「詐欺は社会正義」ナラティブ
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概要
特殊詐欺(オレオレ詐欺など)の末端実行役 ── いわゆる受け子・出し子── に罪悪感を抱かせないため、首謀者が「高齢者が溜め込む“死に金”を若者が使って経済を回すのは社会正義だ」といった“再分配”ナラティブを意図的に刷り込んでいる例が複数の取材・ルポで確認できます。以下に主要なエビデンスを整理します。
1. “再分配”という自己正当化ストーリー
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元かけ子チームリーダーの証言
「年寄りは裕福、若者は貧乏…死に金を俺らが活かす、貧乏人に再分配する。現代版ネズミ小僧だ」
news-postseven.com
詐欺グループ研修の内情
「罪悪感を払拭する正当化理論を組織が植えつける」
vice.com
ルポ『老人喰い』紹介
「高齢者の預金2000万円は“合理的ターゲット”で、若者は“正義の仕事”と信じる」
(ichijyo-bookreview.com)
ルポ『特殊詐欺』
“再分配”をうたう自己啓発型ミーティングで動機付け
chikumashobo.co.jp
Web記事(森鷹久)
「死に金を貧乏人に再分配する」とうそぶく加害者の実態
(news-postseven.com)
小結
加害者は「格差是正」や「ネズミ小僧」的イメージを掲げ、被害者を“余裕のある層”と位置づけることで自身を“社会正義の担い手”にすり替えています。
2. 罪悪感を薄める組織的“教育”の具体像
自己啓発セミナー型研修
コンビニ前で疲れた労働者を見せ「こうはなるな」と刷り込む → 詐欺以外の将来を絶望的に演出 (vice.com)
肩書き付与と成果主義
末端にも「主任」「課長」等の肩書きを配り“正社員的”自己効用を喚起 (news-postseven.com)
“被害者意識”の注入
「我々は年金ももらえない弱者」と反転させ、被害者を加害者に見立てる構図 (news-postseven.com)
これらは犯罪学でいう “中和技法 (techniques of neutralization)” ──「否定された被害」「より高い忠誠への訴え」── の典型です。
3. 勧誘段階での“闇バイト”プロパガンダ
SNSで「簡単にもうかる」「高時給」広告
(fukuishimbun.co.jp)
未成年受け子の約75%が“楽に稼げる”誘いで参入
大阪府警の啓発資料も「ノーリスク高収入」と騙す手口を列挙
(police.pref.osaka.lg.jp)
高校生が“バイト感覚”で逮捕された事例
(asahi.com)
4. 受け子・出し子の心理と実態
ハングリー層が中心 – 「小銭のためにリーマンはやらないが“デカい金”なら真面目に働く」 (news-postseven.com)
組織からの離脱は困難 – 脱退希望者に「カチコミに行く」と脅迫する例 (fukuishimbun.co.jp)
若者のバイト化 – 検挙された少年の9割が受け子という警察統計
5. まとめと示唆
取材ルポや元犯人へのインタビューから、**「高齢者の死蔵資産を再分配する社会正義」**という物語が末端にまで流布していることが裏付けられた。
こうしたナラティブは、犯罪組織が動機付けと罪悪感の中和を目的に体系化した“教育プログラム”として機能している。
勧誘フェーズでは「楽して稼げる」宣伝で若者を取り込みつつ、参加後は“社会正義”を掲げて倫理的ハードルを下げる二段構え。
対策としては、金銭的インセンティブだけでなく「正当化ストーリー」の危険性を啓発する必要がある──単に「犯罪です」と言うだけでは中和技法に太刀打ちできない。
これらの資料は、オレオレ詐欺組織がいかに巧妙に経済的欲望+道徳的言い訳を融合させて若者を動員しているかを示しています。