アイデンティティポリティクス
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アイデンティティポリティクス(identity politics)
人種・民族、ジェンダー、セクシュアリティ、宗教、階級など、自らが属する「アイデンティティ集団」を基盤にして政治的要求や連帯を形成する立場・運動を指します。従来のイデオロギー(左派/右派、労資対立など)よりも、「私たちは○○の当事者だ」という帰属意識を出発点にするのが特徴です。
歴史的背景
1960–70年代の米国公民権運動・第二波フェミニズムが出発点。既存の大衆運動が白人男性中心だったため、黒人解放運動やウーマンリブが「自らの声で語る」必要を強調しました。
1980年代には学術界で「マイノリティ研究」やクィア理論が台頭し、政治実践と理論が相互強化されました。
1990年代以降、多文化主義やポストコロニアル理論と結びつき、「差異の承認」や制度的配慮(アファーマティブ・アクション等)を求める枠組みが拡大しました。
主な目的
代表性の確保
国会・企業・メディアで同集団の当事者が不当に少ない場合、クオータ制や採用目標などを要求する。
制度的不平等の是正
差別禁止法や同性婚法制化など、特定集団が被る構造的な不利益を法制度で解消する。
文化的承認
ステレオタイプやヘイトスピーチへの対抗、歴史教科書修正、記念日の制定など「記号的正義」を重視する。
批判と論点
普遍主義批判
「社会全体」より部分利益を優先し、連帯を分断する危険がある(フランシス・フクヤマ等)。
本質主義批判
「女性」「黒人」などを単一カテゴリーで語ると、内在する多様性を無視しがち(キンバリー・クレンショウの交差性〈intersectionality〉議論)。
ポピュリズム批判
エモーショナルな被害者意識が過剰動員を生み、合理的討議を弱める可能性。
バックラッシュ
白人労働者や多数派男性が「逆差別」と感じ、右派ポピュリズムを強化するという指摘。
まとめ
アイデンティティポリティクスは、不可視化されてきた当事者の声を政治アジェンダ化する力を持つ一方、社会を細分化し対立を深めるリスクも伴います。実践上は「差異の承認」と「共通善の構築」をどうバランスさせるかが核心課題と言えるでしょう。