあるが、給与テーブルなしで回る仕組み作りをしている 2007年には3分類からの選択、その後9分類に増えて、2018年から1人1人個別、なので10年近い「人によって働き方が違う状態のマネジメント」の蓄積がある
2018/10
自分たちの作ってきた組織を記述するのにティール組織という言葉がフィットするのではないかと考え始めた時期 -----
「100人いれば100通りの働き方があってよい」とするとき問題になるのが「評価」です。サイボウズでは創業期から評価制度が変遷してきました。創業の1997~2001は個別評価で、社長が決めていました。2001~2002にかけて目標管理、成果主義人事制度を導入しましたがうまく行かず、2003~2005には360度評価を取り入れましたが、社員が自分の評価を気にし始めて一体感が損なわれました。
各年代ごとに散らした方が良いと思ったので分割した