Blenderを例に見るOSSプロダクト継続性の仕組み
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## Blenderを例に見るOSSプロダクト継続性の仕組み
### 1. 歴史 – 「Free Blender」から始まった継続性の土台
* 2002年、商用版 Blender を開発していた NaN 社が倒産。創始者 Ton Roosendaal はソースコードと商標を買い戻すには 10 万 € が必要と投資家に交渉し、コミュニティとともにクラウドファンディング **“Free Blender”** キャンペーンを実施。わずか7週間で目標額を達成し、GPL で公開されたことが現在の OSS 体制の出発点となった (docs.blender.org1)。 ### 2. ガバナンス構造
| 組織 | 役割 | 継続性への寄与 |
| ------------------------------ | ---------------------------------- | --------------------------------- |
| **Blender Foundation** | 法人格・商標管理・寄付受け皿 | 中立性と信頼の確保 |
| **Blender Institute / Studio** | コア開発者雇用、LTSビルド・ドキュメント整備、オープンムービー制作 | フルタイム開発者の安定雇用/新機能検証 |
| **Developer モジュール制** | コードオーナーを明示し、レビューとロードマップをモジュール単位で管理 | ナレッジ集中を防ぎバス係数↑ (blender.org2) | ### 3. 資金モデル
| 主な流入 | 仕組み | 最新規模 |
| ----------------------------------- | ------------------ | ----------------------------------------------------------------------------------- |
| **Blender Studio サブスク / グッズ販売** | オープンムービー素材・チュートリアル | 開発者雇用の追加財源 |
| **助成金・一括寄付** | Epic MegaGrant 等 | リスク分散 |
年間寄付総額は 2022 年 2.17 M→2023 年 2.55 M→2024 年 2.93 M USD と右肩上がり (Reddit5)。Foundation 年報でも 2023 年収入 2.5 M €・前年比 +20 % と報告 (download.blender.org6)。 ### 4. リリース戦略
* **四半期リリース**:通常版は約4 か月ごと。
* 明確なカレンダーでユーザーの業務ツールとしての信頼性を確保。
### 5. コミュニティとエコシステム
* **コード貢献**:モジュール制 + RFC/Code Review で質と速度を両立。
* **Add‑on 市場**:GPL 互換を保ちつつ、外部サイトで商用販売可能。エコシステムの経済圏が開発者を呼び込む。
* **オープンムービー**:実運用で新機能をテストし、成果物を無償公開。マーケティングと QA を兼ねる。
### 6. 継続性を支える要因
1. **コミュニティ主導の“所有”感**
* 初期に「買い戻し」を支えた当事者意識が今も寄付文化として残る。
2. **多層的な収益構造**
* 小口寄付+企業会員+制作スタジオ+グッズで“単一スポンサー依存”を回避。
3. **中立的ガバナンス**
* 財団と商標の分離により、いかなる企業にも過度に左右されない。
4. **プロダクト管理の透明性**
* 公開ロードマップ・議事録・リリースサイクルが明確で、長期利用計画を立てやすい。
5. **ユーザー価値への一貫投資**
* UX 改善や LTS 保守に資金を優先配分し、「無料だから不安」を払拭。
### 7. OSS プロダクト継続のヒント(Blenderから学べること)
* **資金源を“寄せ木細工”に**:少額の裾野を広げつつ、大口スポンサーには明確な見返りを提示。
* **ガバナンスを透明化**:権限と責任を文書化し、コミュニティが監視できる仕組みを用意。
* **実プロジェクトで“食べる”**:Blender Studio のように OSS を使った制作事例を自ら作り、改良サイクルを早める。
* **長期サポート版の提供**:業務利用者が安心して投資できる環境を整える。
* **ブランドとストーリー**:Free Blender の物語が“寄付したくなる理由”を今も提供している。
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Blender は「コミュニティが買い戻したソフト」を出発点に、明快なガバナンスと多層的な収益モデルを築くことで、20年以上プロダクトを進化させ続けている好例と言えます。自社プロダクトを OSS 化したい場合も、**資金・ガバナンス・リリース戦略をセットで設計すること**が継続性の鍵になります。