Agentic RAG
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Agentic RAG(Retrieval-Augmented Generation)の定義と特性
Agentic RAGは、従来のRAG(外部知識の検索を組み合わせたテキスト生成)の枠組みに自律的なAIエージェントを組み込んだものです。通常のRAGは一連の静的な手順で情報検索と生成を行いますが、Agentic RAGではエージェントが能動的に振る舞い、複数ステップの推論や動的な情報収集を行えるように設計されています。
主な特性は次のとおりです。
自律エージェントの統合: 情報検索パイプラインの中にエージェント(LLMベース)を組み込み、ユーザの質問に対して最適な検索戦略を自主的に計画・実行します。
高度な設計パターン: エージェントは内省(reflection)・計画立案(planning)・ツール使用(tool use)・マルチエージェント協調(multi-agent collaboration)といった手法を活用し、必要に応じて検索クエリの改善や新たな情報源の探索を繰り返します。 柔軟性・適応性の向上: 静的なワークフローに縛られないため、複雑なタスクや段階的な推論にも適応できます。これにより柔軟性・スケーラビリティ・状況認識が飛躍的に向上し、より幅広い応用分野(医療・金融・教育など)で利用可能になります。
最新情報への対応: インターネットなどからリアルタイムでデータを取得して統合できるため、静的な訓練データに頼るモデルよりも最新かつ文脈に沿った回答を生成できます。
こうしたAgentic RAGの概念は、マルチステップの推論やツール使用を組み合わせる「ReAct」アプローチなどの流れとも関連しており、生成AIをより自律的かつ強力にする次世代の枠組みと位置付けられています。 o3-mini-high.icon
1. 背景と課題
従来のRAGは、LLM(大規模言語モデル)の生成能力に外部の情報検索を組み合わせることで、静的な知識の限界(古い情報や文脈不足)を補います。
しかし、シンプルなキーワード検索や一方向的なワークフローでは、複雑な多段階推論や動的な状況対応が難しく、文脈の統合や応答の精度に課題がありました。
2. Agentic RAGの特徴
自律的意思決定と反復処理
エージェントが、検索結果の評価(リフレクション)、タスクの分解(プランニング)、外部ツールの活用、そして複数エージェント間の協調によって、動的にワークフローを最適化します。
柔軟なワークフロー設計
プロンプトチェイニング、ルーティング、並列処理、オーケストレーター・ワーカー、評価–最適化など、タスクの性質に合わせた複数のパターンが提案されています。
3. RAGの進化過程と分類
Naïve RAG → Advanced RAG → Modular RAG → Graph RAG → Agentic RAG
初期の単純なキーワードベースの手法から、意味的な検索(Dense Retrieval)やグラフ構造を利用した手法へと進化し、最終的にエージェントを組み込むことで動的な適応能力を獲得しています。
シングルエージェント、マルチエージェント、階層型、補正型、適応型、さらにはグラフ統合型など、目的や応用領域に合わせた多様なアーキテクチャが分類・検討されています。
4. 応用例と実装支援ツール
応用領域:
カスタマーサポート、医療診断、法務・契約分析、金融リスク評価、教育分野、さらにはマルチモーダル(画像・動画含む)情報処理など、多岐に渡る実世界のシナリオに適用可能です。
ツール/フレームワーク:
LangChain、LlamaIndex、Hugging Face、CrewAI、OpenAI Swarm、Vertex AI、Semantic Kernel など、既存のエコシステムを活用しながら、エージェント統合型システムの構築を支援する各種ライブラリが紹介されています。
5. 評価基準と今後の課題
ベンチマークとして、BEIR、MS MARCO、HotpotQAなどが示され、エージェント間の連携、計算資源の効率化、倫理面への配慮など、実用化に向けた課題も明らかにされています。
まとめ
Agentic RAGは、従来の静的・直線的なRAGシステムの限界を、エージェントの自律的な意思決定と多段階推論により克服し、より柔軟かつ文脈に即した情報生成を実現する新しいパラダイムです。これにより、リアルタイム性や複雑なタスクへの対応力が大幅に向上し、グループウェアなど知的生産性向上を目指す分野での活用が期待されます。