AIが仕事を奪うのではない
2017-11-20
AIという主体が能動的に人間の仕事を奪うイメージを持つ人が多い。早すぎる擬人化だ。AIが自由意志を持って活動するようになる前に、まず人間に使役される時代がある。AIを使役できない人間が、AIを使役できる人間に駆逐されるのだ。 技術の進歩はたしかに一部の仕事を陳腐化させる。例えばニット自動編み機は手編み職人の仕事を奪った。これは正確に言えば「自動編み機を買うことができる資本家が、手編み職人の仕事を奪った」のである。ラッダイト運動では機械の破壊が行われたが、社会の変化は止まらなかった。なぜなら変革の主体は技術や機械ではなく、それを使う人間だったからだ。 いま商業的に起こりつつある変化は大まかに言えば3つだ。
AdaGradなどの最適化手法の発展によって、レイヤの多いニューラルネットの学習が可能になった。畳みこみによるパラメータの節約などの工夫と相まって、ニューラルネットの学習によって画像認識の精度が格段に上がった。これにより、今まで「人間が目で見て判断しなければいけない」という理由で機械化が進んでいなかった分野を機械化することができるようになった。 これを推し進めたい主体は、現時点で「目」を目的として大規模に人を雇っていて、疲れずミスをしない「目」が手に入ると生産性が向上するような雇用主だ。駆逐されるのは「目」としての貢献しかしていなかった人間だ。
大規模なコーパスを背景に、統計による自然言語処理の精度が上がった。上記の深層学習の進歩も相まって、機械翻訳の精度が上がりつつある。これによって「完璧でなくてよい、ざっくり訳してほしい」というニーズに対しては機械化が進みつつある。 これを推し進めたい主体は、言語の壁がなくなることによって利益を受ける、言語の異なる複数地域に事業所を持つ企業だ。駆逐されるのは、高い専門性や質の高さなどを持たない、一般的な文章の翻訳しかできない翻訳家だ。
WebRTCなどを始めとする、インターネットを介して動画・音声を双方向通信する技術の進歩、インターネットを介した情報共有やタスク管理技術の進歩により、リモートワークやパラレルワークのコストが下がっている。これによって、今までは所在地が物理的に離れていることが原因で協業できなかった人や組織の間の協業が盛んになっている。 これを推し進めたい主体は、多様なスペシャリストと協業したい組織である。これによって駆逐されるのは、今まで物理的距離の障壁によって守られていた「さほど高いスキルを持つわけではないため市場では大した価値を持たないが、社内では一番詳しいので高く評価されている人」である。