展示即売会で展示されているフィギュアを3Dスキャンすると著作権侵害か?
3行まとめ
複製権の侵害です
3Dスキャンであるかどうかや精度は関係なく、写真を取るだけで侵害です
写真も3Dスキャンも著作権者の承諾を得てからやりましょう
まずフィギュアは美術の著作物であって、最近作られたものだから著作権が切れてないとする。
Q1: 「公開の場にあるものだからスキャンしてもいいんだろ?」
(公開の美術の著作物等の利用)
第四十六条 美術の著作物でその原作品が前条第二項に規定する屋外の場所に恒常的に設置されているもの又は建築の著作物は、次に掲げる場合を除き、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。
この条項は、展示即売会が「屋外の場所に恒常的に設置」ではないから、該当しない。
というわけで複製権の侵害を考えてみよう。
(複製権)
第二十一条 著作者は、その著作物を複製する権利を専有する。
この複製は以下のように定義されている。
第二条 十五 複製 印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製することをいい、次に掲げるものについては、それぞれ次に掲げる行為を含むものとする。
Twitterを見ていると、スキャンした後3D出力をするかどうかとかの議論をしている人がいるけど、そもそも写真を取っても著作権侵害だからね?
スキャン精度とかの話もズレてて、スキャンしたものを見て元の著作物の内容を覚知できたら似てるとみなされうるので、3Dとして出力できる精度じゃなくても類似と判断されるでしょう。
対象物がもとの著作物に類似しているかどうかは、もとの著作物の本質的な特徴を対象物から直接感得することができるかどうかという基準や対象物からもとの著作物の内容や形式を覚知させるに足りるかどうかという基準によって判断されることがあります。
あ、複製の定義の中の「有形的に」という言葉が気になる人がいるかもしれない。この「有形的」という言葉は全法令の中で著作権法のこの部分に1回だけ出現する未定義語だ。なので何を意味するのか明瞭じゃないけど、ソフトウェアの違法コピーなど「物理的な物になっているかどうか」とは無関係に複製権の侵害に問われる判例がわんさかあるわけだから「3Dプリントしてなければ複製ではない」って主張は苦しいと思う。勝てると思うならぜひ法廷へどうぞ。
その他のQ&A
Q: 購入した物なら3Dスキャンしてよいか
A: 物の購入は、その物とお金を交換する契約をしただけであって、複製権の許諾契約をしたわけではない。
なので展示物を勝手にスキャンするのと同様に著作権侵害
ただし私的使用のためならOK
(私的使用のための複製)
第三十条 著作権の目的となつている著作物(以下この款において単に「著作物」という。)は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる。
3Dスキャンして、3Dプリントして、それを販売したら「販売」の段階で明らかに私的使用ではなくなるのでNG
ちなみに3Dスキャンに限った話ではなくて、購入物の写真を取ってブログに上げるのも複製権の侵害です。
慣習的には無許可でやられてると思うけど、慣習的に無許可で二次創作してる人がいるのと同じ状態
売り手が「購入者に写真を取って公開することを許諾します」って一言書いておけばスッキリする
3Dスキャンを禁止したいなら「3Dスキャンは許諾しません」って書いとけばいい
なにも書かれていない場合はデフォルトで「禁止」である
Q: 二次創作の場合はどうか?
A: 原著作物の著作者が同じ権利を持っている
(二次的著作物の利用に関する原著作者の権利)
第二十八条 二次的著作物の原著作物の著作者は、当該二次的著作物の利用に関し、この款に規定する権利で当該二次的著作物の著作者が有するものと同一の種類の権利を専有する。
二次創作者がどの程度の管理義務を負うのかは原著作者から利用許諾を受ける際の契約しだい
たとえば「イベント当日の販売に限って許諾を受けている」というケース
3Dスキャンとは無関係な話で、たとえば販売していたものを万引き犯に盗まれてしまった場合に、その万引き犯がイベント当日以外にそれを販売したことに対してあなたが責任を負うことになっているのか?
もう一歩進めて、イベント当日にあなたから合法的にフィギュアを買った人が、イベント終了後にオークションサイトに出品などした場合に、あなたは責任を負うことになっているのか?
あなたが自信を持てないのなら契約相手に確認して、責任を負わない旨明記してもらうしかない。
Q: イベント主催者として、3Dスキャンをする人がいた場合に何ができるか?
A: 複製権の侵害には罰則規定がある
第百十九条 著作権、出版権又は著作隣接権を侵害した者...は、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
で、現行犯人は警察官でなくても逮捕してよい
刑事訴訟法
第二百十二条 現に罪を行い、又は現に罪を行い終つた者を現行犯人とする。
第二百十三条 現行犯人は、何人でも、逮捕状なくしてこれを逮捕することができる。
第二百十四条 検察官、検察事務官及び司法警察職員以外の者は、現行犯人を逮捕したときは、直ちにこれを地方検察庁若しくは区検察庁の検察官又は司法警察職員に引き渡さなければならない。
著作権侵害の現行犯として捕まえて、警察官に引き渡せばよい。
大げさな話に聞こえるかもしれないが、スーパーで万引き犯を見つけた時の対処と同じ。
でも、実際に起きてから現行犯逮捕をして警察で事情を説明して…とやるのは結構高コスト
だから万引き抑止のポスターと同じように「無許可での3Dスキャンは現行犯逮捕して警察に引き渡します」って掲示して抑止力を発揮していくのがよい。
Q: スキャンしたデータの著作権はスキャンした人にある?
A: はい、その通り。写真撮影をした場合に写真家にその写真の著作権があるのと同じです。
一方で、その著作権の有無と、撮影・スキャンが合法であるかどうは別の話です。
Q: フィギュアに著作権はあるのか?
A: あります。
意匠の制度を持ち出して「立体物に著作権はないのでは」的なことを言う人がいますが、そこの切り分けは「立体物かどうか」ではありません。
まず著作物の定義を見ましょう。
(定義)
第二条 一 著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。
意匠制度が何のためにあるかというと、工業製品は「文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」ではないため著作物ではないからです。
一方でフィギュアは美術の範囲に属するものですし、思想又は感情を創作的に表現したものでもあるので著作物です。
原型を作るのは彫刻作品を作るのとほぼ同じ工程ですよね。それをたくさん複製するので「工業製品なのでは?」と思う人もいるのかもしれませんが、小説だって原稿用紙に手書きした1点ものじゃなくて印刷機で大量複製したものを販売します。どちらも著作物を複製して販売しているわけです。