漫画と技術進化
紙と鉛筆とペンで修練を積んできた私のような高齢マンガ家から見たら、パソコンと液タブでマンガやイラストを描く作業は、AIとのスピードと量の差異はあれ、同じことですよ。
昭和前期に出たマンガの技法書には、「ペンを使うなんてけしからん(筆を使え)」という記述もありました。手塚治虫先生は「トーンを使うなんて手抜きだ」とおっしゃっていた時代もありました。青枠が印刷された市販マンガ原稿用紙の使用を「手抜きだ」と行ったマンガ家の先生もおりました。
私がアシスタントを目指して練習した掛け網の技術も、トーンの重ね張りや削りの技術も、いまやタブレットの上で簡単に再現できます。私もその恩恵に預かっていますが、アナログチックに描きたいときは、タブレットの上でフリーハンドで流線を引いたりしています。
添付の画像は、最初の2枚が18歳(高3)のとき、アシスタントをめざして掛け網を練習した習作です。残り2枚は20歳のとき、少女マンガ家の西谷祥子先生に頼まれて描いた戦記マンガの背景です。こちらではトーンの重ね貼りによるグラデーションやトーンの網点をホワイトで消すボカシの技法などを使っています(この頃までトーンの模様は糊面に印刷されていて、削れなかった)。
この当時(1970年頃)は、スクリーントーン1枚が1,200円もして、切れ端も残しておいて大事に使ったものでした。その後、マンガの画材として広く使われるようになると国産メーカーも参入し、安いトーンも販売されるようになりました。その安売り合戦に負けて、元祖のレトラ社(スウェーデンだったかな?)は日本市場から撤退。その後、マンガがパソコンとタブレットで描かれるようになり、トーンの模様もクリック一発ですむようになると、画材のトーンは発売を停止し、市場から撤退していきました。 マンガの技術や道具にも、このような死屍累々の歴史があることは、できたら知っておいてください。そうすれば、将来のことも、より冷静に見られるようになるかと思います。